-007- 学園生活
3年が経った。
今日は春休み最終日。
私は明日、ミルフィユ学園初等部四年生になる。
この3年間で私はいろいろなことを学んだ。
例えば、常識。私はお母さんが当然のように高位魔術を使っていたから周りの大人も使えるものだと思っていたけどそんなことはなく、高位魔術を使える人間というのは多くないらしい。
ちなみに、私は全属性の中位魔術と、水と風の高位魔術を使える。
これは、中級魔術師に相当する。
この学園を卒業するときに中級以上の魔術師になれるのは学年の三分の一ほどって言われている。
先生によると私の魔術は高等部でも通用するらしい。
私って実は結構すごいのだ。
この学校についてもかなり分かった。
ミルフィユ学園はスイト王国内で剣のカヌレ学園と魔術のマロン学園に肩を並べる名門校。
すごいんだろうなとは入学前から思っていたけど実際に通ってみるとやっぱり圧倒される。
あと、全国的な有名人が多い。貴族の子とか、高ランク冒険者の子だとか。
私の同学年にも大物がいる。
例えば、シャルロット・ガレル。
多くの剣士を輩出している由緒正しきシャルロット家の次男で、すでに剣士としての腕前は中級レベルだとか。
他には、ラズベリル・ガナッシュ。
こちらは、魔術師の血筋であるラズベリル家の長男。雪魔術という、彼しか使えない唯一無二の魔術を操る。
二人とも話したことはないけど、気になる人物ではある。
ミルフィユ学園、っていうかスイト王国では大体の学校が二期制で、長期休暇には秋休みと春休みがある。私はその休みのときにベニエ村に帰っている。
そうそう、ベニエ村といえば、ハトサブル家で我が妹ロールがすくすく育っている中、ロールが生まれたほぼ一年後、新たに男の子が生まれた。
名前はオラン。こちらも順調に育っているようだ。
村のみんなは村の小学校で元気にやっているようだ。
こっちは一学年200人いるよっていったらすごく驚いてた。
まあ、ベニエ村の小学校は一学年平均5人くらいだからしょうがないか。
私自身についても分かったことがある。
以前魔物と遭遇した時、私は怖くて動けなかった。
その魔物はそんなに強くなく、私一人でも対処できたはずなのに、私は魔物の殺気に当てられ動けなくなってしまった。
街でチンピラに絡まれたときもそうだ。近くにいた親切な人が助けてくれるまで私は怖くて何も喋れなかった。
どうやら、私は自分に対して向けられる敵意がどうしようもなく怖いらしい。
思い出すのは前世の最期、私を追いかけていた男。
あいつは私に深くトラウマを植え付けていったようだ。
敵意が怖いんじゃ戦闘なんかできやしない。
せっかく鍛えた魔術と剣術の腕が役に立たない。
当分の学園生活の目標はこの恐怖症を克服することだ。
ま、そんなこんなで、楽しく学園生活を送らせてもらっています!
◆
さて、春休み最終日だが暇である。
今日は町をのんびり歩き回ろうと思う。
モンブライトの町は大きく四つに分けられる。
城下街、繁華街、職人街、そして冒険者街。
私の行動範囲は主に繁華街と職人街だ。
そして今は繁華街に来ている。
繁華街では今日も買いに来た客と商人の活気で溢れている。
この繁華街には、私の行きつけのお店が存在する。
カランカラン
ドアをあけるときのこの音が心地いい。中に入ると香ばしいパンのいい匂いが充満していた。
「あらシフォンちゃん、いらっしゃい」
「こんにちは。今日も買いにきちゃいました」
私はパン屋の店主に挨拶を返す。
そう、行きつけの店とはこのパン屋さんのことだ。
町中のパン屋さんを回ったが、ここの店が一番おいしかった。
一年くらい前から昼ごはんはほとんどここで買っている。
「あれ、シフォンちゃんだ」
店の奥からでてきたのは私と同い年の男の子、ブレッドだ。
彼はこのパン屋のせがれだ。
私が毎日パンを買いに来るから、同い年ということもあっていつのまにか仲良くなってた。
「やっほ〜ブレッド」
「今日、春休み最終日って聞いてたから宿題に追われててっきり来ないかと思ってた」
「ふっふっふ、宿題なんて当の昔におわってるんだなこれが」
ブレッドはミルフィユ学園のような魔術師、剣士育成機関ではなく普通の小学校に通っている。
「そういうブレッドはいつから学校はじまるの?」
「僕? んーいつだろ、たぶん2週間後くらいじゃないかな」
「ええ! そんなに春休みあるの⁉︎ いいな〜」
「ミルフィユ学園が少なすぎるんだよ」
「やっぱそうだよね」
私はしばらくブレッドと話してからパンを買って店をでた。
◆
ほかほかのパンを持って私が向かった場所は街から少し離れたところにある野原。
私はいつもここでトレーニングをしている。
近くに人が住んでいないから存分に魔術を使える。
「ん〜おいしい!」
木陰でパンを頬張りながら空を見る。
街の喧騒から離れ、木々のざわめきや小鳥のさえずりが聞こえてくる。
ここにいると、なんだかベニエ村を思い出す。
「さ、て、と」
いつまでものんびりしているわけにはいかないのでトレーニングの入る。
まず素振り。
私はお父さんたちからもらった剣――【双葉】と名付けた――を鞘から出し、素振りを始める。
双葉はいつも持ち歩くようにしている。
一番大切なものは何かって聞かれたら私は迷わずこれと答える。
素振りが終われば、ランニングによる体力作り。
平日は時間がなくて5キロくらいしか走れないけど、今日は時間があるので10キロ走った。
それも終われば、魔術の訓練に入る。
今の目標は水の高位魔術の精度を高めること。
そのために、十分に脳内でイメージしてからゆっくり発動する。
高位魔術にまでなると制御するのが難しい。
そんな訓練をしているといつの間にか日は沈んでいた。
寮に帰り、晩御飯を食べたらその日はすぐに寝た。
◆
私は初等部4年生になった。
3年生のころと違うことは、クラスが成績によって分けられることだ。
私は一番上のAクラスだった。
「それでは、順番に自己紹介をお願いします」
担任の先生がそう言ったら、席が端の人から自己紹介をしていく。
「ハトサブル・シフォンです。特技は魔術です。よろしくお願いします」
ぺこり、と頭をさげ、私はごく普通に自己紹介を終えた。
その後、数人が自己紹介を終えた後、教室内の緊張感が高まるのがわかった。
何事かと思い次の人を見る。
……なるほど、次は大物か。
その人物はガタンと立ち上がり、真っ直ぐな声で言った。
「シャルロット・ガレルだ。この学園で最強の剣士になる」
それだけ言って、ガレルは座った。
どう反応すればいいか分からず、みんな固まっている。
先生が気をきかして次へいくよう指示を出した。
続いて自己紹介する人物も大物だ。
「ラズベリル・ガナッシュです。みなさん、一年間よろしくお願いします」
きゃあっと、クラスの女性陣から黄色い悲鳴が上がる。
なるほど、ガナッシュはかなりの爽やかイケメンだ。
いかにも女子ウケしそうな顔してる。
そして、一通り自己紹介が終わった。
たくさんの配布物を受け取り、もろもろの説明を終えれば、解散だ。
さて帰りますかな、と、教室を出て、寮へ向かう。
すると、後ろからドタドタと私を追いかける音が聞こえてきた。
「おい!」
乱暴に呼びかける声。
この声はさっきの自己紹介のとき聞いたものだ。
私は嫌な予感をひしひしと感じながら振り向く。
そこには仁王立ちをした、赤髪のシャルロット・ガレルが立っていた。
「お前があの最強騎士タルトの娘か」
最強……? 騎士……? よくわからない。でも、
「タルトっていうのは確かに私のお父さんだけど……何か用?」
そう言うとガレルは腰に下げてる剣を抜き、私へ向けた。
「ハトサブル・シフォン、俺と剣で勝負しろ!」
え、えぇ〜……