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-062- 入試準備

 秋休みがあけた、ある日のこと。ブレッドのお店にパンを買いにきたところ、ブレッドが呼び止めてきた。断る理由もないので部屋に上がる。


「ええと、シフォンちゃんに相談があるんだ」

「私に? どうしたの?」

「僕、ミルフィユ学園高等部の入試を受けることにしたんだ」

「ええっ!」


 ブレッドがミルフィユ学園に!?


「いいじゃん! ブレッドがきてくれたら私も嬉しい!」

「僕も、入学できたらすごく嬉しいんだけど……」

「……やっぱり、入試、不安だよね」


 ブレッドが顔を曇らす。

 そう。初等部と違い高等部の入試はとても厳しい。初等部の入試は本人の実力というより親の教育、あるいは経済力といったものが重要になってくるのだが、高等部入試は百パーセント本人の実力がものを言う。少なくとも中級剣士、魔術師でないと合格は難しいだろう。


「今日は、シフォンちゃんに僕の魔術を見てほしいんだ」

「そういうことなら任せて! 私、全国一位だから!」

「あはは、めちゃくちゃ頼もしいや」


 ◆


 街から離れた野原に移動した。

 ここなら、ある程度大きな魔術を使っても迷惑にならないだろう。


「まず、ブレッドが現段階で使える属性とその級を教えて?」

「土魔術が初級、水、風魔術が中級の技を使える。それでこの前、火魔術は上級を使えるようになったよ」

「上級!」


 それはすごい。ひとつの属性だけでも上級が使えれば、合格可能性はぐっと上がる。


「ブレッド、そんなに魔術練習してたの?」

「んー、練習というかさ。僕の店、街中にあるでしょ? だから、煙を出さないように火魔術でパンを焼いてるんだよ」

「へぇ、そうだったんだ」

「パンを焼くの練習してると、自然と魔術が上達していったんだ」


 それならば小さい頃から魔術訓練をやっていたことになるか。

 となると魔力量も期待できる。

 このままいってもブレッドは合格できるだろう。

 でも、やはり友達として、合格可能性は限りなく上げてあげたい。


「じゃあ、各属性、全力の魔術を一つずつ私に見してくれる?」

「うん、よろしくお願いします」


 そう言ってブレッドは魔力を練り始めた。


 高等部入試にもなると、受験者のほぼ全員が中級魔術師だ。

 中級魔術師になるためには三属性で中級魔術を、上級魔術師になるためには三属性で上級魔術を取得する必要がある。

 ブレッドは今、中級魔術師にあたる。

 中級と上級の壁は厚い。

 私の学年では、魔術専攻は150人ほどいて上級魔術師はわずか4人。私にガナッシュ、あとフラン。それと、フィナも上級魔術師だ。30人ほどが初級魔術師で、残りの約120人が中級というわけだ。

 学園卒業時に20人上級魔術師になれば多い方だと言われている。人によっては、10年20年ずっと中級で足止めを食らっていることもあるのだ。

 それだけ、中級から上級に上がるのに苦労している人が多く、層が厚い。

 それを考えると、すでに上級魔術を一属性取得しているブレッドは比較的上級に近い。

 これなら、Aクラスも夢じゃない。

 はずなんだけど……

 ブレッドが次々と魔術を見せる。


 まず土魔術。初級だしこんなものだろう。

 水魔術。ごく普通の中級魔術だ。

 風魔術。うん、中級。でもちょっと弱い。


 そして火の上級魔術。

 ブレッドは大きな火球を出して見せた。

 それは、確かに上級魔術だった。

 遥か高みにある上級だ。

 上級……上級なのに……


「ぬるい」

「えぇ!?」


 ブレッドはショックを受けた顔をした。


「なんだろう。確かに上級なのに、全然怖くない。いい言い方をすれば、やさしい炎。悪い言い方をすれば、なまぬるい炎」


 ずっとパン焼きに魔術を使っていたから、火加減するクセがついているのだろうか。


「あのね、ブレッド。火の上級魔術っていうのは普通こういう感じ」


 私は魔力を練り、火の上級魔術を使ってみせた。

 膨大な熱量を孕む火球を生み出し、射出する。そして近くにあった大岩を破壊した。


「す、すごい……」


 ブレッドは目を見開いて驚いている。この威力の魔術を始めて目の当たりにしたのだろう。


「僕も、こんなすごい魔術が使えるようになるの……?」

「しかるべき鍛錬すればね」


 ブレッドは少し黙ってから覚悟を決めた顔で口を開いた。


「お願いシフォンちゃん。僕に、魔術を教えて」

「ふふふ、いいでしょう。私が教えるからには必ず合格してもらうよ?」

「うん。絶対合格する」


 こうして、私とブレッドの特訓がはじまった。


 ◆


 思えば、私は人に教わることが多かった。フランしかり、ダイスしかり。人にちゃんと教えるというのは初めてかもしれない。

 得意な魔術を人に教えるのに、少しわくわくしている。

 ブレッドの鍛えるべきところは明確だ。

 すばり、魔術の出力。

 魔術師は魔力だけあっても役に立たない。魔術の威力、すなわち出力を大きくせねばならない。

 ブレッドはそこそこ魔力量があるそうだし、出力を大きする訓練に集中していいだろう。

 後日、鍛錬のプランを組んで私は再びブレッドのもとを訪れた。


「いい? 今のブレッドは、魔術の通り道がとても狭くて威力が弱い。今から、それをこじ開けて出力を大きくしていく」

「うん、どうやるの?」

「気合」

「……」


 やめて、そんな胡乱な目で見ないで。

 だってしょうがないじゃん。結局、剣術にしろ魔術にしろ、根性がなければ成長は見込めない。


「今から、一発一発集中して火魔術を使ってもらう。ひとつ前より威力が強くなるように意識しながら。これの繰り返しで、出力は徐々に上がる。地味かもしれないけど、これが一番近道なんだからね」

「なるほど……」

「言っておくけど、相当苦しいからね? 魔力を無理矢理一気に出すわけだから」

「大丈夫。覚悟はできてるよ」

「そう。何回もやっているうちに要領掴めてくると思うから、頑張って」

「うん、ありがとう」


 そうして、ブレッドは鍛錬に入った。

 私はというと、もちろんブレッドの様子を見てアドバイスをしたり訓練に変化を加えたりするが、自分の魔術も磨きたい。

 今、私が熱を入れていることは浮遊術。

 大会で、ガナッシュがやっていたやつだ。

 めちゃくちゃ難しくて、まだ成功してない。ガナッシュにコツを聞いても練習あるのみの一点張り。さらに「全国一位のシフォンさんなら余裕だよね?」とか言ってきやかがったあいつ。まったく性格の悪い。ついカッとなって「ええ余裕ですとも。一ヶ月以内に成功させてみせる」と言ってしまった。成功できなかったら煽られまくるのは目に見えているので、がんばろう。


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