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-054- 決勝戦 前編

よーやっと受験終わったー


 混合戦のルールは単純明解。

 どちらかのチームが全員戦闘不能になるまで戦う殲滅戦だ。

 ただし、制限時間をオーバーした場合はその時の残り人数で勝負が決まる。

 生徒の安全確保のため、重大な怪我につながる攻撃は禁止されていたり、攻撃力の高いいくつかの魔術が禁止されていたりするけど、所詮高校生の戦いなのでそこまで激しくなることは少ない。


 この混合戦、私たちミルフィユ学園は快進撃を繰り広げていた。

個々の力も申し分なく、チームとして強力だった。特に、私とガレルとガナッシュのコンビネーションは勝ち上がる上で大きな武器となった。冒険者活動のおかげか、この大会でも屈指の連携だった。


 準決勝に勝利し、決勝へと進んだ。

 私たちは全員、優勝は目前だと思った。

 しかし――


「マロン学園対カヌレ学園……6対0で、マロン学園の勝利ッ!」


 試合終了と同時、歓声が湧き上がる。

 もう一方の準決勝は、マロン学園の圧勝であった。

 カヌレ学園も紛れもなく強豪だった。

 しかし、マロン学園の実力はそれを遥かに上回り、完封。


 私たちは確信した。

 この決勝――今までとは比にならないくらい厳しい戦いになると。



 会場までの道のり。

 私たちはガレルを先頭に歩く。


「言うまでもなく、クリオル・ロフラは要警戒だ。しかし、それと同等以上に厄介なやつがいる。ピリオド・ペン……剣杖会で見たことないが、あいつは何者だ……?」

「彼の物体操作術は凄まじかったね」

「ああ。岩すら持ち上げていた」


 おそらく私の方が魔力量は多いのだが、私の物体操作術はあそこまで強力じゃない。ロフラだけでも手一杯なのに、ピリオド・ペン……本当に厄介な相手だ。リンリンの魔術も小さい頃とは比べ物にならないくらい上達していて、驚いた。


 歩いていると、ロフラを先頭に歩くマロン学園の生徒たちとかち合った。


「……よう。決勝進出、おめでとう」


 ガレルが言う。


「そっちこそ。なかなかやるね」


 ロフラが返す。


「だけど、今年の優勝はマロン学園。ここは譲れない」

「こっちのセリフだ。俺たちは負けない」


 2人の間で火花がバチバチなる。

 こんなに強気なロフラ、初めて見る。少し怖く感じてしまう。堂々と対峙するガレルが頼もしい。


「君の物体操作術、すごいね。僕あんなに強力なの初めて見たよ、ピリオド・ペンくん」


 今度はガナッシュが話しかけた。


「あ……い、いや……ぼ、ぼぼ、ぼくなんか、ぜ、全然……です」


 ペンと呼ばれた男の子はガナッシュに話しかけられておどおどしている。どうやら弱気な子のようだ。


「そんなことないさ」


 ガナッシュは余裕の笑みでにっこり。

 見かねたロフラは、ペンくんの肩をたたく。


「……ペン。あなたはもっと自信をもって」

「い、いやでもろ、ロフラさん。ほ、ほんとにぼぼぼくなんか……」

「……はぁ、ペンはいつもそうやって」


 ロフラは困ったように肩をくすめる。


「行くぞ」


 ガレルはそう言って歩き始めた。私たちもそれについていく。

 マロン学園の生徒が見えなくなったあたりで、私は一息ついたのだった。


 ◆


 試合の舞台は大人の魔術師により造られる。決勝の舞台は森。会場に到着した頃には、まあまあの広さの森がこしらえられていた。

 両チーム、準備が整う。


「決勝戦ッ! マロン学園対ミルフィユ学園、試合開始ッ!」


 緊張の中、審判が開始の声を張り上げた。

 それと同時に轟音が鳴り響く。何が起こった把握する間も無く、フィールドが影に落とされる。空を見て、私たちは陰の正体を知った。

 

「おいおい……まじかよ、あいつ。あんなにキョドってたくせに、おもしれぇ……!」


 ガレルは笑っている。

 って笑ってる場合じゃないでしょ!

 陰の正体は大量の木。

 彼の魔術は大地を割り、森の木々を文字通り根こそぎ引き抜き、宙に浮かせた。

 ピリオド・ペン……なんて魔術師!

 木はものすごいスピードで落下してきた。


「一箇所に留まるな! 走って回避ッ!」


 私たちは落ちてくる木々を避け続けたが、しばらくして相手の手のひらに乗ってしまったことに気づく。

 大量の木が横たわり、フィールドを隔てる障害物となっていた。乗り越えることは容易ではなさそう。乗り越えたとしてもあまりにも目立つ。そして、私たちはバラバラに散っていた。

 つまるところ、私たちは開始即、分断されたのだ。


 私は周りを確認する。


「シフォン! こっちだ!」


 ガレルは近くにいた。

 しかし他4人は見当たらない。ガナッシュと分断させられたのはかなり痛い。


「みんな……大丈夫かな」


 他の状況がわからない。


「考えても仕方がない。今は備えろ。すぐに襲撃がくる」

「うん!」


 私が返事をすると同時に、森の陰から火魔術が放たれた。

 警戒していたガレルはすばやく避ける。


「あらら、外しちゃった」

「問題ない、リンリン。こっからじわじわ追い詰めていく」

「そうだね〜」


 出てきたのは3人。ロフラとリンリンと女の子もう一人。


「ガレルとシフォンとガナッシュ。このトリオは強力だった。だけど、試合を見てて分かった。あなたたちの中心はガナッシュ。攻撃の起点も、防御も、彼に依存しているところが大きい。さぁ、ガナッシュ抜きの二人でどれくらい耐えれる?」

「シフォンちゃん! 私の成長、見してあげる!」


「あいつがいないくらいでお前らにはちょうどいいだろ。何分耐えるか、数えてやろう」

「私の魔術も昔とは段違いだからね、リンリン!」


 3対2――数的不利の戦いが始まった。


 ◆


 ピリオド・ペンの魔術により、ミルフィユ学園は三つに分断された。一つは、シフォンとガレル。そしてもう二つは、ガナッシュと、それ以外に分断されていた。


 フィナは目の前の魔術師を見上げる。ひょろっとした体に自信のなさそうな顔。しかし強い。圧倒的なまでに。ひょっとすると、シフォンよりも――


「みんな、離れないで」


 今、最悪なのは今一緒にいるフィナ、ダイス、ノーレをさらに分断されること。3人の連携を失ってはならない。


「あ、あの……ぼ、ぼく、ひ人に魔術使うのがに、苦手で……。はやく、こ降参してくれると、あ、ありがたいです」

「それ、本気で言ってる?」

「ひぃぃ! ご、ごめんなさい」


 そういってピリオド・ペンは木を引き抜き投げつけてくる。ものすごい重量。エネルギー。受け止めるのにも回避するのにも一苦労。フィナたちは内心舌打ちする。


「あなたそれ、わざとやってるの?」


 フィナは苛立っていた。この男の実力と自信の乖離に。こんなに力があるのに、どうしてそんなに弱いんだ。


「うぅ……そ、それってなんですか……」


 ペンは俯く。


「あぁ、怖い……。だから嫌だったんだ、こんな大会。こんな怖い思い、したくないよ……」

「だいたい、ほんとに僕なんて大したことないんだ……それなのにみんなが持ち上げるから……」

「で、でも……ぼ、僕は、任された。託された。頼りに、されたんだ……」

「こ、こんな僕を信頼してくれるみ、みんなの期待に、ぼ、僕は応えたい……」

「だから――」


 ――あなたたちを、一人で完封してみせる。



 ピリオド・ペンは自分に自信がない。しかし、それは彼の育ちを鑑みれば仕方がないものである。

 彼の魔術の才能が開花したのは、中学生になってしばらくしてからのこと。急に魔力量が増え、物体操作術の強度が上昇していった。それまで、親や兄からゴミのような目で見られていた。ピリオド家は魔術の名門。魔術の扱えないやつは誰でもゴミ以下とみなされる。魔術が使えなかったペンは、家族として、いや、人間としてすら扱われなかった。その過程で、彼は自尊心を消失した。


 しかし――


「私はあなたの力を信用している」

「あなたがあなたをどう思うと関係ない」

「私はこの試合をあなたに託す。だから、やるべきことをやりなさい」


 神童と名高いクリオル・ロフラ。ペンにとっては、月よりも遠い存在。そんな彼女から、信用していると言われた。ペンは、その言葉に救われたのだ。


(ここで僕が負ければ、ロフラさんの作戦は破綻する。ロフラさんが僕を信じて託してくれたこと、嬉しかった。だから、絶対にやり遂げる……! そして、僕もロフラさんみたいな魔術師に――)


 感謝と憧憬。ペンを動かす原動力。それが不安と弱気を置き去りにして、彼の実力は跳ね上がる。


 ◆


「1対2って卑怯だと思わない?」


「思うかよ。前回チャンプ、ラズベリル・ガナッシュ」

「悪いがお前はここで倒させてもらう」


 ガナッシュは一人であることに焦りを感じていなかった。むしろ、魔術を派手に使いやすいとさえ考えていた。彼は器用な人間で、周りに合わせることが得意だ。とはいえ、そればかりが目立っているが、彼の真価はそこではない。


「まあいいさ。主力は僕以外に割かれたようだね。さしずめ君たちは時間稼ぎだろう?」


 彼らは答えない。


「さっさと倒して、ガレルたちと合流するとしよう」


 こちらでも戦いの火蓋は切り落とされた。


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