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-036- 剣杖会③


 あーあ。

 今年ももらっちゃったよ、招待状。

 春休みはロールとオランとベニエ村に帰りたかったのになぁ。


 ロールとオランに剣杖会に行かないといけないので春休みはあまり一緒にいられないという旨を伝えると、案の定むくれてしまった。

 私だって一緒に過ごしたかったよ、ごめんね。

 でもさ、ロールとオランも十歳になればたぶん招待状くるからね?


 ◆


 聖地アフォールまで、相変わらずすごい山道だった。

 あーお尻痛い。

 今度来るときはマイクッションもって来ようかな。


 馬車は基本的に一学年に一台用意されるから、ガレルとガナッシュと移動中一緒に過ごすわけだが、これが意外と楽しい。

 なんだかんだ言って、繋がりはあるけど用事がない限り喋らないもんな、この二人と。

 剣術魔術に関係ない、たわいのない会話をこの二人とするのは新鮮なのだ。


 あと、秋休み明けにガナッシュにしてやられた猫耳。

 わざわざむしかえしていじってきやがった。

 どうやらガナッシュは私が怒っているのを面白がっているらしい。

 許すまじ。

 ガナッシュは後で呪った。


 ◆


 会場では、自分よりも年下の小学生も多くいた。

 中学生の私はこの剣杖会の中でも中堅になってきたというわけだ。

 初等部四年生のころ、他校の生徒に圧倒されていた自分が懐かしいや。


「シフォン、久しぶり」


 そう言ってきたのは白い髪、金色の眼のマロン学園の生徒。

 去年の魔術大会の準優勝者、ロフレだ。


「久しぶり、ロフレ」


 一年ぶりにあうロフレは中学生になったからか、随分と大人びていた。

 まあ、元々大人びている人だったからね。


「最近どう?」


「普通かなぁ。ただ淡々と魔術の反復練習で無駄を無くしてる毎日だよ。あ、でも今年は魔法陣を学びはじめたよ。ロフレはどう?」


「私は自分の雷魔術の研究を続けているよ」


 聞くと、ロフレはもう雷魔術を戦闘スタイルに組み込んでいるらしい。

 さすがだ。


 ◆


 ロフレと話したり知らない人から話しかけられたりして立食パーティーを過ごしていると、数人の高校生の先輩が壇上に上がって言った。


「みんな、聞いてほしいことがある」


 騒がしい会場が一瞬で静まるような、力のある声だった。


「……ありがとう。みんなも知っている通り、今年、魔王が誕生した。勇者はもう召喚されたようだが、この禍乱の時代はまだまだ続くことが予想される」


 魔王という言葉がでてきて、会場の緊張感が高まるのがわかった。


「魔に脅かされ、憂いの絶えることのないであろうこの国、世界をこれから支えていくのは誰か。そう、戦う力を持った俺たちだ。この激動の時代を乗り越えるのにあたって、被害を少しでも小さくするために、俺たちはもっと強くならなければならない」


 高校生の人は拳をぎゅっと握り続ける。


「そこでだ。例年、二日目には交換会をやっているが、これは非常に消極的な会だった。手合わせをすることはあっても、本気でぶつかることはない。いつもほとんどの生徒が余力を残したまま交換会を終えている。そうじゃないだろう。前述した通り、俺たちはもっと強くなる必要がある。そのために、明日やる予定の交換会の形態をもっと積極的な、本気で高めあっていくような会になるよう改変したい。……賛成してくれる人は拍手をくれ」


 ぽつりと、最初は一人が手を叩いただけだったが、それは次第に広がり、会場全体が拍手に包まれた。


「ありがとう。改変の詳細だが、明日伝える。できるだけ欠席はしないでほしい。それでは、今日のうちは交流パーティーを楽しんでくれ」


 そこまで言うと高校生の人は礼をした。

 それに合わせて、もう一度拍手が巻き起こる。

 立派なことを言う人だ。

 意識が高いんだろうな、きっと。

 こういう人が国や世界を変えていくのだろう。

 私も高校生の人に向かって精一杯の拍手をした。


 ◆


 翌日。

 去年とは違い、高い緊張感を持って交換会は始まった。

 今年は毎年出席しないロフレもちゃんと出ていた。


「今年の交換会は、前半、高校生が小中学生に教える形で、後半、歳の近いもの同士で訓練する形をとりたいと思う」


 昨日の高校生は言った。


「前半で、小中学生は高校生から戦闘技術を学び、高校生は教えることによって基礎の確認をしてもらいたい。そして、後半の同年代の者同士の訓練でそれを役立ててほしい。俺はここで、この交換会の臨み方にひとつ条件をつけたいと思う」


 高校生はにやりと不敵に笑い、その条件を言った。


「本気でやれ」


 その言葉は、ひしりと会場の空気を震撼させ、あっという間に会場の雰囲気を締め上げたのだった。


 ◆


 交換会の前半、私はできるだけ多くの高校生に相手をしてもらった。

 さすがと言うか、なかなか勝てなかった。

 魔術の精度でも負け、知識量でも負け、工夫量でも負けた。

 やはり高校生との間にある数年間の差というのはかなり大きい。

 唯一勝ってるのは、魔力量だけだった。

 私の魔力量はこの剣杖会の中でも誇れるようだ。


 魔術師志望の高校生だけでなく、剣士志望の高校生にも相手をしてもらった。

 剣の腕も磨きたいからね。

 こっちの方はまるで歯が立たなかった。

 分かっていたこととはいえ、悔しい。


 交換会前半も終わりという頃、私は最後にガレルのお兄さんであるルオさんに手合わせをお願いした。


「あれ、シフォンちゃんって剣士志望だっけ?」


「いえ、魔術師志望です。ですが、剣も毎日振るうようにしているし、剣杖会に招待されるほどの高校生と手合わせする機会なんてそうそう無いから、せっかくなので」


「そっか。じゃあ相手をしてあげるよ」


 ルオさんは、ガレルと同じ流派ということもあり、ガレルの上位互換といった感じだった。

 さすが、シャルロット家長男。


「俺とガレル、比べてどう思う?」


 手合わせ後、ルオさんがそんなことを聞いてきた。


「ルオさんの方が全然強いです」


「そっか、ならよかった」


 ルオさんは爽やかに笑った。


「ガレルはさ、ものすごい才能を持っているんだよ、たぶん」


 ルオさんは目を細めてガレルについての話をし始めた。


「……はい」


「最近見ていて強く予感している。ガレルは将来、俺を越す剣士になるって」


「……」


「あいつが剣の鍛錬をしている原動力の中に、君やガナッシュ君に負けたくないという思いが含まれていると思うんだ。あいつ、負けず嫌いだから」


「そうかもしれませんね」


「あいつが目指す"最強"になるためには、一緒に競い強くなるライバルが必要だ。だから、これからもガレルと仲良くしてやってほしい」


「……わかりました」


「ありがとう」


 そう言って、ルオさんはもう一度爽やかに笑った。


 剣に関して、私はガレルをすごいと思っているが、兄であるルオさんにまで認められているとは。

 ガレル、将来大物になりそうだ。


 そのあと、ルオさんから剣のアドバイスをいくつか貰い、交換会前半を終えた。


 ◆


 交換会後半は、前半よりさらに充実した時間だった。

 ロフレと3回ほど戦った。

 私は剣と魔術を駆使し、今だせる全力を出した。

 その結果、なんと二勝一敗だった。

 勝てた要因として、前半で学んだ剣の技術をうまく戦闘に組み込めたことがあると思っている。

 ロフレと私の魔術はほぼ互角。

 だから、剣で攻撃することによって手数で上回れたんじゃないかな。


 ロフレ以外にも、たくさんの中学生と戦った。

 他校の生徒との手合わせというのはやはり経験値が多く、剣杖会以前の私よりも格段に強くなれた。


 こんなに充実した時間になったのも、あの高校生がみんなに本気でやるように促してくれたおかげだ。

 感謝しなくちゃね。


 ◆


 剣杖会が終わり、私たちは非常に満足度の高い状態で聖地アフォールを後にした。

 馬車の中でガレルとガナッシュと今回の剣杖会の感想を言い合った。

 カヌレ学園のあの生徒が強いだとか、マロン学園のあの生徒すごいだとか。

 やはり二人も密度の濃い時間を過ごし、剣杖会以前より確実に成長できたらしい。


 うん。

 今回の剣杖会は行ってよかった。


 私は、柄にもなくそんなことを思ったのだった。


 ◆


 そして、春休みも明け――









 ――勇者が転校してきた。



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