-045- 亜竜出現
学校祭やらテストやらあってめちゃくちゃ遅くなりました、すみません……!
それから、私たちは何度か魔物と戦闘を行った。
戦いを重ねるたびに、経験というものは大切なんだなと思い知らされる。
例えば、魔術の威力。
私はいつも対人戦で鍛錬を積んでいたから、威力は常時弱めにしている。
だけど、魔物戦では相手を絶命させるところまでやるから、いつもより威力を上げないといけない。
そこらへんの調節が難しいのだ。
「ガナッシュは、対人と対魔物でどう魔術を使い分けているの?」
「んー、人には氷、魔物にはなんでもって感じかな。対人戦のときには威力を調節するより殺傷能力の低い魔術を使うようにしてるよ」
「なるほど……」
威力の調節より、そもそもの使う魔術を区別しといた方がシンプルでいいのかもね。
さすがガナッシュ、要領がいい。
◆
「ねぇ、あれ……」
私は、遠くの方で横たわっている魔物を見つけた。
動きがないので近づいてみると、それはもう死んでいた。
「俺たち以外にもここに来てるやつがいるのか」
私たちは戦闘の後魔物の死体を燃やすようにしている。
それが冒険者界のルールというか、マナーなんだそうだ。
死体を放置すると腐敗して悪臭がすごいことになるからね。
ここに死体があるということは、別の誰かがこの魔物を倒したということ。
少し呆れたようにガレルが口を開いた。
「全く、マナーくらいしっかり守れよ。ガナッシュ、こいつ燃やしてくれ」
「……ちょっと待って、この魔物の死体の傷、おかしくない?」
「なんだと?」
「ほらここ。明らかに人がつけたような跡じゃない」
ガナッシュが指で指し示した先には、噛みちぎられたような跡があった。
「……ここで魔物同士の争いがあったのかもな」
「それにしては随分と一方的にやられてるけど……」
どうしたんだろ、とガナッシュは疑問に思いつつ魔物の死体を燃やした。
「もしかしたらここにここの危険度以上の魔物がいるかもしれない」
ナツノがそんなことを言った。
「……そうだね。時間もそろそろいい感じだし、何か起こる前に戻ろうか」
「ああ」
そうして、私たちは地図を見ながら馬の置いてある村へと歩みを進めた。
◆
帰り道で私たちが魔物の群れと戦っている時のことだった。
大きな影が私たちの戦闘のど真ん中へドスンと飛び込んできて、そこら辺の魔物を吹き飛ばした。
その衝撃で私たちも吹き飛ばされそうになる。
かろうじて耐え、私たちは警戒しながら砂埃の中から姿を現しゆくそいつを観察した。
大きい図体。鋭い爪、牙。硬そうな表皮。今までのやつとは一線を画すその威圧感。
私は瞬時にそいつの正体を把握した。
「こいつは……亜竜⁉︎」
フィナから聞いたことがある。
竜の下位互換、なり損ない。
とはいえ、力はあるし、速いし、硬い。
その危険度は他よりもいくらか高く、レベル4。
B級冒険者パーティでようやく倒せるレベルだ。
C級の私たちには少々分が悪い……!
「落ち着けお前ら! 連携を崩すな!」
「ああ!」
私たちはガレルの声で落ち着きを取り戻す。
そうだ、取り乱しちゃダメだ。
落ち着いて、対処していこう。
大丈夫、今日の経験を活かせ。
「ガァァァァ!」
亜竜は吠え、鋭い爪で地面を割った。
地面は波のようにうねり、崩れていく。
だが、さすがというか、ナツノもガレルもバランスを崩すことなく亜竜へと進んでいく。
「僕が二人をあいつの攻撃から守る。だからシフォンさんは妨害魔術や攻撃魔術に徹して」
「了解」
ガナッシュから指示を受け、私は魔力を練り始める。
撃つとしたら二人の攻撃の直前だ。
魔術は何が適切だろう。
氷? いや、亜竜は火を吐く。すぐに溶けるか。
だとしたら……泥沼だな。
亜竜は尻尾を振り二人を吹き飛ばそうとするが、ガナッシュの土魔術で防がれている。
その隙に攻撃しようと思ったのか、二人は一斉に亜竜へと距離を詰めた。
それと同時に私も水と土の複合魔術を展開する。
亜竜の足は沈み込み、もがいてより一層泥が絡まる。
亜竜は狼狽え、その一瞬が隙となり、ガレルは胴を、ナツノは首を鮮やかに切り裂いた。
亜竜は血を吹き出し、ボテンと太い音を出して倒れた。
「やった……!」
なんとかなった!
危険度レベル4でも、なんとか戦えた!
ガレルとナツノは互いに拳をコツンとぶつけ、喜び合っている。
隣を見れば、ガナッシュも安堵の息をついていた。
危なかったね、と私がガナッシュに声をかけようとしたそのときだった。
視界の端で、倒れた亜竜がよろりと立ち上がり、ガレルとナツノに襲い掛かろうとしているのが見えた。
「危ない!」
ガレルとナツノに叫ぶ。
ダメだ、二人は完全に油断している。
無傷で攻撃をかわすのは難しいだろう。
私は、考える間も無く亜竜へと走った。
ただ走るだけじゃ間に合わない。
風魔術最大出力で、加速。
亜竜よりも速いスピードで、風に乗り、私は飛んだ。
頼む、間に合え、間に合え……!
ガレルとナツノがようやく状況を理解して、焦燥の表情を浮かべる。
二人と亜龍の距離はもう2メートルもない。
私はさらに風魔術を重ねて展開し、加速させた。
チャンスは一撃だ。
一撃で、あいつを仕留める。
ガレルとナツノの斬撃でも仕留めきれなかったのに私にできるだろうか。
いや、頭を使うんだ、私。
二人がつけてくれた傷は無駄にはしない。
そこにさらにもう一撃加え、完全に戦闘不能にさせるんだ……!
風に乗ったその勢いのまま、私は首の傷へと剣を入れた。
「うりゃあああああ!」
風の勢いの後押しもあり、剣は亜竜の脊髄を切断し、首をはねた。
「よかった……」
今度こそ、大丈夫だろう。
と、安堵しているのも束の間。
私の勢いは止まらずガレルとナツノにすごい勢いで突っ込んでしまった。
「いってててて……」
二人は私を受け止めきれず、一緒になって飛ばされてしまい、地面に転がった。
「おい、シフォン。自分の制御くらいちゃんとしろよ」
「ご、ごめんなさい」
「……まあ、助かったよ。ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
私たちは寝転びながらそんなことを言い合った。
は〜、危なかったなぁ。
でも……
私はさっきの一瞬を思い出す。
一分にも満たない短い戦闘だった。
亜竜の出現から瞬時に連携を取り、魔術と剣術で役割分担をして、協力して倒す。
ひりひりとした緊張の中で、みんなで亜竜を倒したのだ。
なんだか、胸の奥底から笑いが込み上げてきた。
「ははは、あははは」
「? なに笑っているんだ?」
「うん、なんだろうね。なんでこんなに可笑しいだろう」
「……変なやつだな」
「たぶんね、ガレル、ナツノ、ガナッシュ。私ね、楽しいんだと思う!」
「……、そうだな。はは、ははは」
つられてガレルもナツノもガナッシュも、みんな笑ってしまった。
ああ、楽しい。楽しいな。
青く高い空の下、ここ、ラルコー岩石地帯に、私たちの笑い声が遠く響いた――
◆
モンブライトに着く頃には日は沈み、街の光が眩しかった。
「また行こうぜ、今日みたいなの」
「そうだね。でも多分、報告しないとだなぁ」
ガナッシュがそんなことをぼやく。
「何を?」
「危険度3の地帯で亜竜が出たこと。報告すると、たぶんこれから行く時は護衛をつけられるかも」
「そっか」
こういうのは、子供だけで行くから楽しいのにね。
「それじゃあ皆」
「「また、学校で!」」
私たちはそう言ってそれぞれの寮に帰った。




