-070- アンドル帝国
お待たせしました……特塾編始動です。
私たちは王城に到着した。
案内人に従って中に進むと、一つの部屋に辿りつく。
中には、入塾試験で試験官をやっていた男の人がいた。
名前は確かダンケン・ハッツだっけ。
ハッツさんは拍手で私たちを出迎えた。
「ラズベリル・ガナッシュ、ハトサブル・シフォン、そしてシャルロット・ガレル。試験合格おめでとう」
ありがとうございます、とみんなで頭を下げる。
「スイト王国からの特塾生徒が集まるまでこの城でゆっくりしていくといい」
私たちはモンブライトに住んでいるから王城に行くのにそんなに時間はかからないが、北部や東部の人はそうはいかない。私たちはみんなが揃うまでしばらく待つ必要がある。
私は、ずっと気になっていたことを尋ねてみた。
「スイト王国から試験に合格したのって、誰がいますか?」
そういうと、ハッツさんは一呼吸おいてから口を開いた。
「剣士のほうは、ライザック・ポロネ、魔術師の方は、クリオル・ロフラとピリオド・ペンが試験に合格した」
「……! ありがとうございます」
すごい! 四人全員で合格できるなんて!
ガナッシュと顔を合わせて笑顔で頷く。
ガナッシュも嬉しそう。
ふふふ、やっぱり私たちは上級生にも劣らなかった。
しばらく喜びを嚙みしめていると、ハッツさんがひとつ咳払いをした。
「それと、ハトサブル・シフォン。とある人が君に会いたいそうだ」
とある人? 誰だろ。
ハッツさんが扉を開けると、そこには私と同じ髪をもつ、大好きな人が立っていた。
「お母さん!」
「シフォン、久しぶりね」
私は駆け寄り、勢いよく抱きついた。
「久しぶり! そっか、お母さんは王城で働いてるんだよね」
「ええ、シフォンがくるっていうから楽しみにしてたのよ?」
「えへへ」
お母さんに頭をなでられつい頬が緩む。
やっぱりお母さんの手は温かくて、安心感がある。
「あ、お母さん。この人たちは私の仲間! ガレルとガナッシュ!」
お母さんの視線が二人へ移る。
その瞬間、二人はビシッと背筋を伸ばした。
「シャルロット・ガレルです。シフォンには、いつもお世話になっています」
「ラズベリル・ガナッシュです。魔術を扱う上で、いつもシフォンさんからいい刺激をもらっています」
そういって、二人は頭を下げた。
……なんだこいつら。がちがちに緊張してるじゃないか。
手は固く握っちゃって、頬には汗がつたっている。
……はじめて見る。なんかおもしろい。
「ふふ、顔を上げて、二人とも。こちらこそ、シフォンと仲良くしてくれてありがとう」
そういって、二人の肩をぽんと叩いた。
「これからも、仲良くしてくれると嬉しいわ」
「「はい」」
二人は、より一層姿勢を正して返事した。
「名残惜しいけど、私、もう行かなくちゃいけないの」
お母さんは私の頭に手を伸ばした。
「シフォン、最後にひとつ」
「なぁに?」
「特塾、楽しんでね。あなたの担任の先生、ウィッカって子なんだけど、私の後輩なの。とってもおもしろい子よ」
「ほんと!? 楽しみ!」
「ええ。それじゃあ、頑張ってね、シフォン」
そういって、お母さんは去っていた。
扉が閉まった途端、横にいたガレルとガナッシュが大きく息を吐いた。
「なんで二人ともそんな緊張してたの?」
そういうと、じとーとした目でこちらを見てきた。
「俺はお前が恐ろしい」
「え?」
「ほんとだよ、シフォンさん」
「ん?」
二人は呆れたように私を見ている。
え、え、なんで?
「世界最強格の人を前にすると、普通は緊張するんだ」
……でも、お母さんはお母さんだし。
◆
三日後、ロフラとペンが到着した。
みんなで合格を祝い合うのも束の間、すぐ出発するとのこと。
私たちの集合場所は、アンドル帝国。だけど、ガレルたち剣士の集合場所はスイト王国。
つまり、ガレルとはここでお別れだった。
移動の馬車はすでに来ていた。
ロフラとペンに先に乗ってもらう中、私とガナッシュはガレルと向き合う。
「思えば、一年も顔を合わせないなんて、生まれて初めてじゃない?」
ガナッシュがそんなことを言う。
この2人、生まれてからずっと一緒にいるのか。
「……そうかもな」
対するガレルは拳を固く握っており少し元気がない様子。
それもそうか。一人だけ別の進路で、寂しいもんね。
私は極力明るい声で言った。
「ガレル、たった一年会えないくらい、だいじょーぶ! きっと、一瞬で過ぎるよ!」
「ああ、そうだな」
ガレルは固く握っていた拳をほどき、穏やかな表情を浮かべた。
「それじゃあね、ガレル」
そう言ってガナッシュが馬車に乗り込む。
私もそれに続くが、乗り込む直前、最後、振り返った。
「ねぇ、ガレル」
「なんだ」
「一年後、楽しみにしてるね!」
彼は、嬉しそうにふっと笑った。
◆
馬車に揺られて一週間ほど。私たちは、アンドル帝国に到着した。
他国へ行ったことのない私にとっては、最も長い旅路だった。
乗ってただけなのに、結構疲れる。
しかし、馬車をおりた瞬間、そんな疲れは吹き飛んだ。
「すごい……」
石造りの家々。橙色に統一された屋根。そしてなにより、街の中心にある巨大な城。
街全体が理路整然としており、大国としての重厚感をひしひしと感じる。
スイト王国はもっと細く美しく、女性的な街だったが、アンドル帝国は全く逆だ。重々しくて力強い、男性的な街だ。
私たち四人は、大きな建物に案内された。
「皆様には、メンバー全員が集まるまでここで過ごしてもらいます」
そんなふうに施設の説明を受けていると、玄関の大きなドアが勢いよく開いた。
「よく来たな! 俺のライバルたちよ!」
そこには、眩しいくらいの金髪で、とても容姿の整った男の子が立っていた。
「俺の名前は、アンドル・ジーク。この帝国の皇子にして、風を操る天才魔術師!」
おうじ……、皇子!?
その男の子は啞然とする私たちをよそに言葉を続ける。
「さて……この中に、俺を楽しませてくれるやつはいるのかな」
帝国の皇子、アンドル・ジークは、私たちを見据えて不敵に笑った。




