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-038- 勇者転入


「えー、今日からこの学校の生徒になる転校生を紹介する」


 魔術Aクラスの先生が入ってくるなりそう言った。

 転校生、という言葉にクラスがざわつく。

 ミルフィユ学園ではあまり馴染みのない言葉だ。

 少なくとも私はこの七年間転校してきた生徒を知らない。


「入ってこい」


 先生がそういうと、その人は入ってきた。

 黒髪黒目、私にとってなんだか懐かしいような、そんな顔立ちの男の子だった。

 心なしか、どんよりしているように見える。

 その男の子は教壇の前に立ち、口を開いた。


「……タツキ・ナツノだ。よろしく頼む」


 案外普通の子だな。

 珍しい転校生なんだから、もっとイレギュラーな子かと思っていた。

 と、そんなことを思っていると、先生がとんでもないことを言った。


「えーと、まあ単刀直入に言うが、こいつは勇者だ」


 その言葉に、クラスのみんなは少しの沈黙の後、


「「ええええ⁉︎」」


 と、大声をあげて驚いた。


 ……え? 勇者?

 勇者ってあの、異世界から世界を救うために召喚されるっていう、あれ?

 この人が?

 え、えぇ〜⁉︎


 先生は続ける。


「こいつは剣術Aクラスに身を置き、授業によって魔術Aクラスにやってくる。だからまあ、お前らと一緒に魔術を学ぶことになるわけだ。こいつは勇者だけど、お前らと同じ十三歳だ。仲良くしてやってくれ」


 それだけ言うと、朝のHRは終わった。

 勇者(ナツノだっけ?)が教室を出て行くと同時に、クラスの喧騒は強くなった。


「えっ、あの子、ほんとに勇者なの?」


「ここらへんじゃみない顔立ちだったよね」


「異世界ってどんなところなんだろう……」


 勇者……まさかこの目で見るときが来るとは。

 それにしても、あの風貌……そして、タツキ・ナツノという名前……。

 うーん、もしかして、日本人?

 

 ◆


 その日の放課後。

 私は学園長室に呼び出されていた。

 何回目だよ、この部屋。

 でも今回はいつもと違って、私だけじゃない。

 ガレルとガナッシュもこの部屋にいた。


「それで何の用ですか、学園長」


「うん。君らの学年にさ、勇者、転校してきたでしょ」


「はぁ」


 学園長はその胡散臭そうな髭を撫でながら続ける。


「彼はね、異世界から無理矢理召喚されて、そこの世界にいた家族や友達と引き剥がされて随分と傷心しているんだ」


 うわぁ……かわいそう。

 だからあんなにどんよりしていたのか。


「だからね、君たちに励ましてもらいたいんだ。彼には世界を救ってもらわないといけないからね」


 ……なるほど。

 大切な人と引き離されてできた心の穴を私たちで埋めろってことか。

 でも、だとしたら人選ミスだ。

 ガレルは強引で不器用だし、ガナッシュは腹黒だ。


「シフォンさん、なにか失礼なこと考えてない?」


「別に〜」


 もっと仲良くなるのがうまそうな人に声をかけた方が良かっただろう。

 例えばそう、この学園じゃないけど、ブレッドとか。


「何で俺たちなんですか」


 ガレルがそう学園長に聞く。


「勇者と対等な関係を築けるのは、君たちしかいない。僕がそう判断したから」


「……? よく分かりませんが」


「ま、とにかく頼むよ」


 そう言い終わると、学園長は私たちを学園長室から追い出した。


 ◆


「はぁ……どうする」


 ガレルがため息混じりにそう言う。


「まずは、話しかけて友達になるところからじゃない?」


「うーむ……」


 ガレルはそう唸ってから、


「とりあえず、会いにいくか」


 私たちは周りに聞き込みをしつつ、勇者に会いに行った。


 ◆


 勇者(ナツノ)は学園の屋上にいた。

 沈む夕日に黄昏ながら、地べたに座っていた。


「おい」


 早速ガレルが話しかけにいく。


「……なんだ?」


 ナツノは怪訝な顔をしてガレルとその後ろにいる私たちを見つめる。


「俺の名はシャルロット・ガレル。お前勇者なんだってな。俺はお前より強いぞ」


「ちょっとガレル」


 私たちはガレルを引き寄せる。


「そんな喧嘩腰に話しかけてどうするの」


「別に喧嘩腰じゃねぇよ。こう、ライバル意識を植え付けるためにな……」


「ライバル意識とか必要ないから。もっと優しく話しかけてみて」


「……わかった」


 ガレルは振り向きもう一度ナツノに話しかけた。


「お前、なんでそんなに落ち込んでいるんだ?」


「……別に、落ち込んでない」


「こんな場所で何をしているんだ?」


「……特になにも」


 わーお、身体中から溢れる拒絶のオーラ。

 随分とかたく心を閉ざしているようだ。


 ガレルは私たちのところに戻ってきて、小声で話しかけた。


「おい、話にならないぞ」


「うーん、まあしょうがないんじゃない? 私だって急に大切な人と離れ離れになったらああなるよ」


「ガレルは何かいい案ないの?」


 ガナッシュがそう尋ねると、ガレルは少し悩んでから言った。


「俺の親父は言った。男なら、剣で語るべき時がくると……」


「……つまり?」


「まあ見てろ」


 ふっ、と笑い、ガレルはナツノの方へ歩き口を開いた。


「お前、この学園にいるってことは剣を振れるんだろうな」


「……剣は城にいるときに習った」


「そうか、じゃあ」


 そして、ガレルは不敵に笑い――


「俺と勝負しろ」


 あっ、ダメそうだこれ。


 ◆


 カキンカコンと、剣の打ち合う音が訓練場に響く。


「あー、どうしてガレルってこんなにおバカさんなんだろうねー」


 私はガレルとナツノの手合わせを眺めながら呟いた。


「まあ、そこがガレルのいいところなんだけどね」


 ガナッシュが苦笑して言う。


「なんていうかほら、裏表が無いっていうか」


 どっかの誰かさんとは違ってね。


「シフォンさん、また失礼なこと考えてるでしょ」


「別に〜」


 しばらくすると、手合わせを終えたガレルが帰ってきた。


「なるほどな……」


「なるほどなって、何かわかったの、ガレル?」


 そう言うと、ガレルは押し黙った。

 なにも分かんなかったんだな、こいつ。


「ていうか、ガレルかなり押されてたよね」


 ガナッシュがそう言うと、ガレルは思いっきり顔を引き攣らせた。


 そうなのだ。

 こいつ、俺の方が強い発言をしていたくせにナツノの方が攻勢だったのだ。

 あんなに必死に剣を振っているガレルは久しぶりにみた。

 ちょっと笑った。


「あれは、違う」


 ガレルは言い訳めいたことを言い始めた。


「剣技では俺の方が断然上だ。ただ、あいつにはその差を埋める圧倒的な身体能力と反射神経がある。シフォンみたいな剣技を他で埋めるタイプだな」


「え? ガレル私の剣そんな風に思ってたの?」


「さすが勇者というべきか、常人からかけ離れた身体を持っているようだ」


「ちょっと、無視しないでよー!」


 ◆


「なあ、お前たち」


 しばらく作戦会議をしていると、ナツノが話しかけてきた。


「俺を元気つけようとしてくれてるのはありがたいのだが、本当に大丈夫だ。この世界の事情も理解している。俺が滅入っていてはいけないということも、ちゃんと分かっている」


「……」


「それじゃあ、また明日」


 そう言ってナツノは訓練場を去った。

 私たちは、去って行くナツノに何一つ声をかけれなかった。

 うーん、ナツノの心を開くのは難しそうだ。


 ◆


 ナツノが本当に日本人だとしたら、たぶん、私が日本からの転生者だと言えば多少元気になってくれるかもしれない。

 でもなぁ。

 私は転生者であることを誰にも言ったことがない。

 これを言うのは、中々に怖いものがある。

 はぁ、どうしよっかなぁ。


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