-051- 戦闘
私、ナツノ、ガレル、ガナッシュは冒険者活動も継続的に行なっていた。
いずれも日帰りの旅もなったが、それでも十分に楽しいものだった。
地図をよんで、知らない土地を歩いて、魔物と戦って、たまに絶景にめぐりあって。
私たちは昨日もそんな刺激的な旅をしてきたのだった。
「あの魔物がでたときはびっくりしたな」
「あー、あれね。一瞬焦ったけど、意外と脆かったよね」
訓練場でガレルと剣の鍛錬をしていたらガナッシュとナツノも集まってきて昨日の話で盛り上がっている真っ最中。
ガレルとの手合わせのあとにナツノとも戦ったのだが、もう全然敵わなくなっていた。
ナツノは勇者だからか、成長が随分とはやい。
魔術ではまだ負けていないが、剣術ならガレルと肩を並べる。
この調子なら、数年後には魔王を倒す実力もつくだろう。
今代が歴代の魔王と同レベルならね。
「こうして四人揃って出かけられるのも、残りわずかだな」
ガレルがそんなことを言った。
「そうだね。ナツノは中等部卒業と同時に魔王討伐の旅にでるんだもんね」
「ああ」
「あっというまだったね」
「……ああ」
ナツノは、少し寂しそうな表情を見せた。
「ナツノ……」
私が何か言う前に、ガレルは口を開いた。
「俺はさ、こっちの世界に来たとき、最悪の気分だったよ。でも、ここでお前らに会えて、毎日が楽しくなった。お前らには本当に助けられた。ありがとう」
「ナツノ……!」
ナツノのそんな言葉に、私たちは嬉しくなって、みんなで笑顔になった。
――そんな中、私たち四人は何かの気配を察知した。
「……!」
「なんだ⁉︎」
とても、おぞましい気配だ。
とても校内だとは思えない。
――ズシン
大きな地響きと振動が、訓練場を揺らした。
「今度は地震か⁉︎」
「待って! さっきの気配、どんどん近づいてきてる!」
――ズシン
「おい、音も大きくなってきてるぞ!」
――ズシン
何かの気配と、地鳴りがどんどんと近づいてくる。
そんな状況の中、危険をいち早く察知したのは、ナツノだった。
「全員後ろに飛べ!」
私、ガレル、ガナッシュは考える間もなく、反射的にその言葉に従った。
次の瞬間、訓練場の壁がものすごい轟音とともに崩壊した。
そして、白い煙の中から、そいつは現れた。
「アー、勇者? ッテノハ、ドイツ、ダ?」
大きい。
見るからに力が強い。
そしてなりより、
「喋った⁉︎」
言葉を、発した。
元来、魔物には高い知性がないと言われている。
故に、人間とのコミュニケーションは不可能だった。
それなのに、こいつは今、人間語を喋った。
「マアイイ、ゼンブ、殺セバ」
ミノタウロスのような見た目の魔物は気味の悪い笑みを浮かべた。
そして、力に任せて一番近くにいたガナッシュを吹っ飛ばした。
「ガナッシュ!」
ガナッシュはものすごいスピードで壁に激突する。
魔物は次にガレルへと拳を振り上げた。
「ガレル危ない!」
ガレルはしっかりと反応し、拳を受け止めた。
だが、魔物の力が強く、押し潰されそうになる。
「くっ……重い……!」
ナツノが助けに入りようやく拳を退けることができた。
「俺とナツノが奴をおさえる! その隙にシフォンは魔術を打ち込め!」
「了解!」
私は愛剣双葉を構え、魔力を練る。
二人はなんとか魔物の相手をできている。
機を見て私は火の上級魔術を4つ展開した。
「アッチイナァ!」
魔物は火を煩わしそうにするだけで、目立った効果は見られない。
運が悪い……魔術に耐性の強い魔物だったか。
だとしたら、物質的な質量魔術にシフトしないと……
でも、この訓練場がもっと壊れて危ないし、ガレルとナツノを巻き込んでしまうかもしれない。
せめて、ガナッシュが復帰してくれれば……!
そのときどった。
「凍れ」
絶対零度に達するかのような、恐ろしいほどに冷たい声が響いた。
直後、あたり一体、魔物含めて一瞬にして凍った。
ただし、私たちを除いて。
その声の主は私たちに被害が及ばないよううまく調節し、魔物の動きを封じたのだ。
恐るべき技量。
私はその声の主を見る。
銀髪の彼は、冷気の中からコツコツと足音を立てて近づいてくる。
彼の瞳は、ひどく冷たく、白い肌には、温度を感じない。
無機質な生物。
凍れる存在。
これが、彼――時期ラズベリル家当主、ラズベリル・ガナッシュの本気の姿。
「奴の攻撃は僕がとめる。3人は僕を信じて、奴を斬れ」
「「おうッ!」」
魔物は自身に纏わりついた氷を砕き、第二ラウンドがはじまった。
◆
私は魔術を練るのをやめ、剣に集中する。
魔物は向かってくる私たちを拳で薙ぎ払おうとするが、拳を構えた瞬間に氷漬けにされる。
その隙に私たちは剣を入れる。
すでに何撃か入れ、魔物の体のあちこちから血が滴るが、大して痛がっている様子もない。
どんだけタフなんだこの魔物……!
だが、状況は圧倒的に優勢だった。
ガナッシュが攻撃を止めてくれるため、魔物の攻撃がこちらに届くことはない。
「ガアアアアッッッ!」
魔物は突然咆哮し、ガナッシュに向けて走り始めた。
「まずい! そっちに行かせるなッ!」
ガナッシュが凍らせるが、スピードが乗った魔物はすぐに氷を砕く。
連携の要のガナッシュを狙うとは、やはりあいつにはれっきとした知性がある。
私は急いで魔物の進行方向に泥の塊をつくり、魔物に当たったら泥から水分を抜いて固めた。
「ガレル! ナツノ! 今ッ!」
私の号令で二人は飛び出し、魔物の首に剣を入れる。
だが、首は硬くはねることはできていない。
「はあああああッ!」
私は飛び出し、風魔術で勢いをつけ、魔物の首に剣を入れた。
「グワァァッ!」
さらに私は何重にも風魔術を展開した。
そして――
――ザクッ
剣は魔物の首を落とし、魔物は崩れるように倒れていった。
私はへたりと座り込む。
「あ、危なかったぁ……」
魔物は完全に死んだようで、ピクリとも動かない。
「何事だ!」
轟音を聞いて飛んできたのか、何人もの先生がやってきた。
「これは……」
先生たちは絶句する。
崩壊した訓練場。
首がちょん切られた巨大な魔物。
傷だらけになっている私たち。
こんなところで魔物と戦闘になるなど、誰か一人でも考えたことがあるだろうか。
先生たちの視線は魔物から私たちに移った。
私たちは顔を見合わせ、お互いの無事に安堵したのち、困ったように肩をすくめたのであった。




