表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/82

-081-

 翌日。早速私はエンマとの特訓を始めた。


「エンマはなんの魔術が使えるの?」

「火」

「それは知ってるよ。私が聞きたいのは、どの種類の魔術をどのレベルまで使えるのかってこと」


 そういうと、エンマは押し黙った。


「おーい?」

「……」


 しばらくして、ようやく口を開く。


「他の魔術は、つかったことねぇ」

「えっ」


 えっ!

 確かに、火以外使っているところ見たこと無いけど……


「使えないの!?」

「使ったことないたけだ!」


 くわっ、と言い返すエンマ。

 いやいや同じ意味でしょ……

 信じられない。今の私は複数種類の魔術を同時展開するのが常となっている。加えて量や温度、様々な要素を掛け合わせることで多様な攻撃を生む。一種類の魔術で戦うなんて、とても通用しない。


「な、なんで」

「必要なかったからな」


 ふん、と鼻を鳴らすエンマ。

 必要ないって……一種類の魔術しか使わないってことはつまり……


「エンマ、初級魔術師なんだね」


 そういうと、エンマはむっとした顔になった。この言い方があまり好きではないらしい。

 一般に、三種類以上の魔術で中級を取得すると中級魔術師になり、上級を取得すると上級魔術師になる。

 なぜ魔術師の位階が種類数に依存するのか。それは、それだけ使える魔術の種類の数が総合的な実力に直結するからだ。だからみんな一種類を極めるより先に、浅く広く訓練をする。私もそうだった。そうすることが、強くなることへの近道。そう、教えられた。


 おそろしい。

 彼はこの常識を覆し、特塾へ乗り込んだ。

 そんな彼が他の魔術を覚えた日には……


「? なに笑ってるんだ?」

「……んーん、なんでもない」


 これは、楽しみだ。

 目の前の原石を見ながら、そう思った。


 ◆


 とりあえず、火と相性のよい風の魔術から始めることにした。

 私ははじめて魔術を使う人用の、ごく一般的な説明をする。

 エンマは実践するが、苦戦しているようだ。


「……できねぇよ」

「そんなすぐにできるわけないでしょ。できるまでイメージするの」


 とはいえ、すでに火魔術を扱えている。生まれて初めて魔術を発動させるというわけではない。発動できるようになるまで、そう長くはかからないだろう。

 訓練を始めて数時間、エンマは風魔術を発動することに成功した。


「どうだっ!」


 誇らしげに見せてくる。子どもか。


「熱い……」


 エンマの生み出す風は熱かった。

 こうも個性がでるものなのか。

 ひとまず、発動はできた。第一段階突破だ。

 でも、発動だけで満足してもらっては困る。


「エンマ、しばらく火魔術禁止ね」

「はぁっ!? なんでだよ!」

「そりゃ、訓練のため」


 私はにやりと笑う。


「火魔術なしで、ここらへんの魔物に勝ってみせなよ」


 ぐぬぬと、エンマは顔を歪ませた。


 ◆

 エンマは意外なほど素直だった。

 私の言葉通りに訓練をし、たまに顔をしかめることがあっても基本的には反抗しない。完全に心変わりしたようだ。

 そして今、一匹の魔物に苦戦している。その魔物は、特塾の生徒からしたらとるにたらない存在。苦戦の理由はいたって単純。エンマは風魔術しか使っていない。


「くそっ」


 エンマはなかなか倒せないこの状況に悪態をつく。

 だが、まったくもって歯が立たないというわけではなかった。このあたりの魔物は街の近くと比べ強力である。その魔物につい最近取得したばかりの魔術のみでやっていける。その成長スピードには目を見張るものがあった。

 エンマは、とにかく魔術の出力が凄まじい。火魔術でそれが顕著であったが、風魔術においてもそれは健在だった。強力な風を生み出し、相手を圧倒的する。

 がしかし、出力だけでゴリ押すのでは限界がある。


「はぁ、はぁ……」


 なんとか魔物を倒し終えたエンマが近づいてくる。


「遅かったじゃん」

「っ、お前な……!」


 私がけろりとした顔で言うと、エンマは思いっきり顔を歪ませた。

 エンマの指導を始めて数日。私は鬼コーチと化していた。ブレッドのときもそうだが、育て甲斐があるとつい厳しくなっちゃうんだよね……

 私は魔術を指導することと同時に、あることを指導している。


「反省は?」

「……魔術の威力は十分にある。だが現状での攻撃手段は主に突風による打撃。ダメージを蓄積することができても留めをさすことができねぇ」


 あることとは、言語化能力。

 戦いを反省し、それを言語化してもらっている。この言語化の訓練を通して自分の課題を自覚するのと同時に、エンマのコミュニケーション能力を改善させる。ついでに言葉遣いもなおす。

 最初こそお話にならなかったが、最近はきっちり建設的な会話ができるようになってきた。あと悪口も減った……気がする。


「不足点は?」

「風をもっと多彩に使う力……つまり、技術だな」

「加えて、知識量ね。あの魔物はお腹が脆い。それを知っていればもっと早く終わったよ」

「……」


 エンマは恨めしい目でこちらを見てくる。だが、追求はしない。彼はもう自分の弱さを受けいることができるのだ。


「どうしたらいいと思う?」

「……風魔術の使い方、おしえろ」

「おしえろ?」

「おしえて、ください」

「よろしい」


 私は満足げに頷いたのだった。


 ◆


「おうおうエンマ、風魔術うまくなりたいんだってな! いいぜ、この俺になんでも聞けッ!」


 そう胸をはるジーク。

 それを目の前に顔を歪ませるエンマ。

 私は、風魔術を教えるのをジークにお願いした。

 もちろん、ある程度は私がおしえることもできたが、私は、エンマに他のみんなとも仲良くなってほしいのだ。


「誰がてめぇの教えなんかいるか!」

「エンマ!」


 嚙みつこうとしたので、それを制す。

 エンマは、プライドどの葛藤を顔に滲ませながら、頭を下げた。


「……教えて、ください」


 それをみたジーク、そして近くにいたルーゼは目をまるくした。


「おいおい、お前が頭下げるなんてどういう顔の吹き回しだ? 明日には槍が降るかもな、はっはっは」

「ばかにしてんのか!」

「エンマ!!」


 またすぐ嚙みつこうとするので、それを止める。


「犬かよ」

「犬ね」


 がるる、というエンマにジークとルーゼは半笑い。

 やがてジークは真剣な表情で言った。


「エンマ、ばかになんてしてねぇぜ? 俺は感心してんのさ。過去の自分と決別するってのはそんなに簡単なことじゃねぇ。今まで積み重ねてきたものをぶっ壊すのには、それなりの勇気と覚悟が必要だ。それをこの短期間でやってのけたお前を、俺は心から尊敬しよう」


 そうやって、ジークはエンマの肩に手を置いた。


「任せろ。俺がお前に風魔術のすべてを叩き込んでやる」

「ふん、すぐにお前を食い尽くしてやるからな」


 こうして、エンマとジークの特訓が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ