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-077- 連携


 私は剣を構える。ジャイガは分からないけど、ペンは圧倒的に接近戦が苦手。逆に、距離をおけばおくほど厄介だ。つめる以外の選択肢はない。

 私は勢い良く地面をけり、風魔術を使って加速する。

 その刹那、床から壁が出現した。

 剣を地面にさし慌ててブレーキをかける。なんとか止まったと思ったら、壁から私めがけて岩の柱が生えてきた。剣で受けるが、その衝撃で後ろに下がってしまう。さらに追い打ちをかけるように、ペンが投石をしてくる。


 ち、近づけない……。

 完全遠距離型のペンをどうにかしたいのにそこに立ちはだかる鉄壁のジャイガ……!

 屋外ではペンの砲撃が猛威を振るっていたが、屋内になるとジャイガの魔術が段違いに厄介だ。

 地面、壁、天井すべてから攻撃でき、部屋の構造すらも変えてしまう、生きた城のような魔術だ。

 今、私たちはジャイガの胃袋の中にいるといっても過言ではない。


「ルーゼ、どうしよ……」

「……」


 ルーゼも苦々しい表情で二人を見つめている。

 なにか打開策はないか、必死に頭をまわす。

 私たちの目標はこの部屋を通過すること。対して、ペンとジャイガの目標は私たちを通さないこと。

 今、圧倒的に場を支配しているのは向こうのほう。近づいたらジャイガの魔術で、近づかなくてもペンの魔術で追い詰められる。二人の魔術が絶妙に嚙み合っている。

 なにか……なにかないか……私たちのほうがあの二人より優れている点……!


 ……!

 いや、ある。あるよ。

 私たちのアドバンテージ。私たちに優位があって、かつ、あの二人が苦手なこと。

 これを武器にして戦えば、この関門をくぐり抜けることもできる……!


「ルーゼ!」


 私はルーゼに作戦を伝えた。


「できる?」

「当然よ」

「ふふっ、さっすが」


 そして、私たちは魔力を練って二人に向かった。

 ジャイガの土魔術は強力だ。土魔術は調整することで硬い岩を生成し、自由に加工できる。精密な魔力操作が要求される、とても高度な技術だ。

 でも、それはなにもジャイガだけの固有魔術ではない。私たちだって、ジャイガほどの精度ではないにしろ、土魔術を使ったり岩を生成したりすることは可能だ。


「ルーゼ、いくよっ!」

「ええ、シフォン!」


 私は高速の岩弾丸をペンにめがけて撃った。岩での防御では間に合わない。このスピードの攻撃を対処するには、避けるしかない。

 誘導した通りに、ペンはジャイガがいる方とは反対側に避けてくれた。ここで、ペンとジャイガの間に数メートルのスペースが生まれる。

 これだけあれば十分だ。

 ルーゼは地面に手を置き、ペンとジャイガを隔てる壁を生み出した。

 そして、私はペンの方へ、ルーゼはジャイガの方へ走り出す。


 さて、と。


 ペンとの一対一。

 さっきまでペンとジャイガの武器がそれぞれ生きていたのは、二人が一緒にいたからだ。分断された今、私の方が有利と言える。屋内だから周りに投げれそうなものがなく、ペンは自分で生成しなければならない。

 一つ目の投石を剣ではじく。

 二つ目を避ければ、もう私の間合いに入った。

 ペンには悪いけど、ここまで来たのならもう怖くない。

 私は剣を振った。

 だが――


「あれっ!?」


 するりと、躱された。そして、その油断をつき、岩弾丸で攻撃してくる。

 間一髪、私は剣ではじき命中を防いだ。


「あっぶな……」


 ペンは真面目な表情でこちらを見つめている。そして、口を開いた。


「シフォンさん。もう以前の僕とは違います。シフォンさんの近接戦の動きは、予習済みです」


 舐めないでください、と言っているようだった。

 うん、ごめん。確かに、接近戦ならすぐ勝てるって思ってた。

 ペンも成長している。全国大会のときみたいにはいかないってことか。

 でもね、ペン。


「以前と違うのは、私も同じだよ」


 再び剣を振りかざす。一回、二回、フェイントを入れる。それと同時に魔術も展開。

 私には剣がある分、毎回毎回私の方が一手多い。やがて、ペンのほうに致命的な隙が生まれる。その隙を、逃がしはしない。

 岩弾丸を、ペンに向かって撃ちこんだ。

 その衝撃で、ペンは気を失う。

 勝負ありだ。


「剣も上級になったんだから」


 魔術と剣の複合スタイルがやっと形になってきた。

 はやく長年の努力を花開かせたいよ。


 私は一息ついて、ルーゼにペン撃破の合図を送った。


 ◆


 ペンの投石を警戒する必要がなくなったため、ルーゼはジャイガの対応に専念できる。

 安易に距離を詰めない。やられないことを最優先に、距離をとって攻撃を続ける。

 一方のジャイガも距離を詰めることはない。遠くから岩を生成し、着々とルーゼを追い詰めていく。


 ルーゼとジャイガの一騎打ち。

 見かけ上は、そう見える。

 ただ、同時にまだ二対二であることも忘れてはならない。

 この状況を利用できるかどうか。それがこの二組の違いと言える。


 シフォンとルーゼがペンとジャイガより優れている点はなにか。

 それは、コミュニケーション能力。

 ジャイガは無口だし、ペンも内向的な性格なため、二人の間で言葉が交わされることは少ない。今まで連携できていたのも、ロフラの指示があったからだ。

 そんな二人が隔絶されると、その連携は停止する。

 それに対して、シフォンとルーゼはたとえ壁があったとしても連携できる。

 特塾がはじまってから多くの会話を重ね相互理解が進んでいるこの二人には、即興の作戦も遂行可能なのだ。


 ルーゼは壁越しにシフォンからの合図を確認する。

 それと同時に、大量の水を生み出した。

 ジャイガはとっさに壁をつくるが、ルーゼの洪水はそれを容易く乗り越え、ジャイガに降りかかる。


 そして今度は、さっき生み出した壁を破壊した。


「…………!」


 待ち構えていたように現れたのはシフォン。

 シフォンは壁が壊れると同時に、冷却魔術を展開した。

 水をかぶっていたジャイガはまわりの水が氷になって動きが一気に鈍くなる。

 そして、ルーゼはその隙を逃がさなかった。


 遅くなった大きな的に、氷の弾を撃ちこんだ。


 ジャイガは意識を失う。

シフォンとルーゼは安堵の表情で顔を見合わせた。


「話していたより時間がかかったみたいね?」

「うん……前よりもずっと手ごわかったよ」

「そ。でもよく動きを止めてくれたわ」

「うん! ルーゼもタイミングばっちしだった!」


 二人はハイタッチをして先へと進む。


 だが、その後ろでむくりと起き上がる人影には気付かなかった。


 ◆


「オラオラどうしたぁ!? もっとスピード上がるだろ、ロフラ!」

「……ッ!」


(強すぎる)


 空中戦において、ジークはロフラのはるか上をいっていた。

 風を味方につける彼は自由自在に空を飛び、ロフラの飛行も風魔術で邪魔をした。

 完全にジークのペースにのまれている。

 先ほどの雷撃の痺れもなくなったのか、どんどん動きがよくなっていく。

 攻撃をあてるには、手数が足りない。


(せめてペンとジャイガが後方にいれば……!)


 あの二人がいればわざわざロフラがジークを追いかける必要もない。ペンの投石と合わせて遠距離攻撃を仕掛ければいいだけのこと。


 劣勢にいるロフラだが、勝算がないわけではない。

 開戦時の災害魔術に、燃費の悪い浮遊術。ジークの魔力が底を尽きるのはそんなに遠くないはずだ。

 それまで耐えれば、ロフラの勝ちだ。


「おい、もっとやりあおうぜ。熱い勝負がしてぇんだよ俺はよぉ!」


 ロフラは冷静な目でジークを分析する。


(好戦的な言動をとっていて、理性的ではない……ように見えるけど、おそらく見かけよりずっと冷静だ。さっきから発破をかけるような言葉も、私に無駄に魔力を使わせるためのもの)


「悪いけど、私は別に熱い戦いはしたくない」


 省エネでジークには対応する。

 現時点でロフラが勝っているのは魔力量しかないのだから。


「しょーがねぇなぁ! じゃあ、俺が熱くさせてやるよ!」


 一直線でロフラに向かってくる。かと思いきや、直前で方向転換、そして止まり、また最速での突進。

 緩急をつけた動きにロフラは翻弄される。

 重心の逆をつかれ、そこにジークは体当たりする。


「魔術師って近接に慣れてないからよぉ、意外とこういう単純な攻撃でも効果的だったりするんだよな」


 完全にバランスを崩した。

 態勢を直すのにリソースを割かれ、次くるであろうジークの攻撃に対応できない。


(これ……やば……)


 杖をこちらに向けているジークが見える。

 攻撃に備えなければ。

 でも、その前に態勢を直さないと。


(間に、合わない……!)


 そして、ジークが魔術を発動する瞬間。

 投石がジークに命中した。


「痛ったッ!」


 できた隙に、ロフラは態勢を立て直し距離をとる。

 そして自城の屋上を見ると、ペンとジャイガが戻っていた。


「ごめんね、ジーク。空中戦はここまで」

「お、おい、待て!」


 ロフラはさっさとペンのもとへ戻る。ジークはそれを追うが、投石に邪魔される。

 浮遊術を解除して、屋上へと降り立った。


「ありがとう、ペン、ジャイガ」

「……いえ」

「…………」


 二人からはそこはかとなく重い空気を感じる。


「シフォンたちとは戦ったの?」

「……はい。負けました」

「そう。じゃあ、死んだふり作戦、うまくいったんだ」

「はい。シフォンさんたちが城の奥行った後、僕とジャイガくんで通路を塞いできました。脱出するまでにはそれなりに時間がかかると思います」

「了解。それじゃあ」


 そういって、ロフラは空に浮かぶ一人の男を見つめる。


「ひとまず、私たちの相手はあの風の皇子様だ」

「はい」

「…………」


 三人を前にして、アンドル・ジークは不敵に笑った。


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