-032- 家族団欒
秋休み。
ロールと一緒にベニエ村へと帰る。
今までは一人だったから少し寂しかったけど、天使が一緒だったからあっという間だった。
「あれ……?」
家が見えてくるのと同時に、私とロールは首を傾げる。
庭で育てていた植物が綺麗さっぱりなくなっていた。
緑でたくさんだった家の前はがらんとしていて、どこか寂しい雰囲気を漂わせていた。
私とロールは顔を見合わせる。
何かあったのだろうか。
「お母さーん?」
恐る恐るドアを開けると、キッチンにはお母さん、ダイニングにはお父さんとオランといういつも通りの光景が広がっていた。
何事もなくてほっとする。
「シフォン、ロール、おかえりなさい」
「お母さんどうしたの? 庭がつるつるになってたけど」
「ああ、そのことなんだけどね。お母さんたち王城に行くことになったの」
「ああ……」
なるほど、去年言っていたやつか。
よく見ると、家具の数も減っていた。
この家を空ける準備をしているのだろう。
「いつ行くの?」
「詳しいことは後で。昼ごはんできてるからはやく食べましょ?」
「うん」
とりあえず、私たちは家族団欒を楽しむことにした。
◆
「それで?」
私はお母さんたちに引っ越しの詳細を話すように促す。
「ええ、去年も言ったけど、私たちは王城に戻らなくてはならなくなったの」
「うん。いつこの村をでるの?」
「シフォンたちと一緒にモンブライトへ向かうわ」
「オランはどうするの?」
私の疑問にお父さんが答える。
「一緒に連れて行く。そして、入学前だけど、ミルフィユ学園におかしてもらう。お前んとこの学園長にも話を通してある」
オランとも一緒に暮らせるのか!
いやぁ〜それは嬉しいなぁ。
「あ、ちなみに、この家の主はいなくなるけど、お前たちはベニエ村に滞在したいとき自由に使っていいぞ」
「本当? ありがとう」
これから先もベニエ村のみんなに会いたいもんね。
「お母さんとお父さんは、私たちとはあまり会えなくなるんだよね」
「……ええ」
少し、部屋の雰囲気が暗くなる。
「それは、それが家族団欒よりも大切な仕事だから、って言ってたよね」
「……」
「魔王関係、だよね、お母さんたちの仕事」
「……ええ、そうよ」
お母さんは重々しく頷いた。
「離れ離れになって、事が終わった後、また、無事にみんなで食卓を囲めるよね……?」
魔王が誕生してから、もしかしたら、という嫌な想像が頭をよぎる。
これが今生の別れなんて、絶対に嫌だ。
「大丈夫だ」
お父さんが力強く言う。
「俺たちはシフォンが思ってるより何倍も強いんだぞ? 必ず、戻ってくるよ。約束しよう」
お父さんがわしゃわしゃと私の頭を撫でる。
その手はとっても大きくて、とっても暖かかった。
「うん、絶対だからね!」
お父さんたちの自信に満ちた表情を見ていると、漠然とした不安もどこかへ飛んでった。
◆
「えぇ! リンリンこの村を出て行ったの⁉︎」
「うん。そうなの」
どうやら、リンリンは魔術を学ぶために魔術専門学校に入学したらしい。
しかも、その学校が随分と遠くにある場所にあり、私のように毎年帰ってくることができないんだとか。
次に帰ってくるのは中等部を卒業したときらしい。
「リンリンちゃんはシフォンちゃんと同じくらい立派魔術師になって帰ってくるってさ」
「……そっか」
もしかしたら、魔術大会とかで会うかもね。
そのときは、リンリンちゃんがどれくらい成長しているか楽しみだ。
◆
「ここは水の魔法陣に温度操作の命令式を加えた方がいいんじゃ?」
「いや、いくつか調べた結果、これが一番効率が良かったんだ」
「でも、それじゃこの機器が重くならない?」
「だから、もちろんそれも考慮して調べたんだよ。その結論がこれだ」
私も魔法陣を勉強し始めたということもあって、コルクとカンタの会話に混ざれるようになった。
なんかかっこよくなった気分だ。
「この設計図ある?」
「あるよ」
私はコルクから紙一面にびっしりと書き込まれた設計図を受け取る。
「おぉ……すごい。これ、うちの学校の友達に見せてあげたいなぁ」
「別にいいよ、持って行っても」
「ほんと⁉︎ ありがとう。来年、感想をもってくるね。その子、すごく頭がいいからいい知恵をくれるかも」
「そんなんだ。それは楽しみだなぁ」
ふふふ、帰ったらフランに村のみんなを自慢しよう。
「それにしても、レミリーとバオバ、遅いね」
二人は今材料となる木材をとりにいってくれている。
「あぁ……」
コルクとカンタは少し笑いながら顔を見合わせた。
「中学になって、あの二人、いい感じなんだよね」
「最近また距離が近くなったよね」
……!
「え、え、もう付き合ってるの?」
「付き合ってはないんじゃない? でも、そういう未来もそう遠くないかもね」
「え〜そうなんだぁ」
そうだよなぁ。
中学生なんて恋愛してもおかしくない頃だよなぁ。
「シフォンはいないの? そういう男子」
コルクが意地悪そうな笑みを浮かべて聞く。
「いないよ。びっくりするくらいね」
「そうなんだ。ミルフィユ学園なんて人たくさんいるんだし、出会いも多くあるんじゃないの?」
「そのはずなんだけどねぇ」
ほんと、どうしてだろうね。
レミリーとバオバが戻ってきたのは、それから三十分くらい後だった。
◆
「……よし」
お父さんが最後のチェックをして、家のドアを閉める。
がらんとした我が家を見ていると、なんだか寂しい気持ちになる。
残す必要のない家具は村の人に受け渡し、馬のミントは村の馬小屋に置かしてもらった。
来年ここに戻ってきても、お母さんとお父さんはいない。
「いくか」
今日、ハトサブル家はベニエ村を出た。




