-076- 雷撃
ロフラは戦場を見渡す。
少し先ではエンマとテナがぶつかっており、さらに奥には三人の人影。ジーク、ルーゼ、そしてシフォンである。
(残ったのはガナッシュ、か)
相手チームが攻めの姿勢であるのは想定内のことであった。特塾の級長、アンドル・ジークは良くも悪くもまっすぐな男で、好戦的である。そんな彼が指揮を執るのであれば、先手をとり、攻めに重きを置くのは想像に難くない。
(だったら、守りを堅牢にするまで)
相手は速攻を望んでいる。が、絶対に望み通りにさせない。徹頭徹尾相手の嫌がる事をする。城の守りを固めに固め、時間をかけさせ、魔力と体力を消耗させる。そして集中の糸が切れたとき、それがジークたちの終わりとなる。
「ジャイガ、ペン。攻撃をはじめよう」
ギガント・ジャイガとピリオド・ペン。この二人にコンビを組ませると、手が付けられないほど脅威になる。
ジャイガは土魔術への強い適性をもち、岩を無尽蔵に生み出せる。岩の形も自由自在で、先の壁のように建物を造ったり、先を尖らせ槍を造ったりすることができる。さながら、人間要塞と言えるだろう。
一方ペンは物体操作術へ異常に強い適性をもつ。それ故、特塾生徒でさえも持ち上げられないような巨大な岩をも軽々と投げることができる。
生成術が成熟していないことがペンの弱点であるが、ジャイガと組んだ時その弱点は補完され、彼は巨大な岩を次々投げる無敵砲台と化す。
「で、では、ジャイガくん……お願いします」
「…………」
ジャイガは大きく頷いて投石用の岩を生成する。
ペンはそれをジークたちに向かって投げつけた。
三人はすんでのところでその岩を避け、苦々しい表情でペンを見つめた。
(さーて、どうでるか)
ジークたちが城に侵入するには、ジャイガが生み出した壁をどうにかしなければならない。高さは二十メートル、幅二メートル。高いし厚いこの壁を何とかする選択肢は二つ。
乗り越えるか、破壊するか。
ジークの判断は早かった。彼は浮遊術で飛び上がり、城に向かって動き始めた。そのまま壁の上を行く気だろう。
ペンはすかさず投石するが、軽々と躱される。
ジークは風を得意とする魔術師。地上よりも空中のほうがよく動けるのはもっともなことだ。しかし――
(空中は、私の射程内)
空中にいるのでは、発射即着の雷を避けることは困難を極める。
ロフラは杖をジークに向かって伸ばし、魔力を練った。
「まず、一人」
そして、撃ち放つ。一閃の雷を。
轟音が鳴り響く。神童の一撃は、天才皇子に命中した。
ジークはそのまま落下していく……かに思えた。
空中でピタッと止まり、姿勢を立て直す。
そして、少し焦げた髪をかき上げながらにやりと笑った。
(っ!? 耐えられた……?)
初めての経験だ。そんな生温い出力ではなかったはずなのに。
「……少し、手加減しすぎたかも」
不貞腐れた顔をして言うロフラ。
ここは特塾。人間の皮をかぶった化け物の集団。今まで戦ってきた同級生とはわけが違うのだ。
(だけど、次はない)
もう一度杖を構えるロフラ。
その瞬間、雷にも劣らない轟音が鳴った。
(ッ……! なに……?)
そして、いち早く状況を把握したペンが口を開いた。
「ロ、ロフラさん……まずいです……」
「……うん」
「壁が壊されて、それで……敵の侵入を許しました」
(やられた)
ロフラは歯を軋る。
ジークは囮にすぎなかった。ロフラとペンの意識を向けさせ、最も警戒すべき雷魔術を使わせる。その間、地上にいたルーゼとシフォンは淡々と魔力を練っていた。そして、ロフラの警戒の隙をつき、壁を破壊する一撃を打ち放った。
(たかが水……だけど、圧力をめいっぱい加えればそれは金属すら穿つ)
ルーゼとシフォンの得意魔術は水。ジェットのように水を発射し、威力と質量で壁を打ち破った。
穴はすぐにジャイガがふさいだが、二人の侵入は食い止められなかった。
「ジャイガ、ペン。二人でシフォンとルーゼを迎い撃って。私は、ジークを相手する」
「わかりました」
「…………」
指示に従い、二人は城の中に入って行く。
ロフラは、少し先に浮いているアンドルの皇子を見た。
彼は挑戦的な笑みを浮かべている。
(……耐えたのは褒めてあげる。でも、痺れて身体が十分に動かせないでしょう?)
ジークはここで確実に狩る。
雷使いは、静かに城から浮遊した。
◆
(あっぶねぇぇぇぇ……! ガチで飛ぶとこだった……!)
囮として出て行ったのは雷に撃たれる覚悟があったからだし、耐えれるという自信もあった。
だが、
(想像以上の衝撃ッ! 念のためルーゼに水糸を引っ張ってもらっててよかった……!)
ジークはルーゼが創り出した水の糸を使い電気を地面に逃がしていた。これがなければ意識は失っていただろう。
(手足もまだ痺れてうまく動かせねぇ。初撃の魔術で魔力も半分ほと使っちまった。こんな状態でロフラとやりあわなきゃなんねぇ)
ガナッシュは城で水晶を守っている。ルーゼとシフォンは敵城へ侵入中。エンマもテナに足止めをくらっている。
援軍は期待できない。ひとりで、生き延びなければならない。
(おもしれぇ! 俄然、燃えるッ!)
痺れて手足が十分に動かないが、浮遊術で浮いている今あまり関係のないこと。
ジャイガとペンが城の屋上から去り、投石も止んだ。
飛行を邪魔するものは誰もいない。
「こいよロフラ」
(空中は、俺の領域)
「チンチンにしてやる」
そして、風を身に纏い天に翔けた。
◆
城に入って、一息つく。
相変わらず、ペンの投石はえげつない……。
しかも今回はジャイガが投げる用の岩をつくっているようだったから、全国大会のときのような弾切れも起こらない。
はやいうちに屋内に入れてよかった。
しばらくルーゼと並走すると、広い空間に出た。
そして、目の前には二人の人影。
一人は、小柄。一人は、大柄。
そして二人は、私たちをとうせんぼするように、後ろの通路への道を絶っていた。
「そこ、どいてくれるかしら。ペン、ジャイガ」
「すみません。ここを通すわけには行きません」
「…………」
水晶は、この部屋の奥だろう。
そこへ行くには、どうやら二人を倒す必要があるようだ。
「手加減しないよ。負けても泣かないでね、ペン」
「僕はもうそんなに弱くありません!」
お互いに杖を構える。
二対二の戦闘が始まった。




