-048- 弟子入り
中等部三年生になっても、相変わらずガレルとの手合わせでは負けばかり。
差を縮めようと頑張っているのだが、ガレルの成長スピードについていけない。
……ほんとうに、いつまでこの手合わせをやるんだろう。
「ねぇガレル、いつまでこの手合わせをやるつまりなの? ガレルと私って、もう勝負になんないじゃん。剣術Aクラスの人と手合わせやったほうが鍛錬になるんじゃないの?」
「……俺との手合わせは嫌か?」
「いやべつに……むしろありがたいくらいだけど……」
「……剣術Aクラスの連中の剣にはな、技ばかり追いかけて中身が無いんだよ。だからやっててもつまらん。もちろん、ちゃんとした奴もいるけどな。その点、シフォンの剣には長年積み重ねてきた重みがある。だからやってておもしろい」
「……ふ〜ん」
ガレルはあれでいて、一応私の剣を認めてくれていたのか。
ガレルは、ふっと力を抜いて口を開いた。
「だからまあ、俺にとってシフォンとの手合わせは――」
と、ガレルは目を細め――
「――娯楽みたいなもんだな」
――は?
私との手合わせが、娯楽?
へぇ? ふぅん? なるほどねぇ?
会ったばかりの頃は私に勝とうと必死だったくせに、随分と偉くなったものだねぇ。
ええそうですね、あなたはもう私よりよっぽど強いのですから、私に勝つのなんて楽勝で、私との手合わせなんて娯楽のように感じるんでしょうね。
「……帰る」
「? なんでお前そんなに機嫌悪くなってるんだよ」
「知らないっ!」
私は乱暴にドアを開け訓練場を出た。
なにあいつ! なにあいつ!
こっちは必死にやってるのに!
それを娯楽って!
ムカつく! 超ムカつく!
もう絶対に手合わせなんかやってやるもんか!
私は自分の部屋に入るとそのままボフッとベッドに伏した。
目を閉じると、ガレルに会ったばかりのころのことがうつしだされた。
乱暴な性格で、精度の低い剣筋で、弱かったのに……
ガレル、強くなったなぁ……
『娯楽みたいなもんだな』
その言葉が頭にぽんと蘇る。
……ほんとうに、随分と、差がついてしまった。
ああ――
「悔しいよ……」
そんな私の独り言は、どこにいくともなく、この部屋をふらふらと漂って、最後は闇に消えてしまった。
◆
このままガレルに置いていかれたく無い。
というわけで、剣術の鍛錬を増やすことにした。
今までの方法じゃ多分追いつけない。
そこで私は気づいた。
師匠の存在が必要だ、と。
であるから、私は剣術が詳しそうな人に助けを求めた。
「ノーレ、私に剣術を教えて!」
「は?」
そう、ノーレは剣術Aクラスのエリートだ。
ノーレは剣士の家系だし、知識も多い。
師匠としてはいい相手だろう。
「教えてって……シフォンと私の実力ってそんなに変わらないじゃない。むしろ、あなたの方が強いくらいよ」
「でも、私、これ以上どうすればいいのかわからない」
「……なにかあったの?」
私はノーレに一連の出来事を話した。
「っていうわけで、強くなりたいの」
「ふーん……あいつもひどいこと言うわね」
「そうなんだよ! ほんっとムカつく!」
「……シフォン、あなたの流派は?」
「円神流だけど」
円神流っていうのは、最もメジャーな流派のひとつだ。
私はお父さんに習っていただけだったから、モンブライトに来た時初めて自分の流派を知ったんだよね。
「私円神流じゃないから教えるのは無理よ」
「そっかー……」
「でもまあ、円神流に精通してるやつ知ってるから、紹介してあげる」
「ほんと⁉︎ ありがとうノーレ!」
「ちょっ、抱きつかないでよー!」
ノーレ、いつのまにそんなに顔が広くなったのかぁ。
嬉しいねぇ。
◆
数日後、ノーレがその人を紹介してくれるという日がきた。
私が訓練場で待っていると、ドアが開きノーレとノーレに連れられた男の子がやってきた。
ガレルより少しばかり身長が高く、黒い髪の男の子だった。
「シフォン、お待たせ。この人が円神流を使ってるゴードン・ダイス」
「ゴードン・ダイスだ」
「ハトサブル・シフォンです。よろしくお願いします」
「それで、僕に何のようだ?」
私は一呼吸置いて、頭を下げた。
「私に剣を教えてください!」
「……!」
恐る恐る顔を上げると、ダイスは目を見開いてこちらを見ていた。
「あの、ダイス……?」
「いや、悪い……ハトサブル・シフォンは剣も得意な生徒だと聞いていたから、ちょっと予想外だったんだ」
「そ、そう?」
「しかし、なんで僕なんだ? 確かお前はシャルロット・ガレルと仲がいいだろう。あいつに教わればいいじゃないか」
「ガレルは顔も見たくない」
「……?」
私は事の顛末をダイスに説明した。
「そういうことか」
私の話を聞き終えたダイスは重々しく頷いた。
「つまり、お前はガレルにギャフンと言わせたいわけだな?」
「……!」
今までイライラしていて思考が纏まらなかったけど……確かに……
「そう、かも」
「なら、この僕が協力してしてやろう。僕もあいつの悔しがっている顔が見たいとこだしな」
「ほんと⁉︎ ありがとう!」
「そうだな……まずは、お前の実力を把握したい。手合わせといこうか」
「うん!」
こうして、私とダイスの打倒ガレル大作戦がはじまった。
なお、蚊帳の外にされたノーレが機嫌を損ねたのは言うまでもない――




