-078- 決着
私とルーゼは城の奥へと走った。そして、最奥と思しき部屋にたどり着く。
「あ、あれ……?」
私たちの城には明らかに水晶を設置しろとでもいうような台が置いてあり、そこに置いてガナッシュに守ってもらっている。
ここにも同じような台があった。だけど、その上には水晶がない。
「……やられたわね」
ルーゼは苦虫を嚙み潰したような顔をする。
ここにないってことは、別のところに隠している……?
いや、水晶は必ず誰かの管理下に置くはずだ。つまり……
「誰かが持ち歩いている……?」
「そう考えた方がよさそうね」
「一体誰なんだろ」
「さあ。指揮をとっているロフラか。姿を見せないベルか。他の人でも十分ありえる。今の判断材料だとわからないわね」
「戻って、ペンとジャイガが持っていないか確認しよう」
急いできた道を戻る。
そして、ペンたちと戦った部屋に着いたとき、私たちは啞然とした。
「いない……」
「……」
え、え、なんで。
確かにここで戦って、確実に戦闘不能にしたはずだ。
「誰かが移動させた……?」
「いや、そんな面倒なことするはずない。だぶん、意識を失ったふりをしてたんだわ、アイツら」
ルーゼは拳を握りしめる。
二人を倒す作戦はうまくいったと思っていた。
だけど、全部相手の手のひらの上だったの?
「……ッ」
私は唇を噛む。
なんだこれ……
ものすごく悔しい……!
「シフォン、切り替え」
「うん……」
「とりあえず、城を出るわよ」
そこで、出口が塞がれていることに気付く。
「めっんどくさいわね……」
向こうのチームは、ほんとうに相手の嫌なとこをつくのがうまい。
私たちは障害をどんどん破壊しながら出口へと向かった。
◆
(ちょっ、まっ、これ、きつすぎ……!)
三体一の戦い。ジークは防戦を強いられていた。
近づこうにも近づけない。遠距離攻撃も防がれる。投石が止む気配もない。そしてなにより、ロフラの雷撃を警戒し続けなければならない。
(魔力も大分少ないぞ……シフォンとルーゼはやられたのか……?)
でなければ屋上に三人いる意味がわからない。
「三人もいて、全然攻撃当たってねぇなぁ!?」
そんな言葉を乱暴にとばす。
戦いにおいて、内心を相手に見透かされることは敗北に直結する。
どんなに厳しい状況であっても、常に挑戦的な笑みを浮かべ、大口を叩く。それが、アンドル・ジークの戦い方だ。
(もしあいつらがやられてるんだったら、現状水晶を破壊できるのは俺しかいねぇ。三人の壁を突破するのは賭けだが、やるしかねぇ)
リスク無きところにリターン無し。
不利な戦いなんて賭けの連続。
当たりを引くために全力を尽くす。
(ぶっちぎってやる)
状況が厳しくなればなるほど熱くなるのが、このアンドル・ジークという男。
残りわずかな魔力を集め、圧縮し、解放する。
風から巨大な推進力を得て、三人のところへ突進する。
速く、ただただ速く。
一直線を、ぶっちぎる。
ペンの投石も、ロフラの攻撃もお構いなしに、すべてを退けながら、疾風のごとく。
そして、風の皇子は勢いそのまま屋上に衝突した。
まず、その衝撃でジャイガを吹き飛ばす。
すかさず次の獲物を定め、加速する。
「ッ!」
間合いに入られロフラは咄嗟に魔力を練るが、この距離では間に合わない。
ジークはロフラの腹に手を添えて、風を生み出す。
「ぶっとべ、城外まで」
「うッ……!」
なすすべもなく、飛ばされる。
「ロフラさん!」
ペンはなんとかロフラの服を掴み、引き寄せる。
「けほッ……」
ゼロ距離からの衝撃は、内蔵にダメージを与えていた。
ロフラはお腹を抑えうずくまる。
「だ、大丈夫ですか」
「問題……ない。それより、ペン。ジークから……目を離してはだめ」
途切れ途切れの声。
それでも、ロフラはジークから目を離さない。
自分がどんなダメージを負おうと、味方がどんなに傷つこうと、一瞬の隙が命取りとなるこの戦いで視界から敵を外すことはありえない。
ロフラは次のジークの動きを注意深く観察する。
ジークは相変わらず笑みを浮かべながら口を開いた。
「さすがに思う通りにはいかないか。ま、結構いいのはいったししばらくまともに動けねぇだろ。俺は城に入らせてもらう。じゃあな」
城に水晶はない。
ジークはその事実を知らない。
シフォンたち同様城の中を彷徨ってくれるのであれば願ったり叶ったりだ。
ロフラとペンが内心安堵した、その瞬間だった。
物凄い破壊音と共に、二人の影が城の中から飛び出した。
「やっっと出れた!」
「よくも騙してくれたわね」
シフォンとルーゼ。
ロフラにとっては、最悪のタイミングだった。
「おい、お前らやられたんじゃなかったのかよ!」
「やられてないよ! けど、嵌められた!」
「城の中に水晶はなかったわ」
その言葉に、ジークがピクリとする。
「ってことはよぉ、この三人、誰か持ってるかもしれねぇなぁ」
(気づかれた……!)
一人一人を怪しむように、ジークはロフラ、ペン、ジャイガを順に見た。
頬に汗が滴る。
じり、と一歩下がる
「シフォン、ルーゼ。手荷物検査だ。俺はロフラを相手する。他二人はお前らがやれ」
「「了解!」」
◆
激戦が繰り広げられている城とは、反対の城。
ひっそりと静まり返った城内で、相対する人影が二つ。
一人は銀髪の少年。臨戦態勢に入り、後ろにある赤い水晶を守るように立っている。
もう一人は長髪の少年。穏やかな表情を浮かべ、黙って相手を見つめていた。
ラズベリル・ガナッシュと、カラクリ・ベルである。
「……すごいね。目の前に現れるまで気づかなかった。魔力も探知できなかったし、音ひとつしなかった」
「私は魔力を消すのが得意でね。音がしなかったのもそれは、私が音を消したからだ」
「ふぅん。魔術の奏者って名は伊達じゃないってことね」
「……知っていたのか」
「それは当然。音魔術なんて使うの、君くらいだし」
「そう。……じゃあ、実際に体験させてあげるよ」
「……ッ!」
ベルは音魔術を展開した。
超音波がガナッシュの脳を襲う。
ガナッシュは鋭い痛みに膝をついた。
高周波の音が頭の中で暴れ回り、思考する暇を与えない。
咄嗟の判断で、ベルとの間に氷の壁をつくった。
音源が遮断され、痛みがおさまる。
ガナッシュはその隙に衣類を千切り、水で濡らして耳に詰めた。
ベルはすぐに氷の壁を破壊する。
そして、超音波の攻撃を再開した。
依然、ガナッシュへの効果は認められる。だが――
(さっきよりも、全然マシ……! これなら戦える)
痛みは和らぎ、戦いに集中できるだけの余裕はつくれていた。
「……もう対応されたか。柔軟な思考でいいね。でも、音の攻撃は高低だけじゃないんだよ」
そして今度は、頭がぐちゃぐちゃになりそうな爆音を生み出した。
「……ッ!」
またも、膝をつく。
建物が軋むほどの音量の前では、まともに立っていることすら困難。
それでも、ガナッシュは反撃をする。
氷の槍を何本も生み出し、ベルに飛ばした。
誘導用の槍、逃げ道を塞ぐ槍、動きを止める槍、そして本命の槍と、それぞれに役割を与える。さらに、一本一本発射するタイミングを微妙に変える。
音により脳のリソースを奪われていたが、相手の動きを推測し正確に飛ばす、高度な技術と策略が混ぜ込まれた攻撃だった。
ベルは回避を試みるも、その動きはすべてガナッシュに読まれており、氷槍が彼の服を貫通して壁に固定された。
ガナッシュは次弾を用意する。しかし――
「――みつけた」
その言葉と同時に、ベルは音魔術を展開する。
今度のそれは、ガナッシュへの攻撃ではない。
水晶への直接攻撃だった。
水晶はベルの音と共鳴し、震え、そして粉砕した。
「……!」
「君の敗因は、屋内で私と戦ったこと。……気落ちする必要はない。この勝負はあまりにも私に有利だった」
木端微塵に散らばった赤色の破片。
それは、赤チームの敗北を示していた。
◆
ジャイガ対ルーゼ。
ジークに吹き飛ばされた衝撃で、ジャイガはダメージを負っていた。
勝負はルーゼの有利に進む。
ジャイガは土魔術で次々障害を生み出すが、ルーゼの敏捷性が彼の魔術を上回る。
やがて、ルーゼはジャイガを追い詰めた。
「ジャイガ。水晶を持っているのはあなたかしら?」
「…………」
ゆっくりと首を横にふる。
ルーゼはジャイガの目を見て本当だと判断。
他の二人の方へと目をやった。
◆
ロフラ対ジーク。
ロフラは大きいダメージ負っているが、ジークの攻撃を凌いでいた。
苦しい状況ながらも、ロフラには光明が見えていた。
(威力が弱い)
先ほどと比べて、格段に魔術の威力が弱まっていた。
それはおそらく、魔力不足からくるもの。ジークは今、全身から魔力をかき集めてなんとか発動している状態だ。
だが、それでも。
ロフラに蓄積したダメージはあまりにも大きかった。
やがて、致命的な隙を見せる。
ジークはロフラの上にのしかかり、肩を押さえて杖を構えた。
「水晶を持っているのは、お前か?」
「……」
黙り込むロフラ。
焦ったいのか、ジークはさらに杖を近づける。
ロフラは約10秒ほどジークと目を合わせてから、口を開いた。
「違うよ」
意地悪そうに、笑っていた。
◆
度重なる戦闘で、城の屋上はボロボロになり、建物の残骸が散乱していた。
それは、ペンにとって幸運といえる。
彼にかかれば、その辺に落ちている石ころですら驚異的な武器に変わるのだから。
(近づけない……)
シフォンは投石を避けたり弾いたりすることはできるが、近づけはしない。
こうなると、ペンに近づくのは困難を極める。
弾切れを待つしかない。
だが、しばらくしてシフォンは気づく。
(弾が減らない……再利用してる……?)
ペンは一度撃ち放った弾も操作術の支配下に置き続け、ブーメランのように自分の手元に戻していた。
相当難しい業だ。長期間にわたって訓練したのだろう。
このままでは、魔力の限りこの状況が続いてしまう。
「……ねぇ、ペン。あなたが水晶を持っているの?」
「……」
しばらく、無言の攻防が続く。
そして、ペンは口を開いた。
「はい。僕が持ってます」
「……そっかぁ。やられたなぁ……さっきしっかり確認すればよかった」
いくら後悔しても後の祭り。
今は全力で獲物を取りに行く。
この膠着状況を打開する手札はシフォンにはない。
少しずつ、少しずつ、ペンの弾を減らしていく。
剣で弾いて、岩弾丸を打ち返して。
そして、弾幕が薄くなってきた頃、シフォンは一気に加速した。
間合いに入ってしまえば、投石なんて関係ない。
そして、剣の間合いに一歩踏み入れた瞬間。
「そこまで」
ウィッカの声が、戦場に響いた。
「赤チームの水晶が破壊された。青チームの勝利だ」
それを聞き、屋上の6人は脱力する。
片や、満足そうに頷き、片や、悔しそうに俯いた。
◆
ウィッカの声を聞き、エンマは攻撃を止めた。
「……ッ!」
屈辱に顔を歪ませ、キリキリと音が聞こえるほど歯軋りをする。
自分の炎が、一切通じなかった。
まるで、子供をあしらうかのように対応された。
「……」
エンマはテナを睨む。
テナは無表情に数秒エンマを見つめてから、踵を返し歩き出した。
まるで、エンマの存在を気にも留めていないかのように。
それがさらにエンマのプライドを逆撫でする。
「くそッ!」
近くにあった岩を破壊する。
しかし、そんな八つ当たりでは、彼の屈辱は到底払拭出来なかった。




