-067- 推薦
学園長に呼び出された。久しぶりだな、この部屋。
学園長はその胡散臭い髭を撫でながら口を開く。
「特級魔術師養成塾って、知ってる?」
「いえ」
塾?
「……特級魔術師養成塾とは、世界魔術機関が運営する特級魔術師となり得る人材を育てるための塾。入塾した者は担任の魔術師と共に世界を周りながら腕を磨く」
「……」
「20年ほど前に創始された塾だが、すでに多くの特級戦力を輩出している。それくらい、特級を目指す者にとっては、この上ない環境が用意されている」
「……」
学園長は少しの沈黙の後、少し力を込めて言った。
「世界魔術機関は、三年に一回、入塾生徒の募集を行なっている」
じろりと、こちらを見る。
「対象は、世界連盟加盟国の15歳から18歳の子供」
「……」
「そして君は今、15歳」
なるほど、そういうことか……
「僕の言いたいことが、わかった?」
「……はい」
「僕は、君を特級魔術師養成塾の生徒として国へ推薦しようと思う」
学園長は、まっすぐと私の目を見て言い切った。
突然のことにしばらく黙っていると、学園長はこほんと咳払いをした。
「といっても、君はこれを拒否することができる。なにしろ、入塾するのであれば2年間世界の旅に出ることになるから。一応、留学という扱いになるので卒業に差し支えはないが、人間関係とかもあるからね」
特級魔術師養成塾……世界からガナッシュやロフラ級の魔術師が集まる教室。
行くことになったら2年間の過酷な旅。ミルフィユ学園の友達に、ロールとオランにさえ会えない。
そんなもの……そんなもの……行きたいに決まってるっ……!
私達は特級を目指すって決めたんだ。この塾は、その目標にぴったりだ。たとえ友達と、家族と会えなくなろうと、たった2年。この機会は逃したくない。
「一週間、時間をあげるからよく考え」
「行きたいです。推薦、よろしくお願いします」
食い気味に、そう言った。
「……そう。わかった」
そう、学園長は簡潔に、私の願いを受諾した。
◆
学園長の話だと、推薦だけじゃ入塾の条件を満たせないらしい。スイト王国内の学校からそれぞれ推薦された者が一箇所に集まり、世界魔術機関による試験が行われる。その試験に合格しなければ、入塾することはできない。対象年齢は15歳〜18歳。つまり、私は受験者の中で最年少、2歳も3歳も上の人たちと枠を争わないといけない。その難易度は言うまでもないだろう。
放課後の訓練場、私は特級魔術師養成塾――特塾の話題をガレルとガナッシュに出した。
「二人も話きた?」
「ああ」
「うん」
魔術師と同じように世界剣術機関が運営する特級剣士養成塾というのもある。ガレルにはそこへの話がきたのだろう。
「推薦うけた?」
「愚問だな」
ガレルはふんと鼻を鳴らす。まあそれもそうか。
「当然、受けたよ」
今度はガナッシュが答える。
2人とも、考えるまでもなく即答したようだ。
「他にも推薦の話きた人っているのかな?」
「さあ、俺たちの学年だと、この3人だけじゃないか? 上級生についてはわからないが」
まだこの話はノーレやフィナに言っていない。会えなくなると思うと、言い出し辛かったからだ。でも、なんとなくだけど、二人に話はきてないように思う。きていたとしたら、何か話してくれるんじゃないかな。
「もし入塾できたら、ガレルだけ別行動だね」
ガナッシュが言う。
特級魔術師養成塾と特級剣士養成塾は密接な関係にあるが、二年のうち最初の一年は別々に動く。そして後半の一年は合同で訓練を行う。
「たしかに。ガレルひとりだよ。私達と離れるの寂しい?」
意地悪な笑みを浮かべて聞いてみる。
「ああ、寂しいな」
ガレルは伏し目がちになった。
「……そ、そう」
……不覚にもドキリとしてしまった。
ガレル、無駄に顔がいいからそんな感傷的な顔をされると心に刺さる。
……むぅ、ガレル相手にドキリとするの、なんか悔しい。
「ガレル、やっぱり素直になったね。昔はそんなに率直に自分の感情を言わなかったよ」
「……そうか。昔は、子供だったからな」
まあ今も結構お子様ですけど。
「なにはともあれ」
こほんとひとつ咳をしてガレルが言う。
「わかりやすい目標ができたな。お互い、全力を尽くそう」
「うん」
「ええ」
◆
「フィナ、ノーレ。話があるの」
翌日の放課後。私はフィナとノーレを呼び出した。
「なによ」
フィナは椅子に座りながら、ノーレは腕を組みながらこちらを見る。
私は緊張しながら口を開いた。
「特級魔術師養成塾の入塾試験を受けることになったの。もし受かったら、2年間、旅に出ることになる」
「……っ」
フィナは無表情に、ノーレは息を呑んで私の話に耳を傾ける。
「だから、あの、もしかしたらね? 高一の冬から高三の秋まで、会えなくなっちゃうかも……って」
そして、しばしの沈黙。
最初に口を開いたのは、ノーレだった。
「だから、なに?」
仁王立ちで私を見据える。
「私はシフォンと二年間会えなくなるくらい、どうってことないわよ! だからなにも気にする必要はないわ!」
その様子に、フィナがくすりと笑う。
「会えなくなるのは寂しいけど、だからといって引き止めたりするわけないし、私たちもシフォンには自分の夢を追いかけて欲しい」
「そうね、シフォンは自分のことに全力を尽くしなさい! 私は全然寂しくなんてないから!」
……やっぱりこの二人は温かい。
「ふふ、ありがとう。二人とも、だいすきっ!」
勢いよく二人に抱きついた。
「ちょ、離しなさいよーっ!」
そう言う割には抵抗しないんだねぇ、ノーレ?




