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-050- 仲直り


 手合わせ開始の合図とともに私は前に駆け出す。

 対するダイスは受けの姿勢。

 隙の無い構えでこちらを油断なく見据えている。

 ダイスが間合いに入った瞬間、私は剣を振った。

 フェイントを一二回混ぜるがダイスはきっちりと剣を受け止める。

 すかさず私は二撃目に移るがダイスの方が初速が早く、少し押される形で剣を受けた。

 さらにダイスの追撃がくる。

 ダイスの剣は流れるようで、一つ一つの筋が繋がっていて綺麗だ。

 このままでは、滑らかな無駄のない動きでじわじわと攻め落とされてしまう。

 少し前の私なら、ね。

 私は新しく円神流の型を覚えたことによりダイスと同じような流れる剣を振ることができるようになっていた。

 この連撃も、なんとか耐えれる。

 ダイスはここで決着をつけようと思ったのか、より前のめりに剣を振り始めた。

 だけど、そのせいで守りが手薄になっている。

 その隙を見逃すほど私は甘くないのだ。

 私は容赦なく守りが薄くなっている右横腹に剣を入れた。

 だが、


「えっ⁉︎」


 ダイスはするりとかわし、剣を振り上げ、思いっきし私の頭に振り落とした。

 計画通り、とでも言いたげな笑顔を浮かべながら。


「痛い……」

「様にはなってきたけど、駆け引きの点でまだまだだな」


 くそう……あれは罠だったのか。

 やられた!


「体力もある。剣の基礎もある。そして応用もできるようになってきた。だけど、フェイントや重心移動と言った駆け引きができない。それじゃガレルには届かないぞ」

「えぇ……駆け引きとか、どうすればいいのかわからないよ」

「まあ、シフォンはそいうの苦手かもな。ただ、惑わされないようにしたほうがいい。ガレルは自分からフェイント仕掛けるのは苦手だが駆け引きにはちゃんと対応してくるぞ」

「うーん……」

「こういうのは経験だ。対応できるようになりたければたくさん戦え」

「わかった」


 やればやるほど課題がでてくる。

 もっと頑張らなくちゃ。


 ◆


 廊下でガナッシュに声をかけられた。


「シフォンさん、最近剣に力を入れてるらしいね」

「あぁ……うん、そうだよ」

「どうしたの? 剣士志望に転じることにしたの?」

「ちがうよ」

「じゃあどうして?」

「……別に」


 あなたの親友を見返したいだけですが、とは言い難い。


「ふ〜ん。じゃあ話変わるけど、最近ガレルを避けてるよね? それはどうして?」


 ……こいつ、私が剣術に力を入れてる背景にガレルがいること気づいていたな。


「だって、ガレルが酷いこと言ったから……」

「そっか。それでガレルを見返したくて剣を頑張ってるんだね」

「……」


 ……ガナッシュはいつもそうだ。

 なんでも見通しているかのように言ってくる。

 なんかずるい。


「あのさ、シフォンさん。虫がいい話だとは思うんだけど、ガレルに謝るチャンスを与えてくれないかな? ガレル、シフォンさんに避けられてすごく落ち込んでるんだよ」

「落ち込んでる……?」

「うん。ナツノやダイスは仲良くしてるのに、なんで俺だけ……って」

「……」


 ……ふーん。

 ガレル、そんなに落ち込んでるんだ……


「考えとく」

「ありがとう」


 ガナッシュは、なんていうか卑怯だ。

 そんなこと言われたら、罪悪感で胸が締め付けられてしまう。

 ……話くらい、聞いてあげてもいいのかもしれないな。


 ◆


 ガレルは確かに落ち込んでいるように見えた。

 歩く姿に覇気が無いし、時々小さくため息をついている。

 う〜ん、これ私のせいなんだよなぁ……

 どうやって話しかければいいんだろ。

 私から無視してた手前、すごく気まずい。

 さて、どうしようかなぁ。


 ◆


 私がうじうじしていると、先にガレルが話しかけてきた。


「シフォン」


 私はガレルに背を向けたまま立ち止まる。

 なぜかわからないけど、うまく顔が合わせられない気がした。


「……なに」


 返事をすると、驚くような雰囲気が感じられた。

 今日も無視されると思ったんだろう。


「……なんで、最近俺を避けるんだよ」

「……」

「言ってくれなきゃ、わからない」


 ここで、仲直りするのは簡単だ。

 私が謝って、ガレルにも謝ってもらって。

 でも、あのとき。


 ――娯楽みたいなもんだな


 そう言われて腹がたった。

 悔しかった。

 だから、ダイスに頼んで稽古をつけてもらった。

 ガレルを無視したのは悪かったと思ってる。

 でも、ガレルに一泡吹かせたい気持ちは変わらないんだ。


「……理由、言ってもいい」

「……」

「けど、その前にお願いがある」

「なんだ」

「私と、手合わせして欲しい」


 ◆


 ガレルは何も言わずに訓練場までついてきてくれた。

 木剣を渡して準備運動をする。


「それじゃ、いくよ」


 勝ってやる。絶対に。


 カーン


 私とガレルは合図と同時に飛び出した。

 ガレルの方がコンマ数秒はやく動き出し、剣を振った。

 私は剣を構えて防御。

 カコンと剣がぶつかってから攻めに転じる。

 一撃、二撃、三撃。

 一つ一つの動作に無駄を無くし、全てが繋がっているように動く。

 以前まではなかなか攻撃が続かなかったが、円神流の型を覚えた今、それは容易い。


 私が攻め、ガレルが守り、という状況がしばらく続いた。


 ガレルは私の隙を縫い、剣を強く弾いた。

 よろめく私にガレルは大きく剣を振り下ろす。

 足を崩した私は慌てて反撃しようとするが、ガレルは剣を宙に置き去りにして避けてから、逆の手で掴み私の喉元に突き刺した。


「勝負ありだ」


 ……、

 ま、負けた……

 途中までいい感じだったのに、円神流の型を破られた、あっさりと……


「う、うぅぅ〜」

「は? お、おい、泣くなよ!」

「ないでないから!」

「どうみても泣いてるじゃねぇか……」


 ◆


「それで、最近俺を避けていた理由はなんだ」

「…………れて、…………から」

「きこえないぞ」

「あなたに私との戦闘を娯楽って言われて、悔しかったからだよ!」

「やっぱりそれか……」

「やっぱりってなに⁉︎ 気づいてたの⁉︎ だったらはやく謝りに来てよ!」

「はぁ⁉︎ 俺が謝ろうとしてもお前が避けてたんだろうが!」

「ご、ごめんなさい……」


 ガレルは大きくため息をついた。


「……あと、ダイスと一緒にいたのはなんだ」

「……ガレルに一泡吹かせようと思って、ダイスに教えてもらってた。全く通用しなかったけどね……」

「そういうことか」


 少しの沈黙の後、ガレルは口を開いた。


「その、あれだ。さっきの手合わせでは、お前が円神流の技を使ってきて、割と焦った。だから、別に、通用しなかったことはない……と思う」

「え……ほんと?」

「ああ。お前がすごく強くなってて、びっくりした」


 そして、ガレルは珍しくさわやかな笑顔を浮かべ、


「いつもより数段楽しかったよ」

「っ〜!」

「お、おい。なんで殴る! 殴るな!」


 楽しかったって……結局私ガレルに遊ばれてるじゃんかー!



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