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-003- 魔術 


「てね、ことがあったんだよ」


 村から戻り剣術と魔術の訓練を終えた私はもぐもぐと晩ごはんを頬張りながらそう言った。


「魔術、教えていいと思う?」


 そう聞くとお母さんはうーんと少し考えてから、


「どうせ小学校で習うし、低位の魔術ならいいと思うけど……念のため村のお母さんたちに確認しとくね」


「うん」


「教えるのはいいけど、みんなの前で中位魔術を使っちゃだめよ」


「どうして?」


「中位以上の魔術は実際に戦闘で使われるから、とても危険なの。みんなが真似したくなったら困るでしょ?」


「わかった」


 なるほど、中位魔術は戦闘で使えるのか。いつか試してみたいな。


 で、翌日。


「村で聞いたら、水の低位魔法ならいいって」


「わかった! ありがとうお母さん!」


 私はそう言って村へ向かおうとする。


「あ、待ってシフォン」


 すると、お母さんが呼び止めた。


「一応言っとくけど、魔術を習得するっていうのはそう簡単なことじゃないのよ?」


「そうなの?」


「シフォンはすぐできたけど、他の子はそうじゃないかもしれないってことを頭に入れて教えてあげなさい」


「うん」


「あと、教える立場になるのだから、絶対に間違った知識を教えちゃだめよ? 分からないことがあればお母さんに聞いてから教えてね」


「わかった!」


「はい、それじゃあいってらっしゃい!」


 そう言ってお母さんは笑顔で私を送り出した。


「いってきます!」


 ◆


「あ、シフォンちゃん来た!」


 みんなは村の入り口で私を待っていた。


「ね、はやく魔術教えてよ!」


「うん。だけど、その前に……みんなの名前、聞いていいかな?」


 それから、みんなに自己紹介をしてもらった。五人の中にはレミリーちゃんの他にもう一人女の子がいて、その子の名前はリンリンちゃん。おとなしそうな子で、水色の髪がすごく綺麗。それと男の子の方は、大きいのがバオバ、小さいのがカンタ、中ぐらいのがコルクだ。


「それじゃあみんな、まずは魔術の仕組みについて説明するね」


「よろしくお願いしまーす」


「魔術というのは、二つの術から成り立っています。まず、物体操作術」


「ぶったいそうさじゅつ?」


 私は近くにある石ころを宙に浮かして見せる。


「簡単に言えば、物を触らずに動かすことができる術だね」


「すごい!」


「そして次、生成術という、火や風を起こしたり水や土を生み出す術」


 私は手のひらの上にボッと火をつける。


「これら二つを組み合わせて、水を自由自在に動かしたり、火を飛ばしたりできるよ」


 みんなはきょとんとした顔をしている。うーん、ちょっとよくわかってなさそうだな。やっぱ理論を理解するのはちょっと難しいかもね。まあ、理論は後付けでなんとかなるから、とりあえずやってみよう。


「それじゃあ早速、生成術をやってみようか。とりあえず、水を出せるようにがんばろう」


 そう言うと、みんなは目を輝かせた。


「どうやったら水をだせるの?」


「イメージだよ」


「イメージ?」


「みんな、目を閉じて」


 みんな、さっと目を閉じる。


「まず、魔力の流れを感じてみよう。右手を前に突き出して、手のひらに力を集めてみて」


 魔術を使える様になるには、魔力を認識することが大事。そうすることで、魔力の出力を調節したり残りを感じたりすることができる。


「そしたら、手のひらから水を放出するイメージ。水は特に鮮明に思い浮かべて」


 生成術を会得するにあたって、自分なりに使いたい魔術をイメージすることが大事だ。


「みんなにとって、水はどんなイメージ? 冷たくて、気持ちがいいもの? 生命の源で、神秘的なもの? 硝子(ガラス)のように透き通ってる、美しいもの?」


 ちなみに、私は宮沢賢治の『やまなし』の世界を思い浮かべながらやったら成功した。あのお話の水の表現はすばらしい。


「……」


 みんな真剣にやっている。これは集中力が大事だよ。みんな集中!


 五分、十分――


「ぐわー! できないぞ!」


 バオバが一番最初に諦め目を開いた。そこから、その場の緊張の糸が切れたのか、コルク、カンタ、リンリンちゃん。そして最後にレミリーちゃんも目を開いた。


「みんなお疲れ、どうだった?」


「がんばって思い浮かべようとしても、別のものを思い浮かべちゃう」


「僕は途中で魚が泳いできたよ」


 うんうん、みんな楽しそうでなにより。


「なあ、シフォン。魔術使えるまでどれくらいかかる?」


 バオバがそう聞いてくる。いやそれは君たち次第だけど……


「そうだなぁ、一週間でできるようになったら、すごいかな?」


「一週間だな⁉︎ よし、そっこーで成功させてやるから見てろよ!」


「うん、がんばれ〜」


 正直、他の人がどれくらいで成功するか知らないけど、こう言えば負けず嫌いなバオバはやる気がでるっしょ。


「それじゃあみんな、これを毎日……そうだな、毎日一時間! 一時間続ける。わかった?」


「「はい!」」


 みんなは元気よく返事をした。


 ◆


 みんなが練習をしてある間、私は魔術について考える。


 この世界の魔術はさっきみんなに説明したように物体操作術と生成術から成り立っている。


 物体操作術は、その名の通り物体を操れる術。この世界は、どんな物でも魔力を宿している。物体操作術はその物体が纏っている魔力を乗っ取り、自分の魔力で上書きすることでなされる。当然、物が重ければ重いほど、必要な魔力量は増える。ちなみに、動物や魔物、特に人間や竜など、高い知性をもった存在は操れない。これは(たましい)(がく)の話になり、私もまだよくわからないが、生物の魔力はその魂と強くくっついているかららしい。


 魔力は、さまざまな力に変身できる。火、水、土、風など。この、魔力を変身させる術を生成術という。魔力は他にも電気、音などにも変身できるが、普通の人間には使えない。なぜ人間が火、水、土、風の魔術しか使えないのかというと、それらは昔から人間と密接な関係にあったからだと言われている。その仮説を証明するように、種族や出身地によって同じ属性でも微妙に違う魔術になるのだとか。例えば、同じ土魔術でも粘土質な土だったり砂の様な乾いた土だったりするらしい。


 そして、これら二つを組み合わせることで、魔術は成立する。


 お母さんは言った。魔術を習得するにあたって、その過程は五段階に分かれると。


 レベル0:自身の魔力を認識する。

 魔術を使うには、自分に魔力が流れていることを自覚する必要がある。そこから全てははじまる。


 レベル1:生み出す。

 生成術の使用。


 レベル2:規模を変える。

 生成術の規模を大きくしたり小さくしたりする。まあまあ練習が必要。


 レベル3:動きを制御する。

 生成術を行なった上で、物体操作術を行う。ここでつまずく人が多い。なぜ多いかというと、レベル3で必要な魔力量が跳ね上がるからだ。レベル3では、生成術に使う魔力と、物体操作術に使う魔力の二つが必要となる。その上、それらをほぼ同時にこなさなければならないのだから、難易度が上がるのはまあ当然だろう。


 レベル4:温度を変える。

 これは私もまだ完璧じゃない。めっちゃ難しいんだよこれ。温度を変えるためには、ある一定の規模の魔術を行う中で、使用する魔力を減らしたり増やしたりしなければならない。例えば、水魔術で水を1リットルだすときを考えよう。通常、この魔術には100の魔力が必要とする。このとき、50の魔力で同じ量の水を出すと、その温度が低くなり、氷ができる。逆に150の魔力で同じ量の水を出すと、その温度が高くなり水蒸気ができる。魔術の発動に多少の強引さが必要となり、習得には時間がかかるそうな。


 で、私が思ったこと。


 この世界、魔術の幅狭くない?


 だって、人間が使える魔術は火、水、土、風だけなんでしょ? なんか単調だよね。


 と、私はここで閃く。


 二種類の魔術を同時に使ったら……? 早速試してみよう。


 土魔術で土を生み出し、水魔術でそれに水をふくませる。すると、見事な泥沼の出来上がり。試しに片足を突っ込んでみるとなかなか抜けない。これは何者かに追われているとき足止めに使えそうだな。


 なるほど、複数の種類の魔術を掛け合わせて魔術の幅を広げていけばいいのか!


 チラリとみんなの様子を伺ってみる。みんな、真剣に魔術を習得しようとがんばんっている。


 お母さんから技術を教わった。ただ、それだけでは強くなれないだろう。だから、自分で魔術を工夫しよう。


 よ〜し、みんなが魔術を習得するまでの間、私もたくさん頑張って魔術の開発をするぞ〜!



 ちなみに、シフォンは一週間で魔術習得のレベル3まで成功させました。

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