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-057- 大会後


 混合戦はミルフィユ学園の優勝で幕を閉じた。

 もちろん、すっごく嬉しくてチームみんなではしゃいだけど、大会はまだ終わりじゃない。個人戦が残っている。


 三日間の休息日を挟んで、ニ日間にわたる個人戦が行われた。

 小学生のころは準決勝で私がロフラと戦ったけど、今回も私とロフラが準決勝で戦った。

 そしてなんと……私が勝ちました!

 雷魔術の射程が長いことをガナッシュから聞いていたのが大きかったね。そのおかげでロフラ相手に隙をつくらなかった。

 私は3年前のリベンジを果たしたのだ。

 さらに!

 決勝戦ではガナッシュと戦った。

 そして勝った! あのガナッシュに!

 あのガナッシュに勝ったんだよ!?

 すごくない!?

 もうね、めちゃめちゃ嬉しくて、有頂天だったよ。

 今まで散々悔しい思いしてたけどやっと長年の努力が報われた気分。

 決勝戦では、剣を扱うときの身体の使い方が役に立った。魔術師は普通ある程度距離を置きながら戦うが、私は懐に潜り込み速射の魔術で戦った。

 天才ガナッシュといえど、近距離戦には戸惑ったのだろう、反応速度にかなりの遅れが生じていた。私はその隙をついたのだ。


 全国大会優勝、つまり、同年代で最も優れた魔術師という称号を手に入れたのだ!


 ◆


 大会が終わり、各々の街へと帰り始める。

 私たちは帰る前に杖を交えた人たちに挨拶回りにいった。

 リンリンとはたくさん話した。話が積もりに積もってるからね。

 挨拶回りの途中、一人でいるペンをみかけたので捕まえた。


「ペン、お疲れ様」

「あ……シフォンさん。……優勝、おめでとうございます」

「ふふ、ありがとう」


 ペンとは混合戦が終わった時から話したいと思っていたのだが、チャンスがなく、話したいことがたくさん。


「ペンって個人戦出てなかったよね? どうして?」

「え、えと……戦いが、得意じゃなくて……。混合戦は、みんなのためだから出れたんですけど……」

「……そっか」


 昔、私もそうだったから、わかるなぁ。


「ペンは、魔術師を目指しているの?」

「……正直、わからないです。僕は、戦いが苦手なので、将来は魔術師なんて絶対ならないって、思ってたんですけど……」

「うん」

「今回、大会に出て、シフォンさんやガナッシュさんみたいなすごい魔術師を目の当たりして……なんていうか、僕も、ああなれたらなって……ちょっと、憧れてしまって……」

「……」

「あ、あの、身の程知らずだっていうのはわかってるんです! でも……」

「全然! 身の程知らずじゃないよ! ペンはもうすでにすごい魔術師だよ!」


 そういうと、ペンは口をぱくぱくさせた。


「いや、あの、みなさん、そう言って、くれるんですけど……僕は……」

「だーかーらーっ! ペンの自己評価なんてどうでもいいの! ペンがすごくないんだったら、どうして1対3で勝てたの? どうしてロフラに頼られたの?」

「……」

「ペンは……目を逸らしてるだけ。なぜだから知らないけど、自分がすごいという事実を認めたくなくなってる。ほんとは気づいてるんじゃないの? 自分に……魔術の才能があるって」

「……」

「……ご、ごめんね。私が口を出すことじゃないのに、知ったようなこと言って」

「いえ……」

「でもね、やっぱり、エゴにとらわれず、冷静に自分を客観視することも、大事だなーって思うよ?」


 ……まずい、ペンが俯いたまま固まってしまった。

 あぁ、余計なこと言っちゃったかな……。

 とそこで、ロフラがやってきた。


「ペン、こんなところでなにやってるの。……シフォンと一緒に」

「いや、話を……してただけです」

「そう」


 うしろからガレルもやってきた。


「シフォン、こんなところにいたのか。なにやってたんだ?」

「んーん、とくになにも」

「……」


 ちょうど帰る時間だったので、そろそろ別れよう。


「それじゃあ、私たちはもう行くね」


 踵を返そうとすると、ペンが口を開いた。


「あ、あの!」


 私は振り向く。


「話……聞いてくれてありがとうございました」


 そして、ペンはぺこりと頭を下げた。


「ふふ……いいってことよ」


 私の言葉、悪く思っていないのならよかった。お互い目を合わせてにっこり。

 その様子を見てたロフラはこちらをじとーと見て肩をつかんできた。

 そして小声で、


「シフォン、ペンを元気付けてくれたのは、ありがとう。だけど……」

「だけど?」

「ペンはその、私の、お気に入りだから、まあ、あまり、二人っきりでいないように……お願い」

「!!」


 ……!! それってつまり、そういうことだよね!?

 ロフラの顔は珍しく朱が混じってる。


「がんばってね……!」


 そういうと、ぷいっと顔をそらしてしまった。

 ふふふ、ロフラかわいい。


 ◆


 ロフラたちと別れた後、私の横で歩いていたガレルの機嫌が少し、悪かった。なんだかんだガレルとの付き合いも長いから、あまり表情に出さないけど感情の機微がわかるようになってしまった。


「ペンとなに話してたんだ?」


 突然ガレルが言ってきた。


「んー? ペンは、もうちょっと自信を持った方がいいよって話」

「あー……それは、そうだな」


 私の答えにガレルは納得したようだ。

 でも、まだ機嫌が悪い。

 実は、なんでガレルが機嫌悪いのか、私はわかっているのだ。


「ねぇガレル」

「なんだ」

「言い忘れてたことがあるんだけど」


 そういうとガレルは足を止め、こちらを真剣な眼差しで見つめる。


「個人戦、優勝おめでとう」


 そう、こいつは個人戦を優勝したのだ。しかも圧勝。前々からすごい人だとは思っていたけど、こうも圧倒的だと、ガレルの強さを再認識させられたよね。


 さぁ、これがあなたの求めていた言葉でしょう。

 ……って思ったけど、ガレルはなんだか複雑な顔をしている。

 え? なにその反応。おめでとう言ってなかったから拗ねてたんじゃないの!?

 しばらくしてガレルはフッと笑い、私の頭を軽くコツンと叩いた。


「はぁ!? なにするの!?」

「おまえも、おめでとう」

「……、……ありがと」


 ……まあ、機嫌は直ったようだし、いっか。



 そうして、大会は幕を閉じ、私たちはモンブライトへ帰ったのだった。


 ◆


 マロン学園の帰りの馬車にて、ロフラとペンは向かい合っていた。ペンは別の馬車に乗ろうとしていたのだが、ロフラが無理矢理この馬車に引き込んだのだ。

 ペンは居心地悪そうにしている。それは、ロフラにも伝わった。ロフラは悲しい気持ちになる。自分と一緒にいるのが、そんなに嫌なのか、と。


 混合戦でミルフィユ学園に負けてから、ペンはロフラを避けていた。ペンはどうやら、自分がシフォンに負けたせいでチームが負けたと思っているらしく、ロフラに合わせる顔がないんだとか。ロフラからしたら、勘違いも甚だしいと、怒りたい気持ちになる。むしろ、マロン学園で一番賞賛されるべきはどう考えてもペンだ。相手を3人撃破、そしてシフォンの足止め。シフォンに負けてしまったのは、経験不足だとロフラは思う。なんせ、戦闘訓練をまともにはじめたのは中学2年生になってからなんだから。

 でも、ここで怒ってしまってはさらに嫌われてしまう。ロフラは慎重に、言葉を選びながらペンに話しかけた。


「……ペン。私は決勝戦で一番よかったのは、あなただと思っている。敗北の原因は、ペンじゃなくて私。相手の作戦にまんまとのっかってしまった。決勝戦までにガレルとシフォンの存在感が妙に薄かったのを無視してしまった」


 負けたのは、ペンのせいじゃない。だから、そんなに避ける必要はないのだと、そう言おうと思ったとき、


「そんなこと、言わないでください」

「え……」

「僕たちのチームは、ロフラさんにものすごく頼ってました。だから、少しでもロフラさんの負担を減らす必要があったんです」

「……」

「僕は……悔しいです。戦いに負けて、こんな気持ちになるのははじめてで、自分でも意外です」


 大会を経て、明らかに変化している。

 ペンの眼差しは以前とは異なり真っ直ぐとロフラを見据えていた。


「ロフラさん……僕は――」


 ――僕は、魔術師になります。


 以前、ロフラはペンに言った。魔術師にならないのか、と。

 ペンはならないと答えた。

 ロフラはあの手この手でペンの説得を試みた。

 結果は芳しくなかった。

 しかし今、ペンは魔術師になるといった。


 大会がペンに刺激を与えたのだろうが、決定的に意見を変えさせたのは、シフォンだろう。

 ロフラはシフォンに嫉妬する。

 恋心を抱いてる相手に対し、自分では説得できなかったのに、他の女が説得してしまったのだ。

 当然だろう。


「そっか」


 優しく、ペンの覚悟を包み込むように答える。


「じゃあ、頑張ろうね」


 いじけたい気持ちもあるが、ペンが前向きに魔術師を目指すようになったのは、素直にうれしい。


(お礼は言わないよ、シフォン)


 ペンは、特級にも届き得る。

 ロフラは予感していた。


 ひとりの女の子としてと同じくらい、ひとりの魔術師としてもペンと一緒に上を目指せるのを、ロフラは心の中で祝福した。

戦いをメインにするつもりはないので、個人戦は……ね

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