-040- 恋する少女
ちょっと更新とまります。
朝。
私はいつも鍛錬をしている野原で、人を待っていた。
「おはよう、シフォン」
「おはよう、ナツノ」
私は、朝の時間を使って一緒に鍛錬をしようとナツノを誘った。
同郷同士として、話したいことが山ほどある。
学校では二人きりの時間なんてほとんど無いし、どこに耳があるのか分からない。
だからこの野原で語ろうと思ったのだ。
「ねぇ、ナツノの名前は、漢字でどう書くの?」
そう尋ねると、ナツノは木の枝を拾い、地面に書き記し始めた。
ナツノは、何千回もやったであろう名前を書くという行為を、あっという間に終わらせた。
立木夏乃
地面にはそうあった。
「夏に生まれたから夏乃だってさ。安易な名前だよな。シフォンは、どういう名前だったんだ?」
私も木の枝を拾い、地面に書く。
「……へぇ、なんていうか、綺麗な名前だな。字面とか、音とか」
「そうかな。それにしても、日本語……懐かしいなぁ」
「シフォンは、日本に未練はないのか?」
「無いといったら嘘になるけど、もう吹っ切れたかな」
「この世界から日本には行けないのか? 俺は魔王を倒したら日本に戻れると聞いていたが」
「え、そうなの? う〜ん、勇者はいろいろと特殊だからよくわかんないけど、たぶん私は日本には行けないよ」
「そうか……」
そんな感じで、私たちは色々なことを語り合った。
毎日話し続けるうちに、ナツノの心が開かれていっているのが分かった。
私に対してだけじゃなく、ガレルやガナッシュに対しても笑顔を浮かべ、楽しそうに会話するようになった。
ナツノという剣のライバルに出会い、ガレルも嬉しそうだった。
◆
最近放課後はナツノのことで忙しかったから、図書館にあまり行けてなかった。
一応教室でフランにその旨を伝えていたから大丈夫だと思うけど、なんだか申し訳ない。
そんなわけで今日、久しぶりに図書館にやってきた。
やってきたのだけど……
なんか、居るんだよね。
フランの横に、可愛らしい女の子が。
うーん、誰だろうあの子。
不審に思いながらも、私はフランの座っている机へと歩いて行った。
「フラン、来たよ」
「ああ、シフォン。勇者はもういいの?」
「うん、もう大丈夫。ごめんね、最近中々来れなくて」
「いいって。シフォンは僕の頼みで助手をやってくれているだけなんだから」
「ありがと。……ところで、そちらは?」
私は隣に座っている女の子へ視線を向ける。
「こいつは、僕と同じ研究所に通っているアメリアだ。アメリア、僕の助手をやってくれているシフォンだ。挨拶しろ」
女の子は立ち上がり、私に頭を下げて挨拶した。
「メリス・アメリアです」
「ハトサブル・シフォンです」
私も挨拶を返す。
「アメリアも学校で僕の研究の手伝いをやるっていうから、たぶんこれから長く一緒にいることになると思う。無愛想だが悪い奴じゃないから、女子同士仲良くしてやってほしい」
「うん」
それから、いつものように私は魔法陣の勉強をはじめた。
勉強している間、アメリアは私を好意的とは言い難い目で睨んでいた。
どうやらアメリアは私が気に入らないらしい。
私はその事実に首を傾げながらも、久しぶりの図書館なので集中して勉強をした。
◆
「それじゃ、おつかれ」
図書館も閉館時間になり、フランはそう言って男子寮へ帰っていった。
私とアメリアは同じ女子寮で方向が一緒なので一緒に帰る。
私は、その間もアメリアから刺々した視線を絶えず感じていた。
「シフォン先輩」
アメリアは、立ち止まり私を呼び止めた。
「なに?」
振り返ると、アメリアは敵意剥き出しの目をこちらに向けていた。
初等部の頃の私なら怯んでいただろう。
「フラン先輩と、どういう関係ですか」
短く、ぶっきらぼうに、そう尋ねた。
「クラスメイトの友達、かな」
「……シフォン先輩は、フラン先輩のこと、好きですか」
「……それは、異性として?」
「はい」
……なるほど。
アメリアは、フランのことが好きなのか。
それで私をあんなに睨んでいたのか。
「フランのことを恋愛対象として見たことはないよ」
そういうと、アメリアはほっとした表情を見せる。
「アメリアは、フランのことが好きなの?」
「はい」
即答だった。
アメリアは、私を真っ直ぐな眼差しで見つめている。
「ちなみに、フランのどこが好きか聞いていい?」
私は興味本位そんなことを聞いてみる。
「全てです」
またも、即答だった。
「フラン先輩の、全てが好きです。中性的な美しい顔、細身な身体、全てを見通していそうな瞳、とっても頭がいいところ、少し強引なところ、少し子供なところ……そんなフラン先輩の全てが好きです」
アメリアは、一切の言い淀みなく言い切った。
すごい……フラン、愛されてるなぁ。
「シフォン先輩はフラン先輩のお願いで助手をやっているとのことなので、近づくなとはいいません。ですが、距離感をを考えていただきたいと思っています」
そう言ったアメリアの目は、ギラリと警戒心で光っていた。
どうやら、アメリアの中で私は危険視されているようだ。
「わかった。気をつけるね」
「……ありがとうございます」
それ以上私とアメリアの間に会話は無かった。
う〜ん、私はアメリアとも仲良くしたいと思っているんだけど、難しそうだなぁ。
まあ、時間をかけて好感度を上げていこう。
その日以降、図書館の机に座るとき、フランの隣にアメリア、アメリアの隣に私、というようになった。




