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-075- カリスマ


 私達は要塞の屋上に移動し、開戦を待つ。

 水晶は城の奥に置き、すでに人員の配置も完了している。

 待つこと数分、巨大な火球が打ちあがり大きな音を立てて爆発した。

 試合開始の合図だ。


「邪魔すんじゃねぇぞ」


 エンマはそんなことを言って敵城へ飛び出してしまう。

 相変わらず無謀というか……

 少し呆れてエンマを見送っていると、ジークとルーゼが塀に立ち上がった。


「ルーゼ、準備はいいか」

「ええ、当然よ」


 二人は言っていた。大規模魔術で先手を打つと。

 この戦いで最もやられてめんどくさいことは何か。それは、籠城されること。

 それを防ぐために、敵城丸々破壊する。あわよくば、城ごと水晶を破壊する。

 最初に聞いたとき、馬鹿げた作戦だと思った。

 でも、ジークとルーゼはそれを可能にする魔術が使えるらしい。


「手加減するんじゃないわよ」

「あぁ。エンマにゃ悪いが、派手にいくぜ」


 二人は、空に向かって杖を掲げた。

 瞬間、風の流れが変った。晴天から徐々に青が隠れ、敵城上空中心に雲が渦を巻いている。

 どんどん風は強くなり、ぽつぽつと雨が降り始める。それらは、勢いのとどまるところを知らない。


「風よ吹け」

「雨よ降れ」


 世界が二人の言うことを聞くように、風は巻き、雨は荒ぶ。

 あぁ、わかった。二人の声を聴いた際、時折感じる力の正体。

 まっすぐな、揺るぎない声。自信に裏打ちされた、強かな声。


 この双子は、太陽のカリスマを持っている。


 実力の伴った自信ほど、人を輝かせるものはない。

 文字通りの天災であるこの双子の背中が、誰よりも大きく感じた。その背中をみると、のしかかり、一生ついていきたいと思ってしまう。

 きっと、彼らはその背中に国民の期待と皇族としての責任を負って生きてきたのだろう。そして、これからもそれは変わらない。


「「暴風雨(テンペスト)」」


 その言葉と共に、双子は災害魔術を完成させる。

 私は、ただ見てた。二人の背中を、そのカリスマに魅せられながら――


 ◆


「これ、結構まずくない?」


 嵐を前にロフラがこぼす。最初から攻めてくるだろうなとは思っていたが、城を吹き飛ばしてしまうような魔術を使ってくるのは想定外だった。

 二人で発動しているとはいえ、特級と遜色ない威力の魔術。飛ばされないようにするのでやっとだ。立っていることさえできない。近くの木は強風にぽっきりと折れてしまっている。ほんとうに恐ろしい双子である。

 城の造りはそれほど強固ではない。このままだと城は崩壊する。


「しょうがない。皆で壁を……」


 ロフラが言い切る前に、巨体の男が前に出て、床に手を置いた。

 そして、巨大な壁を出現させた。

 それは分厚く、雨風から城を守るのには十分だった。

 ジャイガは、ロフラが五人でやろうとしたことを一人でやってのけてしまったのだ。


「……ありがとう、ジャイガ」

「…………」


 彼は、ただ黙って頷いた。


(さて、と)


 ロフラは思考を加速させる。

 初撃は耐えることができた。後手に回ってしまうが、それは想定の範囲内。相手の攻撃を予測しろ。そして、対策を立てろ。

 ロフラたちの狙いは攻め込んできた相手を逆に一網打尽にする、つまるところカウンターだった。


「ベル、敵の動きは」


 カラクリ・ベルは遠くの音を聞くことができる。索敵能力は特塾でもずば抜けていた。


「城に残るのは一人だけっぽいね。あ、だけど何故か単独でこっちに向かっている人がいる。……たぶんエンマだ。結構近くまできてるけど、どうする?」

「私が出ます」

 

 ベルの問いに答えたのはテナだ。


「私の氷なら彼の炎に対抗できます」

「うん、じゃあよろしく」


 ロフラがそう言うと、テナはひとつ頷いてから城を飛び出した。


(懐かしいな、この感じ)


 思えば、ここ最近人を相手にするときはずっと個人戦だった気がする。入塾試験も、一対一だった。


(チームで作戦を立てて戦う……あの日以来だ)


 ロフラの中に色濃く残っている敗北。ミルフィユ学園とマロン学園の決勝戦。

 嵐の中、ロフラとペンは敵城を見据えた。


「ペン。今度は絶対勝つよ」

「はい。絶対に勝ちましょう」


 かつての雪辱を果たすため、闘争心に燃えていた。


 ◆


 雨が降りはじめ、エンマは舌打ちした。


「あの野郎……邪魔するなっていったのに」


 魔術の威力は環境に左右されやすい。雨が降っていると当然火魔術の威力は弱くなる。

 しかし、だからといって引き返すことはありえない。


 突如出現した巨大な壁。

 自分を阻むそれを破壊するため、エンマは魔力を練る。

 そして膨大な熱を孕む火球を射出した。


 しかしその瞬間、氷の姫が舞い降りて、辺りを銀色に変えてしまう。

 火球は負けじと溶かすが、あっという間に熱を奪われ壁に着弾する前に消滅してしまった。


 エンマは再び舌打ちをする。

 目の前に立つ、氷の魔術師ハイジエータ・テナを睨みながら。


「どけよ、邪魔だ」


 低い声で唸るエンマ。一方、テナは感情のよめない瞳を彼に向けていた。


「あなたは」


 そして、静かに口を開く。


「もう少し、感情を支配しようしたらどうですか。理性のない獣ほど、戦い易いものはありませんから」

「っ、殺す……!」


 他人に諭される屈辱に、彼は顔を歪ませる。

 溢れ出る怒りに任せて、エンマより一層の魔力を練り始めた。


 ◆


「まじかよ」


 そんな風にこぼすジークは笑っていた。

 抵抗できまいと思っていたジークとルーゼの災害魔術は、ジャイガ一人にあっさり対応されてしまったのだ。


「凄まじいわね、あいつ」


 ルーゼは素直に感心している。

 あれだけ巨大な壁をひとりで形成するなんて、尋常じゃない魔力と出力が必要なはずだ。

 もう……ジークとルーゼに、ジャイガも魔術の規模が大きすぎるよ。こんなの見せられたら少し自信を失ってしまう。


「おい、シフォン。ぼーっとしてんじゃねぇぞ」

「次よ次、攻めにいくわよ」


 大丈夫。私も同じ特塾の生徒なんだ。自信もって、私! 切り替えていこ!


「うん!」


 私達は敵地に攻め入るべく、自分たちの城から飛び出した。


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