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-043- アメリアの悩み


「お姉ちゃん! 野菜切っておいたよ!」


「ありがとう。そこに置いておいて」


「シフォン姉、お皿全部出せたよ」


「うん、ちょっと待っててね」


 私たちはきょうだいで協力して晩御飯をつくっていた。

 なかなか新鮮で、すごく楽しい。

 今日私の家で泊まることになったアメリアがバタバタしている私たちの横で手持ち無沙汰になっていた。


「……あの、私も何か手伝いましょうか?」


「大丈夫だよ! アメリアはお客さんだからゆっくりしてて!」


 そうは言ったが、自分だけ何もしていないのが申し訳ないのか、アメリアはずっとそわそわしていた。


 食後、私はアメリアと談笑した。

 このお泊まりでアメリアとの距離を縮めたいからね。


「アメリアは、中等部の試験をうけてミルフィユ学園に来たんだよね? どうしてミルフィユ学園を受けたの?」


「……私は、フラン先輩と一緒の学校に通いたかっただけなので、深い理由は無いです」


「へぇ……よかったら、フランとの出会いとか聞かせてくれない?」


「……わかりました。確かあれは、私が六歳のころ――」


 アメリアはもともと孤児だったらしく、孤児院にいたところを研究所の先生に引き取られたらしい。

 知らない場所で、知らない大人たちがたくさんいるところに連れて行かれる恐怖の中、同じく研究所でお世話になっていたフランが声をかけてくれたんだとか。

 それからフランに研究所を案内してもらったり、勉強を教えてもらったりして、好きになっていったらしい。


「そうなんだ。フラン優しいもんね」


 そう言うとアメリアは眉尻を下げ、しょんぼりとした顔になった。


「……シフォン先輩はいいですね、フラン先輩から優しくされてて」


「え?」


「フラン先輩、昔はすごく優しかったのですが、最近は私に対して厳しいんです」


「あー……」


 思えば、たしかに私に対してよりも厳しい態度をとっていたかも。


「たぶん、私は無能だから、フラン先輩から必要とされて無いんですよ。私はフラン先輩みたいにずば抜けて頭がいいわけでもないし、シフォン先輩みたいに莫大な魔力量があるわけでもない」


「えー、アメリアはすごく優秀だと思うよ。資料の整理とか、実験の記録とか、すごく綺麗にやってくれてるじゃん」


「……私にできることは雑務くらいなんですよ。特別なことは何もできません」


 うーん、アメリアは自己評価が低すぎる気がする。

 研究所で育ったって言ってたからフランみたいなすごい人が周りに多いからかな。


「お姉ちゃん、そろそろ寝ようよ」


 オランと遊んでたロールがやってきて、そう言ってきた。


「そうだね。それじゃあアメリア、寝室に案内するよ。それとも、一緒に寝る?」


「……一人で寝ます」


「大丈夫? この家幽霊でるけど」


 そう言うと、アメリアはびくっとして顔を青くさせた。

 かわいい。


「ふふっ、冗談だよ」


「……シフォン先輩、時々意地悪ですよね」


 顔を赤くさせたアメリアが恨みがましい目でこちらを見てくる。


「ごめんって。寝室は上だから、行こ?」


 ……うん、冗談を言えるくらいには、アメリアと仲良くなれたかな?

 明日もたくさんおしゃべりしよーっと。


 それから私はアメリアに寝室を案内し、ロールとオランと一緒に寝た。


 ◆


 翌日。

 私はいつも通り朝日が登る前に剣術魔術の鍛錬を終わららせ、起きてきたロールとオラン、アメリアに朝ごはんをふるまい、みんなで村の方に向かった。

 私たちが村についたときにはフランたちは野原にいた。

 どうやら昨日言っていた画期的な機構とやらをフランに説明していたらしい。


「すごい……本当にすごいよ君たちは」


「ふふ、そうでしょう」


「これ、思いついた時僕たち自分のこと天才かって思ったもん」


 説明を聞いたフランは感銘を受けたように二人を褒めていた。


「……これって、どういう仕組みなんですか?」


 アメリアが二人に尋ねるので、二人は嬉々として説明を始めた。

 私は複雑なことはわからなかったが、アメリアはちゃんと理解できたようで、感心のため息をもらしていた。

 ちょうどアメリアへの説明が終わったあたりで、ずっと考え込んでいたフランが、


「コルク、カンタ。大事な話があるんだけど」


 と切り出した。

 それじゃあコルクの家に行こうと三人が歩き始める。

 そこへ、アメリアが声をかけた。


「フラン先輩。私はどうすればいいでしょうか」


「……シフォンと一緒に待ってて。少し、大事な話をするから」


 フランはそう言ってコルクの家に行ってしまった。

 残されたアメリアは少ししょんぼりしていた。

 おそらく、大事な話とやらに自分を混ぜてもらえなかったのが悲しいのだろう。

 うーん、確かにフランはもうちょっとアメリアに対して労りの気持ちを持ってあげたほうがいいのかもしれない。


「アメリア?」


 私は落ち込んでいるアメリアに声をかける。


「……フラン先輩は、やっぱり特別な能力をもった人を気に入るみたいですね」


「……アメリア」


 私はアメリアの顔を覗き込むようにして言った。


「紅葉狩り、行こっか?」


 ◆


 ベニエ村から少し離れたところに、紅葉が綺麗な森がある。

 私たちはそこにやってきた。

 ロールとオランも一緒だ。


「……すごい」


「そうでしょ? モンブライトじゃこんな景色見れないよ」


 私たちは少し離れたところで遊んでいるロールとオランを尻目に話をする。


「フランは別に、人の価値は能力が全てだとは思ってないと思うよ」


「……でも、特別な能力を持っていた方が、好感度は上がると思います」


「そうかな? アメリアはこの前、私の魔力量がすごいって言ってくれたよね」


「はい」


「でもね、実はこんな魔力量を持ってる私でも、告白されたことなんて一回もないんだよ?」


「えっ! そうなんですか⁉︎」


「お恥ずかしいことにね」


 アメリアが落ち着いてから、私は続ける。


「だからさ、人を好きになる理由に特別な能力なんて、無いんじゃないかな。結局のところ、性格とか、顔とかじゃない? アメリアは可愛いし、とっても優しいから、もっと自分に自信を持っていいと思うよ」


「……」


 アメリアは難しい顔で考え込んでいる。

 いいよ、今すぐに考えがまとまらなくても。

 私はアメリアを元気つけたいだけなんだから。


 私とアメリアの間にしばらくの沈黙が流れる中、ロールとオランがやってきた。


「アメリアさんアメリアさん」


 ロールがアメリアの袖をちょいちょいと引っ張る。


「は、はい。なんですか?」


「あのですね、ちょっと見て欲しいものがあるんです! ほら、オラン」


「うん」


 ロールに指示され、オランは手を上にかざした。

 そして、しばらくすると下から風が巻きおこり、落ちていた紅いもみじが巻き上がった。

 紅い木々の隙間から降り注ぐ光の柱の中を、もみじがはらはらと踊るように舞う。

 その光景は、桜吹雪ならぬ紅葉吹雪だった。

 そんな幻想的な風景を、アメリアは目を丸くして眺めていた。


「……」


 黙っているアメリアを、ロールとオランは心配そうに見つめる。


「(……ロール姉。反応が無いけど)」


「(あ、あれー? な、なんでだろう。これをやれば、アメリアさんも元気になると思ったんだけどなぁ)」


 聞こえてますよー、二人ともー!

 でもそんなところが子どもらしくて可愛い。

 アメリアは、二人の様子を見て珍しく吹き出した。


「ふふっ、ごめんなさい。ありがとうございます。二人のおあげで元気出ました」


 その言葉に、二人は安心したような表情を見せた。

 アメリアも穏やかな表情を浮かべている。


「ほんと……シフォン先輩が羨ましいです」


 そう言って、アメリアはロールとオランの頭を優しく撫でたのだった。


 ◆


 今日もアメリアはうちに泊まることになった。

 フランとアメリアは明日一足先に帰ってしまうので、今日は昨日以上にたくさんお話した。

 今回の帰省で、アメリアとすごく仲良くなれた気がする。

 やっぱり、仲のいい友達が増えるのは嬉しいねぇ。


 翌日。

 コルクとカンタからとんでもない発言が飛び出した。


「僕たち、村を出るよ」


「ええええぇー!」


 どういうこと、と説明を求めると、どうやら昨日のフランの大事な話とやらに関係があるらしい。

 フランは二人のセンスに光るものを感じ、魔術工業専門の学校へ行かないか、仲良くさせてもらっている知り合いのすごい教授がいるから紹介するよ、という話を持ち出したらしい。

 コルクとカンタは即答で行きたいと答えて、一晩家族で話し合って決めたんだとか。


「シフォンにリンリン、コルクにカンタ。みんなどんどん村を出ていくな」


 バオバが少し寂しそうに言う。

 諸々手続きを経て、認められたら来年度から転校という形になるらしい。


「村をでていくまで、たくさん思い出作りをしとくよ」


「そうだね」


 バオバとレミリーは寂しそうにしながらも、二人の夢を応援した。


 ◆


「それじゃあ、また学校で」


「お世話になりました」


 はやいもので、フランとアメリアはモンブライトに帰る。

 私たちはその見送りに来ていた。


「ねえ、アメリア」


 私はアメリアに耳打ちする。


「なんですか?」


「馬車の中は、二人っきりで、相手に逃げれれる心配がない。つまり、フランの本心を聞き出すチャンスだよ」


「……! がんばります」


 そんな会話をして、私たちは別れた。


 そして、残りの秋休みも私はベニエ村で満喫し、モンブライトに帰った。



 新学期初日、アメリアから「先輩のおかけでフラン先輩との距離が縮まった気がします」と言われ、フランからは「君、アメリアに何か吹き込んだでしょ」と、文句を言われた。


 一体馬車の中でどんな会話をしたんだろう。


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