誕生
第一章 旅立ち
第一話 「誕生」
また意識が繋がった……なのに何故身体は動かないんだ……。
何年?感覚的には何百年、いや、もっと……。
意識だけが彷徨ってる感じだ……。
いったい俺は何歳になっているんだ……。
ーーーーー
俺が小6時の全国道場少年剣道大会当日。
前年の大会で個人戦優勝の俺は、今年も優勝を狙っていた。
実際、俺は優勝にかなり近い位置にいたと思う、昨年より9センチ背が伸び、ナチュラルに筋力も増している。
俺が通う道場の師範とだっていい勝負が出来る。
なので今年ではなく、来年中学生になった年に、個人戦で優勝するのを目標にしていた。
まぁ、先の事はいい。
今年、取りこぼしのないようしっかりと気を引き締めて行こうと、朝、家を出た。
俺に剣道を進めたのは俺の爺さんだった。
爺さんは月花流古武術の7代目。
古武術は約250年前、無手で剣士と戦う為に編み出された体術。
俺も物心がつく頃にはもう爺さんから古武術の稽古を教わっていた。
そして三年前、敵の動きを知るのも勉強と、爺さんは俺に剣道を進めた。
俺は剣道にハマった。
古武術と違いメジャーなスポーツなので子供の大会だってあるのがいい。
爺さんは少し寂しそうだけど、別に古武術の稽古だって手を抜いている訳ではない。
でも爺さんは8代目を継がずに警察官になった父さんの代わりに俺を8代目にしたいようだ…。
その日の朝もいつも通り。
柔軟に体幹トレーニング、指先の強化トレーニングを基本練習とし約1時間。その後に爺さんと軽く乱取りをして稽古は終了。
そして朝早くに仕事に行った母(警察官)が作り置きした朝飯を食べて家を出た。
会場まで行く前に道場に寄ってから行く。
この辺りは海岸沿いで潮の香りと波の音が心地よい。
いつもの道、いつもの景色、いつもの信号待ち。
ふと思う、俺はこの世代では間違いなくトップ。
剣道は日本が作ったスポーツ。当然、世界で日本が1番強い。
その日本で1番強いと言う事は、グフフフ……言わなくてもいい、それ以上は顔がニヤける。
などと気が緩んでいた訳でもない。
プァァァ〜ン! と甲高いクラクションにハッと横を向く。
右折車を避けようとトラックがクラクションを鳴らしながら急ハンドルで歩道へと突っ込んで来たのだ。
右折車にガチャーンとぶつかりながらも直に俺に向かうトラック………。
死の危機からか動きがスローモーションのようにゆっくりで鮮明だ。
でも、ゆっくりならやれる事はある!
俺は軽くジャンプして身体にグッと力を込める。
直後にガンッとトラックにぶつかった。
この痛みはマズイ! 瞬間そう思った事を覚えている。
でも……意識は刈り取られてない!
何処をどう吹っ飛んだのか、何かにあたり俺は止まった。
大丈夫、意識はある。 今年は無理でも来年なら……。
そんな考え虚しく、俺を追いかけるようにトラックが……。
今でもはっきりと覚えている。
トラックのバンパーに驚いた顔の運転手。
その後は散漫な記憶、サイレンの音、爺さんの声、ほんの一瞬の母さんの泣き顔、後は……隣のクラスの美咲か⁈ 泣き声が聞こえた気がする。
ーーーーー
それから俺はたまに繋がる意識に逆に悩まされている。
どうして身体に戻れないのか? いったい俺は何年寝たきりなのか?
集中治療室で寝てるって事は家族は死ぬほど心配しているだろう。
特に爺さんは俺との時間が長い。
忙しい両親の代わりに俺を色んなところに連れて行ってくれた。
だからせめて爺さんが生きてるうちに俺の意識を身体に移してくれ。
俺はここにいる!
久しぶりに意識が繋がったその日、俺は不思議な感覚を覚えた。
急に吸い込まれる感覚の後、海の中に潜っているような感じ。
瞬間的にもうすぐ意識が身体に戻れる、そう感じたのだ。
でも、長い年月寝たきりだったのだ、俺は起きれても剣道や武術を出来る身体ではないはず。
それでもいい。
心配をかけた事を両親や爺さんに謝りたい。
何より皆んなの顔を見たいんだ……。
その後も期待してただけに長かった。
たまに誰かの声が聞こえて、奮い立つような感覚になったけど、何を言っていたのかは分からない。
ひたすら水の中にポコポコといる感覚も、時間とともに居心地の良さを感じていた。
予告もなく、その日は来た。
急に目の前が明るくなり、色んな人の声が聞こえた。
慌てる声や泣き叫ぶ声まで……。
俺はやっと身体に意識を取り戻せた。
まだ、目は殆ど見えないけど、明るさは感じる。
でも……何を言っているんだ、この人達?
俺は抱えられてる? 明らかに俺に話しかけている女の人(看護婦?)が俺の背中をバンバン叩いた。
余りにも久しぶりの痛みだったので、不覚にも泣いてしまった。
「オギャー、オギャー」
えっ? ……これって俺じゃないよな。
「チギャーゥ、二ギャーィ」
俺だ……。
まさかと思い少し泣き声をアレンジしたのだ。
俺はやはり死んでいた。
本当はいつもそう思っていた。でもその答えを否定してきた……だって意識は死んでなかったから。
現実を見よう。
俺は死に、そして産まれてきた。




