6 VIP待遇
リアクションの取り方が分からず、とまどう俺を、美女は優しく導いた。
「立ち話も何ですし、後は、くつろぎながら、お聞きください。
迎賓館で、説明させていただきます。」
迎賓館って、これまた大層な。
それとも、本当に俺は、迎賓館に招待されるようなVIP待遇なのだろうか?
美女が指し示す先には、小さな建物があった。
俺は、誘われるがまま、案内された部屋へ入った。
迎賓館と聞いて、鹿の頭などが飾られている暖炉の部屋を思い描いたが、それとは少し違った。
部屋の中は、漫画・アニメ・ゲーム・フィギュアなどのコレクションが、ところ狭しと、几帳面に飾られていた。
中央には、大きなテーブルが、鎮座している。
ゆったりめの4人席で、それぞれの席ごとに、大画面のモニターが設置されている。
椅子は、ハイグレードなゲーミングチェアだ。
高級志向の漫画喫茶といったイメージで、ここなら、いくら待たされても、快適に過ごせそうだ。
さすが、ヲタクをもてなす迎賓館といったところか。
「一番奥の椅子へ、おかけください。
お荷物は、隣の席にどうぞ。」
美女の言葉を受け、俺は、着席した。
目の前のモニター画面は、真っ黒で、何も映っていない。
美女が、向かいの席に立った。
「大竹まもる様。ようこそ我が国へ、お越しくださいました。
改めまして、私は、入国審査官の愛野みちると申します。
我が国では、仲間同士を名前で呼び合うことが、慣例となっております。
VIP待遇の大竹様も、本日より正式に、私達のお仲間です。
今後、私のことは、みちると、お呼びくださいませ。
私も、まもるさんと呼ばせて頂きます。
会ったばかりの名前呼びなど、照れくさいことは重々承知ではありますが、よろしくお願いいたします。」
名前呼び?
俺は、誰からも誘われたことがない真正のボッチだ。
そもそも、人から呼ばれることがない。
よっぽどの用事がある時だけだし、ましてや、親以外から名前で呼ばれるなんて、あり得ない。
そんな俺が、誰かを名前で呼ぶなんて、とんでもないハードモードだ。
照れくさいどころの騒ぎではない。
さりとて、こんなことで真っ向から逆らうのも、大人気ない気がする。
ええい!
ここは、「郷に入っては郷に従え」だ。
少し大人になった俺は、ハードモードへの挑戦を心に決め、ペコリと頭を下げた。
「分かりました。
初めまして、みちるさん。
こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
く~っっっ!
やっぱり、照れくさい。
名前呼び童貞を卒業した俺の顔は、真っ赤になった。
みちるさんは、軽く微笑みを浮かべながら、会釈した。
そして、何事もなかったかのように、
「それでは、この国について、簡単に説明しますね。」
と言いながら、席に着き、テーブルの上にあるパスワード表を指し示した。
「タブレットやノートパソコンをお持ちでしたら、Wi-Fiに接続してください。
パスワードは、『dream-land』です。」
俺は、ノートパソコンを取り出し、電源を入れ、Wi-Fiを開いた。
chu-ney free_wifi・・・
これだな。
パスワードは、『dream-land』と。
「接続しました。」
みちるさんは、軽く頷き、
「それでは、モニター画面をご覧ください。」
と言いながら、俺のスマホを手元のケーブルに接続した。
そして、悪戯っぽく微笑んだ。
「ちなみに、画面に映し出される内容は、私の側から、ま~ったく見えません♪
安心して、ご覧くださいね!」
ん?
どういうこと?
俺は、疑問符を浮かべながら、大画面を見つめた。