-063- 中等部卒業
ついにこの日がきた。
「おめでとうございます、ハトサブル・シフォンさん。今日からあなたは上級剣士です」
私は剣の腕も上級に達した。
ダイスの特訓からもこつこつ円神流の技を磨き、基本と応用の型をすべてマスターした。
以前と比べてかなり強くなったと思う。
先生がいうには、中学生のうちに剣と魔術で上級になったのはミルフィユ学園史上私がはじめてなんだと。
ふふふ、なんだか誇らしい。
「やったな、シフォン」
ガレルが祝福してくれる。
「うん! ガレルもありがとね、いろいろ教えてくれて」
「気にするな。お前が上級になって俺も嬉しい」
「な、なに。すごい素直じゃんかよぅ」
「は? いつも通りだが」
そう?
あまり自分の気持ちを素直に口にするようなやつじゃなかった気がするけど。
ガレルも変わったのかな。
私は当然自分の魔術は磨き続けるけど、同時に剣術と融合した戦闘スタイルも研究しなければならない。そういった点ではやはりガナッシュやフィナのように魔術一本に絞ってる人たちと比べ不利だ。っていうか、私はめちゃくちゃ少数派で、そっちの方が圧倒的に多数派なんだけどね。
剣も上級になったし、目下の目標は浮遊術だ。
未だに成功できてない。
「シフォンさん。上級昇格おめでとう」
……にっこり笑顔の腹黒お化けがきた。
「ところで、そろそろ一ヶ月経つけど、浮遊術はできた?」
こいつ……絶対わかってやがる。
「……できてないよ」
「そりゃそうだ。一ヶ月でできたら、全魔術師が泣くよ」
「はぁ!? 無理なことわかってるんだったらなんであんなに煽ったの!?」
「ん? 一ヶ月でやるって言ったのはそっちでしょ?」
「ぐっ……それは、そうだけどっ……!」
くそぅ、こいつ、性格の悪い……!
「あはは、ごめん、意地悪だったね。いくらシフォンさんでも、最低5年はかかるよ」
「練習自体は小学生の頃からやってるし、そろそろ成功させたいんだよ……」
「あぁ、そうだったの」
そんな様子を見てたガレルが、不思議そうな面持ちで口を開いた。
「お前ら、そんなに仲良かったか?」
「「仲良くないから」」
つい声がハモってしまう。
私とガナッシュは不本意そうに顔を見合わせた。
◆
「へぇ〜、剣も魔術も上級かぁ。シフォンちゃんはすごいなぁ」
休日はブレッドと特訓。
もうすっかり冬なので寒いこと寒いこと。
「ブレッドもはやく上級になってよ」
「ちょ、無茶言うなって……」
「はい、休憩終わり。鍛錬の続きやるよ」
「うぇー……」
私は鬼コーチと化していた。さっさと休憩を切り上げ次の鍛錬に促す。
今ブレッドがやっている訓練はとても苦しいので甘えたくなる気持ちもわからなくないが、ここは根性勝負。がんばってもらわねば。
「ねぇシフォンちゃん……もう僕、かなり高い確率で受かる実力ついてない?」
「ぜんっぜんまだ。油断してると余裕で落ちるよ。ほら、集中して」
うそ。ブレッドはほぼ確実に受かるだろう。でもやっぱり油断して欲しくないし、なにより入試でいい成績をとってAクラスに来てほしい。
ブレッドには申し訳ないが、がんばってもらおう。
◆
そんなこんなで、入試の日がやってきた。
ここ数ヶ月でブレッドの魔術は格段に良くなったと言える。
特に火に関しては受験生の中でも群を抜いているだろう。
ブレッドはとても緊張していた。
うん、わかるよ。私も前世で受験のときすごい緊張したもん。
でもまあ、よほどのことがない限り受かるだろう。私の中で問題はAクラスに入れるかどうかなのだ。
受験後のブレッドに話を聞いてみると、実力は出せたようだ。本人も清々しい顔をしていた。
そして、合格発表日。
「あった! あったよシフォンちゃん!」
「おぉ! おめでとう!」
ブレッドは合格していた。
番号を見つけ、一緒にぴょんぴょんはしゃぐ。
Aクラスに入れたかどうかは、新学期にならないとわからない。
でも、昔からの友達がミルフィユ学園に来るのはうれしいものだ。
「シフォンちゃんのおかげだよ。ほんとうにありがとう」
「なんのなんの」
人に教えるというのは、私にとっても大きな利益となった。
人に何かを教えるということは、ある種その人の知識や技について責任を負うということだ。下手なことは教えられない。正確なことを教えるために、簡単なことであっても完璧に理解する必要がある。
私はブレッドとの特訓を通して魔術への理解をより深めることができた。
「じゃあ改めて。これからよろしくね、ブレッド!」
「うん、よろしくシフォンちゃん!」
◆
ミルフィユ学園中等部卒業式。
私は今日、ミルフィユ学園中等部を卒業する。
メンバーはほとんど変わらないとはいえ、3年間使ってきた校舎にはいろいろ思い出がある。やはり感慨深いものだ。
答辞は初等部同様ガレルが読んだ。3年前よりたくましく成長した彼は、凛々しく答辞を読み上げ、在校生、卒業生の心を強くうった。私の目から見ても素晴らしい姿だったと思う。
ただ、気の毒なことに式が終わった後大変そうだった。
ガレルとガナッシュは、女の子や二人に憧れている後輩男子たちに囲まれていた。
とても困り果てた顔をしている。
あいつらがモテることをうらめしく思ったりしたこともあったけど、さすがにああはなりたくないな。
「……」
「……」
二人と目が合う。
彼らは助けを求めているようだ。
やだね。なんで私が動かないといけないんだ。
舌を出してべーてしてやった。
「どうしたの? シフォン」
「んーん、なにもないよ」
一緒にいたフィナとノーレが不審な目でこちらを見ていた。
いけないいけない。
「フィナ、ノーレ。卒業おめでとう」
「シフォンも、おめでとう」
「なによ、改まって」
やっぱりこの2人の横は居心地がいいなぁ。
高等部にはさらに外部生が100人ほど入ってくる。もちろん、新しく来た人とも仲良くしたいんだけど、古くからの友達というのは不思議な温かみがある。
「これからもよろしくね」
特別なふたりなのだ。
◆
私にとって一年の締めくくりである剣杖会。
今年も同じように馬車で聖地アフォールまでやってきた。
「ロフラ! 久しぶり!」
「久しぶり、シフォン」
ロフラたちが通うマロン学園はスイト王国北部に位置する。モンブライトからはかなり離れているので、剣杖会くらいしか顔を合わせることができない。
「えぇ! ロフラ浮遊術習得したの!?」
「ふふ、シフォンはまだみたいだね」
「えぇーいーなー」
「上のステージで待ってるよ」
意地悪な笑顔浮かべ、そう肩を叩かれた。
く、悔しい……習得を急がないと置いていかれそう……
「あ、あの。シフォンさん……お久し、ぶりです」
「あっ、ペン! 久しぶり!」
ロフラの影に隠れて見えなかったが、なんとペンも来ていたようだ。
「ペンって剣杖会はじめてじゃない? 招待されたんだね!」
「はい」
まぁ、あの大会を見れば、誰でもペンは招待するだろう。
「シフォンさん。僕は、魔術師を目指すことにしました。こういう場にも積極的に参加する……ので、もし、どこかであったら、よろしくお願いします」
ペンの視線は真っ直ぐ私を見ていた。
大会の時と違って堂々としている。
うん、そっちの方がいい。
「そっか。ペンみたいな魔術師と一緒にがんばれるの嬉しいよ。こちらこそ、よろしくね。ロフラも、剣杖会以外であったときはよろしく」
「うん」
◆
帰りの馬車。
メンバーは相変わらず私とガレルとガナッシュ。
「はぁ、今年はなんかどっと疲れたな」
ガレルがため息混じりに言う。
「それはガレルが高校生と戦いすぎたからでしょ」
ガレルは大会で優勝したからか、今年の剣杖会での注目度がかなり高かった。それは私も同様で結構な数の手合わせをお願いされたがさすがに大変なので大半は断った。でもガレルは出来る限り全部引き受けたのだ。おバカというか律儀というか……
「そういえば、卒業式のときもめちゃくちゃ疲れたぞ。お前、俺たちのこと無視しただろ」
「そうだよシフォンさん。僕たちが困ってたのわかってたでしょう? 助けてくれてもよくない?」
「え〜なんのことだっけ〜?」
私はとぼけるが2人はじとーとした目で見つめてくる。
……もう。
「はいはい、ごめんなさい。でも、普通に考えてあんな状況、どうしようもないでしょ」
「……まあ」
「確かにね」
2人とも諦めたようにため息をつく。
「だが、舌を出して無視はないだろ、無視は」
「僕たち仲間だろう?」
「仲間だけど、それとこれとは別でしょー?」
そして、しばらく沈黙が続く。
10数秒後、ガレルが口を開いた。
「……ナツノは、今頃なにやってるんだろうな」
私たちの、もう1人の仲間。
「もう僕らなんか相手にならないくらい強くなってるかもしれないね」
「じゃなきゃ困る。あいつは魔王を相手にするんだからな」
ナツノは今、お父さんも含めたパーティーで魔王討伐へ向けた旅の途中。
彼は元気だろうか。
「俺たちは、あいつに置いていかれないくらい強くならなければならない」
ガレルは力強い、決意を秘めた瞳で私たちを見つめる。
「シフォン、ガナッシュ。俺たちの目標は、わかっているな」
「うん」
「当然」
剣杖会で、私とガレルとガナッシュで決めたことがある。
私たちは全員小学生の頃に上級になっており、昇格してから3年ほど経過している。
私たちとしてはずっと懸命に努力しているが、所詮は中学生。
まだまだ、実力不足。
そこで、より必死に、より切磋琢磨して上を目指せるよう、共通の目標を決めることにした。
初級、中級、上級。一般的に階級はこの三つだが、極めて逸出した者には、さらに上の階級が与えられる。
「「「特級」」」
現在、スイト王国内の特級戦力は10人。世界には43人。
特級は、剣杖の頂点を示す称号だ。
ナツノ――勇者の仲間として、私たちはそこを目指す。




