-079- 衝突
「ロフラ、大丈夫か?」
ジークがロフラに声をかけている。結構強めの戦闘があったらしい。
「平気。回復薬飲んだから」
特塾はかなり高級な治癒薬をくれるので、大体の怪我は治すことができるのだ。
私たちは戦闘が終わったあと、一か所に集められた。どうやら反省会をするらしい。
ウィッカ先生は全員が落ち着いたのを見て口を開いた。
「色々言いたいことはあるが……まず、アンドル・ジーク。赤チームの指揮をとっていたのはお前だな」
「……あぁ」
「敗因を言ってみろ」
敗因……なんだろうか。
私たちは色々バタバタしたけど、各所では最善を尽くした感じがする。
じゃあ、どの段階に改善の余地があるのかというと……
「……作戦立案を疎かにしたことだ」
「その通りだ。お前たち、真面目に作戦を考えなかっただろう。アンドル・ジーク、お前たちが立てた作戦について言ってみろ」
「先手はとる、攻めの姿勢でいく、くらいだな」
「そうした理由はなんだ」
「そりゃあ、守りを固めるのは俺の性に合わないからだ」
「そこだ」
ピシッと、ウィッカ先生は指摘する。
「お前たちが浅はかだったのはそこだ。作戦を立てるときには様々なことを考慮することが必要だ。それを自分の性で決めるだと? お粗末にもほどがある」
そう言われたジークは、少しムッとした顔になる。
「自分に合った戦法ってのは大事だろ」
「ああ、確かにな。我は大事だ。これがなければ人は成長できない。だが、それを作戦に反映させるには、広い視野と深い思考が必要になる。ただ単に自分の好きなように作戦を立てればいいというわけではない」
ここまで言われると、ジークは押し黙った。
ウィッカ先生は今度はロフラの方に向いた。
「クリオル・ロフラ。お前たちの作戦を説明してみろ」
「……相手チームの性格を考えると攻めに重きを置いてくること、こちらのチームに防衛戦が得意なペンとジャイガがいることから、私たちがとるべき作戦は引いて戦うこと。ペンとジャイガにコンビを組ませて、守りを固める。そして相手を消耗させる。細かい所まで言えばもっとあるけど、大まかな作戦はこんな感じ」
「……まあ、及第点だな」
ロフラたち、そんなにしっかりと作戦を立ててたのか……。
でも思い返してみれば先手をとったはずなのにいつの間にか後手に回っていた。あれも、作戦通りだったのだろう。
「お前たちの悪かった点は、作戦の段階で大きく優位をとっているはずなのに、アンドル・ジーク、アンドル・ルーゼ、ハトサブル・シフォンの三人に戦況をかき回されたことだ。普通、あれだけ作戦に差があれば圧勝するものなのだがな」
「……」
ロフラは拗ねたように唇を尖らした。
「それじゃあ、細かいところを指摘していく」
そして、ウィッカ先生からのダメ出しは二時間続いたのだった――
◆
ウィッカ先生からのありがたいお言葉も止み、私たちはお互いの感想を言い合っていた。
「それにしても、ペンとジャイガの演技にはやられたよー。やられたふりなんて、想像もしなかった」
「うまくいってよかったです。……でも実は、死んだふり作戦は第二の策で、ベストは僕ら二人でシフォンさんとルーゼさんを無力化することだったんです。……負けたのはとても悔しいです」
「え、そうだったんだ! いつから作戦切り替えたの?」
「……やられる直前ですよ。それまでは本気で勝つつもりでした」
「なるほどなぁ。そういう作戦は、全部ロフラが考えていたの?」
「そうですよ。……結局、全部ロフラさんの読み通りでした。やっぱりあの人はすごいです」
すると、その言葉に反応したロフラが近づいてきた。
「なになに、私を褒めてくれるの、ペン?」
「……尊敬してるって話です」
ロフラは嬉しそうな表情を浮かべた。
そこへジークも近づいてくる。
「俺たちはお前の手のひらの上だったってわけか。完敗だぜ、ロフラ」
「いや、そうでもないよ。ウィッカ先生も指摘してたけど、シフォンとルーゼが侵入してきたところとか、ジークを仕留めきれなかったところとか、想定外のところは多くあった。……ジーク、よく最後まで魔力もったね」
「やーまじでやばかったぜ? もうすっからかんだ」
「なら、ちょうどいいな」
急にウィッカ先生が割り込んでくる。
その顔は、非常に意地悪そうに笑っていた。
「忘れていないか? これのことを」
そういうウィッカ先生の手には、魔力回復薬が……
私とジークは後ずさりする。
いやだ、それだけは……
「確か三本だったな。さあ、飲め」
三本の瓶を手渡される。
ロフラとペンに助けを求めるように見つめるが、
「ちゃんと飲みなよー」
「……」
ロフラは面白そうに笑ってる。ペンはそれをみて苦笑い。
くそう、薄情者ー!
魔力を使って、回復薬を飲んでの繰り返し。
そのトレーニングは過去一きつかった。
◆
地獄のトレーニングを乗り越えた頃には日没が近づいてきていた。
その前に今日の晩御飯を確保しないと。
そこで、私はあることを提案した。
「今日、みんなでご飯食べようよ!」
それにジークが賛同する。
「おぉ、いいじゃねぇか。熱い戦いの後の飯はうまいからなぁ! それでいいよな、おまえら」
ジークはみんなに呼びかける。特に反対意見もなさそうだ。
「エンマも、それでいい?」
私はエンマに声をかける。
エンマは私を睨んで吐き捨てるように言った。
「俺には関係ねぇ。勝手にやってろ」
「そういわずに、ね? 一緒に食べようよ」
「誰がお前なんかと食べるかよ。話しかけてくんな」
「……そっか」
……別にそんな言い方しなくていいじゃん。そんなはっきり拒絶されると、私だって傷つくよ。
私は一息ついてから、みんなの方に顔を向けた。
「じゃあ私食べ物獲ってくるよ! 元気だし!」
「私もいくわ」
と、ルーゼ。
ロフラやペン、ジャイガは負傷してるし、ジークも結構ダメージを負ったからお留守番。
「私も行こうかな」
ベルが名乗り出てくれる。
「ほんと? ありがとう。 テナはどう?」
「構いませんが」
「じゃあ一緒にいこっ!」
メンバーは十分揃った。
私たちは四人で今日の晩御飯をとりに向かった。
◆
残されたのは六人。ガナッシュ、ロフラ、ペン、ジャイガ、ジーク、エンマ。
さっきまでは賑やかだったのに、シフォンが去った瞬間場は沈黙に包まれる。
みんな疲れていて口数が少ないというのもあるだろうが、やはりシフォンがいないと会話が弾まない。
ロフラはあの天真爛漫な少女の笑顔を思い浮かべる。
曲者揃いの特塾で生徒間での衝突が少ないのはシフォンのおかげだ。
彼女がうまく潤滑油となって、組織としてまとまっている。
魔術剣術双方において優れている彼女だが、その社交性が一番の長所と言えるだろう。
微妙な空気の沈黙を破ったのは、ジークだった。
「エンマよぉ、もう少し俺たちと交わろうって気はないのか」
彼は組織のリーダーとして、エンマのことを気に掛けているのだろう。一人だけ孤立している状況というのは、好ましくない。たとえ、彼自身がそれを望んでいたとしても。
「無い。話しかけんな」
「んー……そうは言ってもさぁ、せっかくシフォンが誘ってくれたのに」
「知るか、あんな雑魚」
にべもない対応に、ジークは困ったように笑う。
そこで、一人の少年がエンマに一歩近づいた。
「君さ」
全員の背筋が凍るほど、冷たい声だった。
一歩、そしてまた一歩、エンマに近づく。
「さっきから言葉が過ぎるよ。シフォンさんは、君にそんな風に言われていい人じゃない」
心底冷え切ったその声音には、確かな怒気が含まれている。
無表情なのに、圧を感じさせる。その瞳は深く冷たく、まっすぐとエンマをとらえていた。
(すました男だと思っていたけど、そんな表情できたんだ)
ロフラはそんなことを思う。
少なくとも彼女には見たことのない姿だった。
「あんなへらへらしてるやつを雑魚って言ってなにが悪い」
「雑魚? どれだけ目が濁っていたらシフォンさんが雑魚に見えるの? 君の方がよっぽど雑魚だろ」
「あ? 殺すぞてめぇ」
エンマは頭に青筋を浮かべて彼を睨む。だが、彼はとまらない。
「僕は君が勝っている姿を一度も見てない。なんでそんな傲慢でいられるのか不思議で仕方ない」
そして、岩に腰かけているエンマの一歩手前で止まった。
「吠えるなよ、負け犬」
彼はエンマを見下ろした。
その瞳は、冷たくエンマをさす。
そんな言葉をかけられたら、エンマが我慢できるはずもない。
「上等だ。ぶっ潰す」
ラズベリル・ガナッシュとマゴウ・エンマ。
二人は一触即発の状態で、森の奥へと向かっていった。




