-008- シャルロット・ガレル
突然の戦いの申し込み。
ガレルは仁王立ちをして私を見据えている。
「えっと……どうして戦わなくちゃいけないの?」
「俺がお前より強いことを証明するためだ」
なんだそりゃ。
「いいから来い!」
「えっ、ちょ、ちょっと!」
まだ私なにも言ってないんだけどー⁉︎
……まあ、この様子だとどうせ断っても無駄だろう。
私はしょうがなくガレルについていき剣術訓練場へ向かった。
◆
「ルールは普通の手合わせと一緒だがいいか?」
「……」
訓練場につき早速勝負を始めようとするガレルに私はジトーとした視線をおくる。
なんなんだこいつは、人の意見を聞かないで。
はぁ……シャルロット・ガレルという人間はもっとこう……武士道のようなものを心に宿しているthe騎士みたいなのを想像してたのに。
なんという失望感。
「おい、聞いてるぞ」
「あーはいはい、いいですよ」
「よし、始める」
ガレルはそう言って木剣を私に放り投げる。
剣術……魔術ほど得意じゃないがそれでも3歳のころから1日たりとも欠かさず剣を振ってきた。
年齢の割に戦えるほうだと思う。
よし、この偉そうな男をボコボコにしてやる。
「この鐘がなったら開始だ」
ガレルは手合わせ用の鐘をセットし、木剣を構える。
私も木剣を握りしめて構えをとった。
一秒、二秒、三秒――
カーン
鐘がなると同時にガレルは突進してきた。
間断なく剣を振ってくる。
私はそれらをひとつひとつ見切りながらさばいていった。
……なるほど、さすがはシャルロット家の息子。
これだけの猛攻撃を受けると大抵の生徒は十秒以内に沈むだろう。
恐るべきスピードだ。
そして、攻撃は最大の防御ということなのか、私が攻撃できる隙がない。
ガレルは猛撃するが私に届かず、私は防御するが反撃できず。
このままでは泥沼だ。
だが、私は必要最低限の動きでガレルの剣をさばいている。
それに対してガレルは全力で攻撃を続けている。
この猛撃がいつまでも続くはずがない。
ガレルの体力が無くなってきたあたりが狙い目だ。
そして案の定、試合開始から10分を超えたあたり、ガレルのスピードが落ちた。
攻撃の手が緩めば、私も反撃ができる。
私はガレルが振り下ろしてきた剣をさばくのではなく、大きく弾いた。
それによってガレルは体勢を崩す。が、すぐに立て直そうとする。
だけど、私もその隙を見逃すほど甘くない。
ガレルが体勢を崩している間に三撃ほど入れ、ガレルは尻餅をついた。
「私の、勝ちね」
はぁはぁと息をきらしながら剣先をガレルへと向ける。
ガレルはしばらく呆然とした後、すごく悔しそうな顔で私を睨んだ。
「っ!」
それを見て、一歩、下がる。
ガレルの瞳には明確な敵意が映し出されていた。
怖い。
私は敵意に敏感だ。
私に向けられる敵意が怖い。
死を、連想させるからだ。
だから、このガレルの視線も、怖い。
「そ、それじゃあ、私はこれで」
私はそそくさとその場を後にしようとする。
だが、
「待て!」
当然というか、ガレルは私を呼び止める。
「……何?」
私は振り返らない。
「もう一回だ!」
「……嫌」
「はぁ? どうして!」
「……嫌なもんは嫌なの!」
私はそう叫び、走って剣術訓練場を出た。
「おい、待て!」
後ろから聞こえるガレルの声は無視してとにかく逃げた。
寮の自室に戻ってくると、私はへたりと座り込んだ。
「こ、こわかったぁ……」
まだ足が震えている。
今でも私に負かされたガレルの顔が鮮明に思い浮かぶ。
あの視線。あの瞳。
シャルロット・ガレル。
強引で、負けず嫌いで、負けたら相手を思い切り睨む。
あまり関わりたくのない人物だ。
◆
私の気持ちなんて知らずに、ガレルは毎日私に勝負を挑んできた。
うまくかわせる日もあるが、捕まったらもう逃してくれない。
そんなときは、速攻倒して速攻帰る。
ガレルは、毎日、負けるたび、私を睨んでくるのだ。
私が睨まれるだけで足が震えるほど怖いことなんて知らずに。
私は、ガレルとの戦いが他のどんなことよりも憂鬱に思うようになった。
そんなことが一ヶ月ほど続いたある日。
私はキレた。
「おい、シフォン。勝負しにいくぞ」
ガレルのその言葉に周りはまたか、と苦笑する。
ガレルが毎日私に勝負を挑み、その度負けているというのはこのAクラスの周知の事実だ。
「シフォン、はやく」
「なんなのっ、あなた!」
ガタン、と立ち上がりガレルに叫んだ。
「毎日バカの一つ覚えてみたいに勝負勝負って! 誰もがあなたみたいに勝負が好きだなんて思わないでよ!」
「シ、シフォン?」
ガレルは目を丸くし、周りはざわつく。
私はポロポロと涙をこぼしていた。
泣き止もうにも、泣き止めない。
「あなたはいっつもいっつもすごい勢いで突っ込んでくるけど私だってあれすごく怖いんだからね! それに、負けた後睨むのだって! 私だって女の子なんだから男の子に睨まれたらすごく怖いの!」
「ち、ちが……俺は……」
「もう私に話しかけないで! 関わらないで!」
ガレルは、私が泣いたからか動揺している。
周りがさらに騒めくのがわかった。
私は居た堪れなくなり、涙を撒き散らしながら教室を出た。
◆
翌日。
「おい、シフォン」
プイッ
「なあって」
プイッ
「……」
私はガレルを無視し、避けることにした。
ガレルは、めげずに私を追いかけてくる。
なんなんだこいつは。
それから、私とガレルの追いかけっこがはじまった。
逃げて、追いかけられて、また逃げて。
そしてその状態がしばらく続いたある日。
「シフォン、話したいことがある」
私は、追い詰められた。
後ろは壁、窓はなし。
ガレルはじりじりと滲み寄ってくる。
「近づかないで!」
そう言うが、ガレルは聞かない。
「ほんとに、少しなんだ。頼む、聞いてほしい」
そう言って、ガレルは私の左肩をつかんだ。
「いやっ!」
私は思わず風魔術を使ってしまった。
ドゴン!
すごい、音がした。
ガレルは私の風魔術によって吹き飛ばされ、壁に衝突し、膝からバタンと倒れた。
「ガ、レル……?」
返事はない。
動かない。
私は恐る恐る近づき声をかけるがガレルは目を覚さなかった。
「ど、どうしよう……」
「何事だ!」
私がおろおろしていると音を聞きつけた先生が走ってきた。
「これは一体……」
先生は現場を一通り見渡してから私へ声をかけた。
「ハトサブル・シフォン。説明を」
「……私が、風の高位魔術をガレルに行使しました」
退学。
そんな言葉が、私の頭をよぎった。