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-035- 勇者召喚

『-033- お土産』に、すっかり忘れていた話をひとつ追加しました。


 勇者が召喚されたらしい。

 その朗報に、世界は明るい雰囲気に包まれていた。

 フランの予想より随分とはやかったな。

 偉い魔術師の人たちががんばったのかな。

 とりあえずこれで魔王を倒す希望が現れたわけだ。

 できるだけはやく勇者が平和を取り戻してくれるよう願っておこう。

 噂によると、勇者の見た目がこの世界には珍しい黒髪黒目なんだそうだ。

 どういう世界から来たんだろう。

 話を聞いてみたいな。

 ま、私なんて勇者と会うことすらできないんだろうけど。


 ◆


 季節は巡り、冬。

 日がのぼるまえに起きた私は、いつも通り剣と魔術の鍛錬へと出かけようとしていた。

 すると、


「……シフォン姉?」


 物音で目覚めたのか、オランが眠たそうな眼をこちらに向けていた。


「ごめんね、オラン。起こしちゃったね」


「……どこかに行くの?」


「剣と魔術の鍛錬に」


 すると、オランはベッドから起き上がった。


「僕も行く」


「ええっ⁉︎ いいよ、オランは寝てな。眠いでしょ?」


「眠く無いよ」


 一見、オランは大人びているけど時々年相応に意地っ張りな一面を見せる。

 はぁ、これは連れて行かないと納得しないだろうなぁ。


 ◆


「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


 オランは膝に手をつき、息を切らしていた。


「おお、オラン体力あるね」


 私は体力づくりのために毎朝走って郊外の野原まで来ている。

 今日はオランがいるからきつそうだったら減速しようかなーとも思っていたけど、オランはちゃんと私のペースについてきた。

 もっとも、かなり無理をしていたみたいだけど。


「……僕だって、毎日鍛錬してるし……でも、シフォン姉は全然息切れしてない……」


「ふふふ、年季の差だよ」


 オランは悔しそうにしている。

 うん、かわいい。


「それじゃ、私は素振りやってるからオランはゆっくり休んでてね」


 そう言って、私は愛剣双葉をとりだし、振るい始めた。


 ◆


 1時間くらいたっただろうか。

 私が素振りに一区切りつけオランの方を見ると、オランは杖を取り出し遠くの木に魔術を当てる練習をしていた。


「その練習、お母さんにやれって言われたの?」


「うん」


 懐かしいなぁ。私も初等部ニ年くらいの頃かな、お母さんに言われてそんな訓練をしていた時期があった。

 お母さんはオランにもうこの訓練をやらせているのか。

 さすがオラン。成長がはやい。


 オランは目を瞑り、魔力を練る。

 そして杖の先端に魔力を集め、水球を生成。

 十分な大きさになったら発射した。

 だけど、その水球は的である木に届くことなく離散した。


「こんな風に、生成したやつが散り散りになって的まで届かない」


「なるほどねぇ〜」


 わかりみが深い。

 私もこの訓練をやってきたとき同じ感じだった。


「シフォン姉はできる?」


「できるよ〜」


 もちろんだとも。

 その訓練をしていた時期から六年近く経っているんだから。

 私は水を生成し、発射する。

 私が撃った水球は勢いよく飛んでいき、パチーンと木に当たった。

 オランは、その光景をただただ黙って見ていた。


「どう?」


「だいたい分かった」


 それだけ言って、オランは訓練の続きを始めた。

 だいたい分かったって……見ただけで理解できてしまうのか、オランは。

 その才能が羨ましいよ。


 そして、朝日がのぼり始める頃には、オランの魔術は木までとは言わずとも、その手前くらいには届くようになっていた。


 ◆


 朝の鍛錬から帰り、朝ごはん食べるとオランはすぐに眠ってしまった。

 やっぱり、眠かったんじゃん。

 私はオランの柔らかい髪をそっと撫でる。

 あぁ、かわいい。

 ずっとこうしてたい。

 学校行きたくなくなってきちゃうよ。

 だけど、行かないわけにもいかないので私は名残惜しくも起こさないようにそっと部屋を出た。



 それからというもの、オランが朝の鍛錬についてくるようになった。

 私は、幼いときはちゃんと睡眠時間をとらなきゃダメだと言い聞かすのだが、「僕はちゃんと昼寝してるから」と言って聞いてくれない。

 一回、オランを起こさないまま黙って朝の鍛錬に出かけたのだが、そのときオランが相当機嫌を悪くしてしばらく口を聞いてもらえなかった。

 もうあんな思いはしたくないので、私はしょうがなく一緒に朝の鍛錬をすることを認めた。


 全く……。

 ほんとうに困った弟をもったよ。

 でも、一緒に暮らせてすごく楽しい。

 ロールがいてくれたら、もっと楽しいんだろうなぁ。

 オランはあと数ヶ月で初等部の寮に入ってしまう。

 私は、きょうだいと一緒に暮らせない寮生活を少し恨めしく思ったのだった。


 ◆


 ある日の放課後、私はいつもの通り図書館で魔法陣の勉強をしていた。

 すると、意外な人物がやって来た。


「シフォン」


 呼ばれたので顔を上げると、少し不機嫌なガレルが立っていた。


「ガレル。どうしたの?」


「……今日は手合わせの約束だったろ」


「えっ?」


 えっ、そうだっけ⁉︎


「ご、ごめん。忘れてた」


「……行くぞ」


「えと、でも……」


 私はフランの方をチラリと見る。

 私の視線を感じ取ったフランは、静かに口を開いた。


「僕のことは気にしなくていいから、行ってきな」


「うん、ありがとう」


 私はガレルに連れ出されるようにして図書館を出た。


 ◆


 う〜ん。

 約束を忘れてしまったからか、ガレルがご機嫌斜めだ。

 今もなんだかむっすりとした表情をしている。

 どうしよ、改めて謝った方がいいのかな。

 しばらく歩いた後、ガレルは立ち止まり私の方へと振り返った。


「図書館で何をしていたんだ?」


「えーと、魔法陣の勉強だよ」


「……あいつは?」


「あいつ?」


「だから、お前と一緒にいたやつ」


「あぁ、フランのことね。フランは同じ魔術Aクラスの友達だよ」


「ふぅん」


「フランってすごく頭がよくてね、魔法陣の研究をしてるの。私はその手伝いをしてるんだよ」


「……へぇ」


 ガレルは硬い表情のまま、また歩き始めた。

 あ……謝るタイミング逃しちゃった。

 まぁ、手合わせ終わった後でいっか。


 そのあとの手合わせは、いつもの通りぼろ負けだった。

 最近思うのだが、ガレルはいつまで私との手合わせを続けるつもりなのだろう。

 もうガレルからしたら私なんて役不足もいいところだろう。

 そんな私とやってガレルは楽しいのかな。

 鍛錬になってるのかな。


 まあいいや。

 剣術学年一位と戦わせてもらえているのだから私にとってはありがたいことだ。

 ガレルとの手合わせで少しでも自分の剣技を成長させないとな。

 

オランがやっていた訓練について。魔術を遠くに放つとき、離散しないように物体操作術である程度形や方向を保つ必要があります。あの訓練は、それをできるようにするためのものです。

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