3 大富豪
混乱している俺の様子を見て、添乗員らしき女性が、クスッと笑う。
「冗談ですよ。招待状をお持ちの、大竹まもる様ですね。」
冗談?
何が?
「は、はい。」
俺は、おずおずと、スマホ画面を見せた。
俺の困惑を察してか、添乗員らしき女性は、先ほどのやりとりについて、説明を始めた。
「ご提示、ありがとうございます。
我が国は、秘密厳守をモットーとしております。
ところが、どこで聞きつけたのだか、先ほどのように、噂を突き止めようとする人々が、後を絶たないんです。
ドレスコードは、そういった一見さんを、お断りするための方便なんですよ。」
いやいや、やり方が、まわりくど過ぎるでしょう。
「一見さんを断るのが目的なら、招待状の有無で判断すればいいと思いますけど。」
添乗員らしき女性は、待ってましたと言わんばかりの、したり顔になった。
「ところが、そう簡単な話では、ないんです。
突然ですが、トランプゲームの大富豪は、ご存じですか?」
大富豪?
ホントに突然だな。
「フォーカードを出したら革命が発生して、カードの強さが逆転するゲームのことですか?」
「はい。まさに、その、大富豪の革命です。
わが国では、まるで、大富豪の革命のように、カーストが逆転しております。」
「カースト?
あの、一軍・二軍とかいう?」
忌々しい、スクールカーストみたいなやつか。
もちろん、俺は、最下層。
三軍にすら、入れてもらえないかもしれない。
「その通りです。カーストの頂点といえば、一軍リア充ですよね。
ところが、カースト逆転の我が国では、リア充が最下層なんです。」
「そんな馬鹿な。
俺なんて、三軍にすら入れてもらえない最下層。
大富豪の革命でカーストが逆転したという理屈なら、俺みたいな奴が頂点ってことになりますよ。」
添乗員らしき女性は、意味深な眼差しで、俺を見つめる。
「その通りです。我が国では、大竹様のような本ヲタこそが、尊敬に値するVIPなのです。」
俺のような『本ヲタ』こそが、尊敬に値するVIP?
つまり、『本ヲタ』とは、大富豪の革命によって立場が逆転した、一軍リア充と対極の元最下層。
察しの悪い俺でも、さすがに理解した。
「本ヲタってのは、ヲタクの尊称というわけか。」
添乗員らしき女性は、誇らしげに、大きく頷く。
「はい。我が国は、リア充お断りの、ヲタク国家なんです。
招待状を持ってないという理由だけで、大竹様のように立派なオーラをお持ちの本ヲタまで、門前払いしてしまっては、貴重な人材の流出に、つながりかねません。
ですから、上司の判断を仰ぐために、ひとまず、ご乗車いただきます。
先ほどのように、服装でリア充だと判断することができれば、乗車拒否させていただきますけど。」
なるほど。リア充を排除するためのドレスコードというわけか。
バブル時代のディスコでは、ヲタクっぽい服装だと入店拒否されたって話を聞いたことがある。
まさに、大富豪の革命のような逆転劇だ。
しかし、何か引っかかる。
「立派なオーラって、何?
俺の服装は、ドレスコードをクリアできるほど、ヲタクっぽいってこと?」
添乗員さんは、悪戯っぽく微笑み、スルーした。
そして、『痛バス』の中へと、俺を誘った。
「さぁどうぞ、ご乗車ください。
夢の国 チュウニーランドへ、ご案内いたします。」