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-056- 決勝戦 後編


 広大なフィールド全体に、濃い霧が出現する。

 霧魔術というのは、水と風の複合魔術。決して簡単ではない。上級魔術師であっても使えない者はごまんといる。2系統の魔術を完璧にコントロールしながら同時展開するというのは非常に難易度が高いのだ。


(昔見た、シフォンちゃんの霧魔術だ……)


 リンリンは昔を思い出す。ベニエ村での思い出。はじめて魔術を使った日。随分と長い時間が経った。ここ数年、リンリンは自分の魔術が着実と上達しているのを嬉しさと共に感じていた。しかし――


(遠い……)


 成長したからこそ分かる、シフォンとの差。魔力消費の多い霧魔術をこんなにも広い範囲で発動させるなど、異常だ。魔術師として、常軌を逸している。

 おそらく、先までの戦いは、魔力を温存されていた。二人がかりで、シフォンの全力を引き出すことさえできなかった。

 リンリンは悔しさに拳を握りしめる。

 戦いはまだ終わっていない。今、自分にできることを……。


 そう思い、火魔術て視界を確保した瞬間、リンリンの意識は途絶えた。


 ◆


「ふぅ……」


 ガナッシュは、シフォンと戦っていた二人をダウンさせ、一息をつく。

 ガナッシュはシフォンと連絡を取れたわけではない。ではなぜ、すぐにリンリンの位置を特定することができたのか。

 その答えこそ、ミルフィユ学園の作戦のすべてである。


 物体操作術の高等応用魔術、"浮遊術"。


 これは空中に浮遊することのできる魔術で、取得難易度は極めて高い。大量の魔力を前提とした術であることに加え、人により得意不得意が激しく適性がなければ実践レベルでの使用は不可能。


 ラズベリル・ガナッシュは、これを用い空からフィールド全体を見渡していた。


 霧の中で視界を確保するために火を起こすのは定石。だが、リンリンは火を起こしたことにより空から場所を特定され、不意打ちを許した。


 浮遊術は魔力消費が大きい。あまりゆっくりはしていられない。

 ガナッシュは淡々と、次の獲物を狙いに行く。


 ◆


 霧が出現した瞬間、ロフラは躊躇わず加熱魔術で辺り一体の霧を消す。ここでガレルを逃してはならない。そう判断した。

 霧が晴れ、ガレルを再び捕捉すると同時に、宙に浮いてる少年が目に入る。


「浮遊術……!」


 ガンと、頭を殴られたような思いだった。魔術師ならば誰もが憧れる浮遊術。当然、ロフラだって練習している。だが、まだ成功には至っていない。それを、同い年の少年がやっているのだ。

 幼い頃から神童と呼ばれ続け、こと魔術に関しては他者の能力に嫉妬することなど一度たりともなかった。しかし、こればかりは――


「ずるい……」


 つい溢れてしまう。


「あなたたちは、無茶苦茶だ」

「は?」

「中学生で斬撃を放てる剣士なんて聞いたことないし、こんな広大な範囲の霧魔術見たことないし、浮遊術をこの年齢取得するなんて、想像もできない」


 ミルフィユ学園の強みはそのチームワークだと思っていたが、違った。それはただの隠れ蓑にすぎず、彼らの本領は、圧倒的な個々の力。


「……それは、降参の言葉ととっていいのか?」


 ガレルはまっすぐとロフラを見据える。

 ロフラはガレルの目をみてふんわり笑う。


「まさか」


 忘れてはいけない。クリオル・ロフラも圧倒的な個の力を持つ者のひとり。


「私を甘く見ないで」


 ロフラは遥か遠方のガナッシュに向かい、杖を構える。そして、即着の稲妻を撃ち放った。


「浮遊術には驚いた。だけど、あんな的、逃すわけがないでしょ」

「……まじかよ」


 ガレルは被弾したガナッシュが落ちていくのが見えた。


(くそっ! 誤算だ……!)


 ガレルは内心舌打ちをする。

 ガナッシュを視認できるほど広大な範囲の霧を消されることを想定していなかった。そして、ロフラの雷魔術もそんなに射程が長いとは思わなかった。

 ガナッシュがやられた今、作戦は完全に破綻している。


(こいつは、ここで俺が確実に仕留めなければならない)


 ガレルはまっすぐ、ロフラと向き合った。


 ◆


 雷が直撃したガナッシュは、落ちゆく中でかろうじて意識を保っていた。

 あんな遠方からの攻撃、警戒をしていなかった。

 もうじき意識がとぶ。その前にできることをやるのだ。


 ロフラからの攻撃の直前、ガナッシュはペンの居場所を特定していた。仲間にその居場所を知らせる。それがガナッシュにできる最後の悪あがき。


 ガナッシュはペンに向かって巨大な火球を投げつけた。

 そして、風魔術で地面との衝突を和らげる。

 着地してすぐ、ガナッシュは意識を失った。


 ◆


 雷が打たれたと思ったら、今度は光と共に別の轟音が鳴り響いた。

 私は音のした方向へと走る。

 現場は、火球により綺麗に霧が晴れた代わりに、煙でいっぱいだった。


「あ、危なかったぁ……」


 煙の中から、そんな声が聞こえた。

 やがて煙がおさまり彼は姿を現す。

 少し猫背で、自信のない表情。


「ピリオド・ペン……」


 私がそう呟くと、ペンがこちらを見て目が合う。


「あ、あなたは……ハトサブル・シフォン……さん……」

「……」


 しばしの沈黙。

 先に口を開いたのは、ペンの方だった。


「あ、あの……じゃあ、攻撃させていただきます」

「いや、敵に断りを入れるやつがいるか!」


 思わずツッコんでしまった。

 ペンは物体操作術で近くの岩を投げ始める。

 ……なるほど、これは脅威だ。

 脅威っていうかチートすぎない!?

 この重量のものがこのスピードで飛んでくると、真正面から対応するのは無理だって!

 こんなのきたら回避するしかない。

 まったく……あんな自信なさそうにしてるくせに出鱈目なやつだ。

 ただ突破口はある。

 ペンは生成術を使っていない。使う必要がないからか、それとも使えないのか、定かではないが、いずれ投げるものがなくなる。

 そうしたら移動する、もしくは生成術を使うことになるがそれは隙となる。

 ペンが近距離戦が苦手なのは見え見え。ならば少しでも隙があれば懐に潜り込めばいいのだ。

 心配どころは、さっきの霧魔術で魔力を半分くらい持っていかれたことかな。ペンもかなり派手に使ってるけど、どれくらい残っているのだろう。


「さ、さっきの霧魔術……シフォン、さんのですよね」

「うん、そうだよ?」

「す、すごいですね……あんな大規模なの使っておいて……ま、まだ余裕がありそう」

「ペンだって序盤から岩や木を投げまくっているのに、よく魔力枯渇しないね」

「……じ、実は、あんまり魔力消費しないんですよ、これ」


 ぜったいうそ。

 これはペンの感覚がバグってるな。

 あんな岩動かすのにどんだけエネルギーいると思っているんだ。


「……ペン。あなたはもっと自信持った方がいいよ。それともあなたの言動は私を油断させるための演技なの?」

「ち、ちがいますよ! ぼ、ぼくはほんとに、たいしたこと、ないんです……」


 そういいつつ岩や木を軽々と投げつけてくるペン。

 言ってることとやってることがなにひとつ一致していない。

 なんなんだこの人。


「たいしたことあるって。ロフラにもそう言われてたでしょ?」

「ロフラさんは……やさしいから……」


 うーん……すごいもどかしい……!

 自信がない人というのは、過去の成功体験が少ないことが多い。

 ペンもそういう人なのだろうか。

 でも、ペンには確固たる実力がある。今まで不運にも評価されずとも、ちゃんと実力があるのなら成功体験を積みそのうち自信もついてくるだろう。

 

 そして、その時はやってきた。

 ペンの周りに投げれるものがなくなった。

 ペンは後ろに下がろうとするが、私はその隙を逃がさない。

 風魔術により超加速し、ペンを地面に押さえつけ、刃を首に当てる。


「あなたはが反撃するよりもはやく、私はこの剣を振れる。勝負ありね」

「……ッ! ……ま、まけました」


 降参の言葉を確認したので、私はペンの上からどく。

 するとペンは涙を溢れさせわんわんと泣いてしまった。


「ちょ、ちょっと! そんなに泣かないでよ! なんか悪いことした気分になるじゃん!」

「うぅ……だってぇ……ぼくは、ぼくは……ロフラさんに、合わせる顔がないっ!」

「……大丈夫、あなた化け物みたいに強かったから」

「うぅ……うそだぁ……」

「少しくらいは素直に人の言葉を受け取りなさいよ! もう! 私はもう行くからね!」


 試合はまだ終わっていない。遠くから戦闘の音がする。私は音のする方へと走り始めた。


 ◆


 ガレルとロフラの戦いはまったくの互角であった。

 互いに隙を与えない。双方毎秒迫られる選択を間違うことなくさばいてゆく。

 これは、先に手を誤った方が負ける。

 ガレルとロフラ共に、そう確信していた。


(1番の脅威はやはり雷魔術。しかし、今までの戦いを見る限り発動に少しの溜めを要し、それは隙になる。ならばそうやすやすと打つことはできないだろう)

(完璧な間合いのコントロール……決定打となる雷魔術を簡単には打たせてくれない。斬撃の対応には慣れてきた。持久戦なら望むとこ)


 二人の才能、経験、技術、それらすべて含めた実力が拮抗している。互いに致命の攻撃を許さず、戦いは持久戦に持ち込まれようとしていた。この2人だけでは、この膠着した状況を変化させることはなかっただろう。

 だから、この緊張が破られ、均衡が崩れるのだとしたら、それは第三者の介入によるもの。

 つまり――


「ッ!?」


 ロフラが着地した地面が、泥になっていた。

 ほんの少し、足をとられる。

 それによって生まれた隙は約1秒。だが、それはガレルを前には大きすぎる隙であった。


「俺たちの、勝ちだ」


 ロフラの首元にはガレルの剣。逃れようがなかった。


「……やっぱり、シフォンの仕業」

「普通の攻撃じゃ防がれちゃうかなって思ったから」


 シフォンは草陰から出てきてにこりと笑う。


「私たちの勝ちだよ。それとも、この状況をひっくり返せる?」

「シフォン……性格悪い。……私たちの負け……今回はね」


 クリオル・ロフラの降参により、勝負は決した。


「決勝戦、2対0でミルフィユ学園の勝利ッ! 優勝は……ミルフィユ学園!」


 この会場に、審判の声が大きくこだました。

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