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-061- 距離感

みじかめ

 一週間ほど経過した。

 実験はつつがなく進んだ。

 順調にデータ収集ができたそうで、フランの満足顔がつやつやである。


 私は、アメリアから話を聞いてからフランにどう接すればいいかわからなくなっていた。

 いや、表面上はいつも通りに接してるんだけど、ずっと心がモヤモヤしている。

 フランと出会って三年。毎日のようにフランの隣で勉強して、実験の手伝いをして、ミルフィユ学園で最も親しい人のひとりだ。

 でも急に遠くへ行ってしまったような、そんな気持ち。

 アンネルクス・マリアという大魔術師の子であり、幼くして両親がいなくなるという異色の過去を経験している。


 私は、フランについて何も知らないんだ。

 今までは知ったつもりになっていたから、距離が近く感じていた。でも、知らないことがひとつ、またひとつと私とフランの間に増えていき、距離がどんどん遠くなる。


 なんでもない、ただの友達だったフランが、急に特別な存在に見えてきた。

 私がこんな親しくしているのが、奇跡かのように思えるくらい。


 私はどうするのが正解だろうか。


 ◆


 実験最終日。

 ふと、フランがこんなことを言い出した。


「そういえばさ、コルクとカンタ、魔術工学の教授に能力を認められて、鉄道開発チームに加わったらしいよ」

「えっ、鉄道ができるの!?」

「うん、西部から北部まで王国を横断するようにできるんだって。もう工事に着手しているそうだ。3年後、完成予定らしい」

「そうなんだ……ふたりとも、すごいなぁ」

「あぁ、ほんとうにすごいよ」


 リンリンにカンタにコルク。

 ベニエ村を羽ばたいていったみんなが活躍していて私は嬉しい。

 今年は帰れないから、バオバとレミリーには手紙を出しておいた。

 手紙が返ってくるのが楽しみだ。


 ◆


 予定通りにことが進み、実験は全て完了した。

 そして、転移の命令式系も特定できた。

 フランはとても幸せそう。


「これって、私たちいつでも転移魔法が使えるってこと?」

「まあ、そうなるね。でも、この命令式系は転移魔法の核、必要最低限のものにすぎないから、転移魔法を色々応用したいのなら周辺の命令式を調べる必要があるよ」

「ふぅん」


 ちなみに、かなりあっさりしているが、これは世紀の大発見である。転移魔法は他の魔法とは比にならないくらい便利だ。これが世に広まったら、交通革命が起こる。

 でも、フランはこの結果を世に公表しない。軍事利用されるのを憂いているのだ。

 それに、フランからすれば転移魔法は通過点にすぎない。


「アメリア、シフォン」


 綺麗な声で呼ぶ。


「僕の夢は、勇者召喚の魔法陣を解析して、異世界にいくこと。すごく、非現実的な夢。今まで、糸口すら見えなかった。でも、やっと……やっと転移の命令式系を特定できた。これは大きな前進だ。僕ひとりでは絶対に挫折していた。ふたり……アメリアとシフォンのおかげだ。僕の身勝手な夢に協力してくれて、ほんとうに……ほんとうに……」


 ――ありがとう。


 綺麗な瞳を三日月に歪ませ、まっすぐこちらを見つめてる。

 私とアメリアは顔を見合わせてくすりと笑う。

 フランの目は幸福の光でいっぱいで、いつもより一層きれいだ。


 フランはずっと夢を追っている。私と出会った頃から、いやそれよりも前から。



 あぁ、私は間違っていた。

 母親が伝説的魔術師だからなんだ。

 父親が幼くしていなくなったからなんだ。

 私は強烈なエピソードに惑わされ、私の知らなかったフランが本物で、私が知っていたフランが偽物のように感じていた。

 違う、そうじゃない。

 どっちもフランだ。

 私がよく知っている研究熱心なフラン。

 私が知らなかった暗い過去を持つフラン。

 それは地続きにつながっていて、今がある。


 思っていたよりフランがすごい過去を送っていたくらいで、私とフランの距離が遠ざかることはありえない。


「フラン。私、フランの夢を、助手として、すぐそばで見届けたい」

「僕にとっては、嬉しすぎる言葉だよ」

「そっか。これからもよろしくね」


 私はごちゃごちゃと考えすぎてた。

 もっと単純。

 親とか過去とか関係ない。

 私とフランは、友達なんだ。


 ◆


 翌日、私とロールとオランは研究所を後にした。


「ロール、オラン、楽しかった?」

「うん! たくさん本があって楽しかった」

「いい勉強になった」


 二人とも満足してくれたようでなにより。

 だけど……


「フランさんとまた会いたい!」

「そうだね。もっとお話ししたい」

「……」


 どうやら二人はフランに懐いたようだ。

 こればかりは、どうも面白くない。

 この二人の年上ポジションは私が独占していたい。

 やばい……二人がフランに取られたら、私死ぬ。

 あぁ、嫉妬の音がする。

 敵だ。フランは敵だ。

 絶対二人は渡さないから!


 ◆


 シフォンたちが帰った後、フランとアメリアは二人で食卓を囲んでいた。


「アメリア」

「なんですか?」

「君、シフォンに何かいっただろ」


 アメリアは体をびくりとさせる。

 まさか、バレているとは思わなかった。

 シフォンはアメリアの言った通り普段通りに接していたのに。


「……すみません。フラン先輩のご両親のこと、話しました」

「……なるほどね」

「ごめんなさい」

「いや、いいよ。僕からは伝えづらい話だったし。気を利かしてくれたんだろ?」


 アメリアはシフォンにフランの過去を受け入れた上で、友達になってもらいたかった。

 普通の人がフランの過去を聞いてしまったら、仰々しく接してしまうだろう。

 でも、シフォンも同じく特級の親の子であり、今も健在てありこそすれ、境遇は近いところにあるから、大丈夫だと思った。

 事実、シフォンはフランに対して接し方を変えなかった。むしろ、絆が深まったようにさえ感じる。


「別に、絶対知られたくないわけじゃないからね」


 確かに、フランはシフォンに両親のことを隠していた。

 だがそれは、知られること自体が嫌なのではなく、闇の過去を知られることで自分との間に距離を置かれることを恐れたのである。異端な幼少期を知られ、好奇の目で見られ、身勝手な同情をされ、今まで積み重ねた親密さを喪失するのが、フランにとってはなによりも怖かった。


"私、フランの夢を、助手として、すぐそばで見届けたい"


 シフォンの言葉を思い出す。

 この言葉は、フランの過去に対する、シフォンの答えだ。

 大事なのは、フランとシフォンがこの学園で出会い、一緒に研究してきたこと。

 それ以外は関係ないのだという、シフォンからのメッセージ。


(僕は、ほんとうに学友に恵まれた)


 あらためて思う。その奇跡に感謝しながら。


 シフォンには、何回も助けてもらっている。

 もし、シフォンになにかあったときは、必ず僕が助ける。


 フランは、そく固く誓った。

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