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-033- お土産


「シフォン、ロール、オラン」


 お父さんたちが私たち一人一人の目を見て呼びかける。

 モンブライトに着き、私たちは王城の目の前まで来ていた。


「元気でやるんだよ」


 そう言ったお父さんの目は暖かく、でも、どこか寂しさが感じられた。

 お母さんは私たち三人を抱きしめてから立ち上がり、お父さんと顔を合わせ頷いた。


「それじゃあね」


 そう言って、二人は門の中に入る。

 私たちはぶんぶんと必死に手を振って、お父さんとお母さんを見送った。


 ◆


 ミルフィユ学園につき、私はまず学園長室へと向かった。


「学園長、父から弟のオランについて聞いていますか?」


「あ〜ね。聞いてるよ、ちゃんと」


 学園長は胡散臭い髭を撫でながら頬杖をつく。


「この学園に置きたいんだってね。いいよ、別に。君の弟は来年入学できる実力も持っているそうだし」


「ありがとうございます」


「それで、どこに置くつもり?」


「私の部屋、ではダメですか?」


「ふぅん。いいんじゃない?」


「そうですか。ではそうさせてもらいます」


 全く。

 あの学園長はなんであんな態度で学園長をやっていけているのだろう。


 ま、なんにせよ、許可も出たし、オランには私の部屋で暮らしてもらおう。


 っていう旨をロールとオランに話すと、ロールが不満をあらわにした。

 

「え〜! オラン、お姉ちゃんと一緒に暮らすの⁉︎ ずるい!」


 ずるいずるいと、ロールは地団駄を踏む。

 かわいい。

 じゃなくて、どう説得しようか。

 オランに私の部屋で暮らしてもらおうと思ったのは、それが1番安全だと思ったからだ。

 もし何かあったときに、私がすぐに助けることができる。

 最近物騒だしね。

 それに、ロールがなんと言おうと、学園の規則でロールが私の部屋で暮らしたり、私がロールの部屋で暮らしたりはできない。

 オランは入学前だから、特例なのだ。

 オランも来年は初等部寮に入らなければならない。


「シフォン姉。いいよ、僕、ロール姉の部屋で暮らしても。そうしたらロール姉も文句言わないでしょ」


 オランがそう提案する。

 う〜ん、それもアリかなぁ。

 ミルフィユ学園のセキュリティは固い。

 私の近くでなくとも、それなりの安全は保障されるだろう。

 でもなぁ……。

 本音を言うと、この決断には私がオランと一緒に暮らしたいという願望も混じっている。

 今まで離れ離れだったのだから、一緒にいる時間を増やしたい。

 三人で暮らせるのが一番いいんだけどね。

 まあ、それは来年の秋休みにってことで。


「ロール、オランと私が一緒に暮らすの、そんなに嫌?」


「だって、私だけ……」


「ロールはね、お姉ちゃんで、もう立派だから一人で暮らすの。オランはまだ幼くてか弱いから私と一緒なんだよ?」


「……」


「立派なお姉ちゃんとして一人暮らしするのと、か弱い子供として私に守られながら暮らすの、どっちがいい?」


「……立派なお姉ちゃんとして一人暮らしする方がいい」


「でしょ?」


 ロールだって今まで剣の鍛錬を積み重ねてきたのだ。

 か弱いと自分で認めるのはプライドが許さないのだろう。


「納得してくれた?」


「……うん。でも、春休みと秋休みは絶対三人で暮らそうね!」


「春休みは、分からないかな〜」


 なんせ、剣杖会があるかもだし。


「でも、そうだね。秋休みは絶対三人で暮らそっか」


「約束だよっ!」


 そう言って、ロールは笑顔に戻った。

 でも、今度はオランが少しムッとして、


「シフォン姉。僕はか弱くないから」


 と言った。

 どうやらか弱いと言われたのが悔しいようだ。


 ◆


 寮のみんなにオランを紹介して、その翌日。


「フィナ、ノーレ、これお土産」


 ベニエ村の近くの街で買ったお土産を二人に渡す。


「私も、これ」


 今度はノーレがお土産を渡してきた。


「これは?」


「北部の方にいってきたから、そのお土産」


「そうなんだ、ありがとう」


「ありがとう。ごめんね、私だけお土産なくて」


 フィナは申し訳なさそうに言う。


「いいよ、全然」


 フィナは休みのときもお母さんの写本を手伝っているんだもんね。

 偉い偉い。


「おい、シフォン」


 呼ばれたので見ると、ガレルがずかずかとこちらに向かってきている最中だった。


「これ、お土産だ」


「あ、うん、ありがとう。私からもこれ」


 そう言って私はガレルにお土産を渡す。

 ガレルは毎年欠かさずお土産をくれる。

 律儀だよね。


「今年はどこに行ってきたの?」


「カノ王国だ。今まで行った国の中で一番街並みが綺麗な所だった」


「ふうん。ガナッシュも一緒にいったの?」


「? そうだが、なんだ?」


「いや、なんでも」


「そうか、じゃあな」


 それだけ言ってガレルは去っていく。


 ガレルとガナッシュ、毎年一緒に外国へ行っているような……

 まさか、あの二人、そういう……?


「大層な考察を繰り広げているところ悪いけど、ちがうよ」


「――っ!」


 び、びっくりしたぁ。

 急に後ろから声をかけるもんだから。

 振り向くと、案の定ニコニコしたガナッシュが立っていた。


「僕とガレルが毎年一緒に旅行に行ってるのは、家関係で仕方のないことだからね」


「へー……」


「特に今年は大変だったよ。魔王対策でさ」


「あー、それはうちも同じかなぁ。親が王城行きになっちゃって」


「そうなんだ、とうとう……」


「あ、これお土産」


 私はガナッシュにみんなと同じお土産を渡す。


「ありがとう。僕もシフォンさんにお土産を買ってきたよ」


 と、ガナッシュは鞄を漁り、それを取り出した。


「なにそれ、カチューシャ……?」


 たしかに、それはカチューシャのようなものだったけど、何か違和感がある。


「これね、面白い魔道具でね。シフォンさん、これを頭につけてみてよ」


「う、うん」


 言われたとおりつけると、ボフッと何かが生えてきた。


「えっ、なにこれ⁉︎」


 びっくりして頭に手を回すと、モフモフした何かが頭に付いていた。


「それね、つけると髪の毛にマッチした猫耳が生えてくるカチューシャなんだ」


「えぇ……」


「シフォンさんにどうかなと思って。ほら、よく似合っているよ」


「う、うるさいよ!」


 私はカチューシャを外す。


「シフォンさんじゃなくても、弟さんや妹さんがミルフィユ学園に来てるんでしょ? つけさせてみれば?」


 ……!

 猫耳のロールとオラン……

 やばい、見たい。

 うん、帰ったらまずオランにつけさせてみよう。


「ありがとうガナッシュ。それじゃあね」


 と言って私がフィナたちの元に戻ろうとすると、頭をポンと叩かれたような衝撃を感じた。


「?」


 振り返ったみるも、ガナッシュがただニコニコとして立っているだけ。


「ガナッシュ、何かした?」


「んー? いいや、なにも」


「そう」


 うー、怪しいなぁ。

 ガナッシュの顔を怪訝に覗き込むも、にっこりとした顔は変わらない。

 まあいいや。

 私は、フィナたちの元へと戻った。


 ◆


「シフォン、あなた……」


 戻るなり、フィナとノーレが目を丸くして私を見ていた。


「なに?」


 なにに驚いているのかよくわからなくて尋ねるも、二人は困ったような顔を浮かべてから、


「いや、なんでもない。それより、もう授業だよ。ノーレ、またね」


「ええ」


 そう言って私たちは授業へと向かった。


 ◆


 ……?

 なんだろう、いつもより多くの視線を感じる。

 廊下を歩いているときとか、教室に入ったときとか、何人もの生徒が私の方を見ていた。

 見ていた……というよりあれは二度見……?

 なんでだろう。


 ◆


 放課後、私はガレルと剣術の手合わせをしていた。

 どういうわけか、今日は私が攻勢だ。

 私が強くなったというよりも、今日はガレルが集中できていない。


「ガレル、大丈夫? 今日なんだか集中できてなかったよ?」


「っ、それはお前がっ……いや、なんでもない」


 なんだよ、釈然としないな。

 ガレルは私の視線から逃れるようにそそくさと訓練場を去っていった。


 なんだあいつ。


 ◆


「ごめん、遅くなっちゃった」


 ガレルとの手合わせですっかり遅くなってしまったので、急いで図書館に行くと、いつも通りフランが本を読んでいた。


「別にいい……よ?」


 フランは私の方を見てフリーズする。


「どうした〜?」


 フランの目の前で手をパタパタと振ると、フランは我に帰った。


「ああ、ごめん」


 それから、私たちは読書に入った。


「……」


「……」


「……ねぇ」


「なに?」


「いや、なんでもない」


「……」


「……」


「……君、」


「んー?」


「いや、やっぱりいい」


「?」


 今日はフランも様子がおかしかった。


 ◆


「ただいまぁ」


「おかえり、シフォン姉」


 帰ったら天使がいる!

 こんな生活がずっと続けばいいのに……


「オラン〜、今日は何してたのかなぁ?」


「寮を探検してた」


「そうなんだ。迷惑なことしたらダメだからね?」


「わかってるよ」


 そこまで会話が終わると、オランは私と合わせていた目線を少しあげた。


「ところで、シフォン姉」


「ん〜? なに〜?」


 オランは、黙って頭を指を差した。


 ……?


 オランに倣うようにして、頭に手を向けてみると、モフリと普通ではない感覚があった。

 これはそう、猫耳のような……


 嫌な予感がしてそのモフモフをとって見てみると、それは猫耳になるカチューシャだった。


 ガナッシューーーーー!


 ◆


 翌日。


「フラン。これ、私の村のみんなが書いた設計図なんだけど」


 私は村のみんながつくろうとしているものの設計図をフランに渡す。


「君の村の……へぇ。自動の車か」


 フランは設計図と睨めっこを始めた。

 しばらく眺めたあと、口を開いた。


「……へぇ。偉いね、この子たち。しっかりと現代魔法陣の特性と物理法則の折り合いを考えて設計している。さらに言えば、発想も中々のものだ。回転の運動を実にうまく使っている」


 ベタ褒め。

 いやーうれしい。

 友達を褒められるのって自分も嬉しくなるよね。


「残念ながら僕は古代魔法陣専門だから現代魔法陣については詳しくないけど、会って話がしたいな」


「遠いから会うのは無理かな〜」


「そう。なら手紙でも」


 どうやら村のみんなはフランに気に入られたようだ。


「この設計図を見る限り、この子たちは中学生とは考えられないくらい優秀だね」


「設計図からそんなにわかるの?」


「あぁ。つくるものの内容に加えて、線の引き方、情報のまとめ方とか、優秀かどうかの判断材料はたくさんあるよ」


「そうなんだ」


「ちなみに、僕はシフォンも優秀だと思っているよ」


 えっ、急に褒められると照れるんだけど。


「シフォンは自分のこと頭悪いなんて言っているけど、全然こんなことない。むしろ、吸収がはやいし計算もはやいからかなり優秀な部類に入ると思うよ」


 あー……計算がはやいのは、多分前世のおかげですね。


「あ、ありがとう」


 それでも、フランに褒められたことがなんだか嬉しかった。


カノ王国はスイト王国の南東に位置する小国です。

この国の国民は芸術性が豊かであり、それが世界でもトップクラスの美しさを誇る街並みを生み出したと言われています。

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