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-055- 決勝戦 中編


「シフォン、ロフラの相手は俺がする。他二人を頼む」

「了解ッ!」


 そう言って私たちは別れる。

 3対2だとジリ貧だから、1対1が得意なガレルにはロフラ一人を相手にしてもらい、私はリンリンたちを相手にする。

 ロフラは規格外の魔術師だ。リンリンには申し訳ないけど、ロフラがいないのなら1対2でも問題ない。


「ねぇ、シフォンちゃん。ガレル君、ほんとにロフラちゃん相手に一人でやれると思う?」


 攻撃の狭間、リンリンがそんなことを言ってくる。


「当たり前じゃん! ガレルはああ見えてすごいんだよ」

「でも、彼は剣士だよ。魔術師は剣士よりも射程が長く、攻撃の規模も大きい。往々にして一騎討ちで剣士が魔術師に勝つのは至難の技だって、よく知られてることでしょ?」

「リンリン……それはガレルっていう剣士の凄さをわかってないなぁ」

「……シフォンちゃんだって、ほんとに魔術師ロフラの凄さ、わかってる?」


 私とリンリンとの間で火花が散る。

 買い言葉に売り言葉。私はガレルを信じてる。

 とはいえ、リンリンの言っていることは正しい。1対1のとき魔術師は圧倒的に有利だ。だけど私たちはガレルとロフラを1対1にした。側から見たら、これは愚策だろう。


「それに、これまでの試合を見てたけど、ガナッシュ君は確かに強力。でも、ガレル君がロフラと一騎討ちで勝つのは難しそうって思ったけどなぁ」


"あなたたちの中心はガナッシュ。攻撃の起点も、防御も、彼に依存しているところが大きい"


 先ほどのロフラの言葉を思い出す。私は内心ほくそ笑む。

 大丈夫。全部、()()()()だ。

 作戦通りだし、ガレルが一騎討ちに負けるとも思っていない。

 ロフラが規格外であるのと同じように、ガレルもまた、とんでもなく規格外なのだ。


 ◆


 ――大会前。

「俺とシフォンとガナッシュの3人で連携するとき、決勝戦まではガナッシュを中心にして俺とシフォンの存在感を薄くしたい」


 ガレルは大会メンバーを集めてそう言った。


「……理由を聞いても?」

「決勝戦までの我慢が前提になるが、利点は大きい。まず、相手の油断を誘える。そして、相手の作戦が読みやすくなる」

「作戦が読めるの?」

「ああ。ガナッシュを警戒するなら、ガナッシュだけを分断するだろ、普通。そして、数的有利の状況をつくり仕留めようとする。それを読んでこちらも作戦を立てるんだ。混合戦は試合をコントロールした方が勝つ。このメリットはでかい。デメリットとしては……ガナッシュの負担が大きすぎることだな」

「なんでその役割が私やガレルではなくガナッシュになったの?」

「多勢を相手するのが最も得意なのが、ガナッシュだからだ。俺やシフォンは、サシのほうが勝率が高い」

「……なるほど」

「……ガナッシュ。この作戦を実行すれば、大会が進むにつれ注意がどんどんお前に集中する。ものすごく大きな負担となる。だが、お前の能力を見込んでの提案だ。頼まれてくれるか」

「うん。任せて」


 そして、この作戦は決勝戦に至るまでつつがなく実行された。

 3人のコンビネーションはガナッシュ中心にして、シフォンとガレルの過小評価をつくりあげる。

 ガレルの推測通り、決勝戦にてマロン学園はミルフィユ学園を分断、そしてガレルやシフォンを侮っている。

 一見、試合をコントロールしているのはマロン学園に見えるが、実のところ、全く逆なのだ。


 そして現在。

 クリオル・ロフラは目の前の剣士を見据える。


 強い。想像よりもずっと。


 それがロフラの抱いた率直な感想だった。

 ガレルの強みの一つは速さである。ロフラは一定距離を保って魔術を放つが、まず当たらない。それどころか、僅かでも隙があれば距離を詰めてくる。

 こんな動き、前の試合では見なかった。


「あなた、今まで手を抜いていたでしょ?」

「さあ、なんとことだか」


 不敵な笑みを浮かべるガレル。

 ロフラは火魔術を放つが、当然のようにかわされる。


「そんなのろい攻撃、あたるかよ」

「あなたこそ、一撃も届いてないじゃない」


 ロフラはシフォンたちとある程度離れたところに来たことを確認する。


「ここまで離れたなら、ある程度規模の大きい魔術が使える」


 そして、ガレルを囲むようにして大量の魔力を消費し火魔術を展開した。彼にに逃げ道は残されていない。


「この炎の輪は徐々に縮まり、あなたの身を焦がす。当然、その間も私は攻撃を続ける。火傷したくないのならさっさと降参して」


 ガレルは、ゆっくりと剣を構え、口を開く。


「別に、規模のでかい攻撃は、魔術師の特権ってわけでもねぇだろ」


 剣士にとって、魔力とは纏うもの。纏える魔力が大きいほど、打たれ強く、攻撃力も高い。


「遠距離攻撃がてきないなんて、いつ言った?」


 鍛錬を続ければ、魔力を魔力のまま飛ばせるようになる。

 ガレルは凄まじい量の魔力を練り、剣に高密度の魔力を纏わせた。

 ロフラの背筋が凍りつく。


(……冗談でしょ? そんなこと、たかが中学生の剣士ができるわけ……)


 次の瞬間、ガレルの剣から斬撃が放たれた。

 炎は一瞬にして消し去り、それは突風のようにロフラにせまる。


「くっ……!」


 直前で身をよじり命中は避けたが、腕にくらってしまった。


「あたるじゃねぇか、俺の攻撃」


 ガレルはくつくつ笑う。


「さぁ、続きを始めよう。ギア上げていこうぜ」

「……あなたになら、少し強めの魔術を使っても問題ないね」


 二人の火花は勢いを増すばかりだ。


 ◆


 シフォンとガレルが激しい戦いを繰り広げる一方、フィールドの一部は冷却魔術により銀色景色となっていた。中心には銀髪の少年。


「悪いね。あまり時間もかけられないんだ」


 その少年――ラズベリル・ガナッシュは白い息を吐く。

 彼の目の前には二人の魔術師。

 しかし、いずれも意識を失っていた。

 勝負はあまりにはやく終わっていたのだ。


「さて、ピリオド・ペンとクリオル・ロフラの動向が気になるところだけど……とりあえず、作戦の実行を急ごう」


 そう言って、ガナッシュは空高く作戦続行の合図である花火を打ち上げた。


 ◆


 銀色地帯より少し離れたところ。

 ピリオド・ペンは目の前に倒れる3人を見下ろしていた。

 レオレオン・フィナ、ロズルート・ノーレ、ゴードン・ダイス。この3人はなすすべもなくペン一人に壊滅させられた。


「やった……僕だって、やればできるんだ……」


 ロフラの期待に一つ応えたことに安堵する。


「次……急がなきゃ」


 ロフラと合流しようと動き出した瞬間、パチンと、花火が打ち上がった。


 ◆


 花火が打ち上がった。

 ガナッシュからのメッセージ。


"作戦に問題なし。作戦を開始せよ"


 私はそれを見るや否やリンリンたちと距離をとる。


「ごめんね、真正面から戦うのはここまで! それじゃあ!」

「逃がさないよ!」


 リンリンたちが追いかけてくる。


「今まではあなたたちの作戦に乗せられてたけど、私たちの作戦はここからだから!」


 私は精一杯の魔力を練り上げ、フィールド全体に霧魔術を展開させた。

 この濃霧の中私を追うのは無理だろう。

 さぁ、ガナッシュ。あとは頼んだ!


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