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-031- 実験


 フランの助手になってから1週間。

 特に助手らしいことはやっていない。

 ただ、フランから渡された本を読んでいるだけ。

 この1週間は、魔術史の本を読んでいた。


 この世界には、多様な生物が存在している。

 その多様化の説明の一つとして、『人間退化論』という考え方がある。

 私が読んだ本にはこう書いてあった。


『かつて、人間は全能の存在だった。

 圧倒的な身体能力、知力を持ち、できないことはなかった。

 全能な人間は、使用可能な魔術の属性も豊富だった。

 水や風などはもちろん、雷、光、さらには空間魔術さえ使えたという。

 

 そのように人間は全能だったが、聡くはなかった。


 紀元前五千年、戦争が起こる。

 メロストロブの戦いだ。

 人間は全能であることにプライドを持ち、他者を貶めるようになった。

 だが、貶める相手もまた全能でプライドが高い。

 人間の、中身の伴わないプライドだけが競うように膨れ上がり、やがてそれは破裂し、開戦と相なった。

 これは、非常に愚かだと言える。


 その愚かさに、創造神セリヌスは激怒した。


 激怒したセリヌスは、人間から多くの能力を奪い取り、その能力を新たに誕生させた生命に与えた。

 これが、多様化のはじまりである。

 凄まじい速さで走ることのできる脚力はタイガーへ、高く跳ぶことのできる跳躍力はウサギへ、遠くまで見渡せる視力はタカへ、何もかもを薙ぎ倒す腕力はゴリラへ。

 そのように、創造神セリヌスが人間の能力をたくさんの動物に分配したことにより、現在の多様性が生まれた――』


 ふむ、人間退化論か。


「つまり、人間はいろいろ能力を持ちすぎたから、神様にそれをとりあげられちゃったってこと?」


「そう」


「それで、人間には知力だけが残された……と」


「僕の意見も交えるなら、"愚かさ"も、だね」


「……」


「……ごめん、言ってみたかっただけ」


 フランって時々厨二病はいってるよね。


 ◆


「重要なところは退化論うんぬんじゃなくて、かつて人類は今よりもはるかに優れた魔術を使えていたという点だ」


 こほんと一つ咳払いをし、フランは言った。


「その痕跡が、世界各地に古代魔法陣として残っている。現在人類が編み出した魔法陣は初級の生成術しか使えない。だけど、その古代魔法陣は今では説明のつかないような魔術の行使を可能にしている。勇者召喚がいい例だ。現在の魔術じゃあんな複雑なことはできない」


「なるほど……」


「ただ、魔法陣の仕組みは今も昔も変わらない。魔術が発動するの時の魔力の流れ――命令式っていうんだけど、それを何かに刻むことによって魔法陣はつくられている」


「とすると、魔力を流せば誰でも古代魔法陣が使えるってこと?」


「その通り。僕の研究は古代魔法陣の命令式の解読。詳しいことはこっちの本に書いてあるから読んでおいて」


 フランはそう言って分厚い本を渡してきた。

 う……これも読むのか。

 最近文字ばっかだ。

 目が悪くなりそう。

 寝る前に目のマッサージでもしておくか。


 ◆


 フランの助手になって一ヶ月、魔法陣の知識も順調に増えてきた頃。


「今日は実験をやるよ」


 フランが図書館に着くなり言い放った。


「実験?」


「そ。魔術訓練場借りてきたから、行くよ」


「う、うん」


 実験って、なにやるんだろ。

 私まだフランがいつも睨めっこしている難しい式とか理解できてないけど……大丈夫かな。


 魔術訓練場に着くと、フランは魔法陣のかかれた紙を広げた。


「君は僕がかいた魔法陣に魔力を流すだけでいいから」


「わかった」


 フランは色々準備した後、私に魔力を流すように指示をした。

 言われたとおり、魔力を流す。

 すると、魔法陣はビリビリと電気が走ったかと思えばボンと爆発して黒焦げになった。


「……失敗?」


「いや、だいたいこんなものだ」


「ふぅん……」


 今ので何が分かったんだろ。

 それにしても……


「これ、思ったより魔力を使うね」


「うん。現代の魔法陣と比べて命令式が複雑だからね。消費する魔力が多いんだ」


「そうなんだ」


「あと何回くらいいけそう?」


「う〜ん、あと十回くらいいけるかなぁ……」


「すごいな……僕なんか三回で魔力切れになるのに」


「そうなんだ」


 あれ?

 ていうことは、フランの魔力量って私の三分の一くらい?


「もしかしてフランって魔力量少ない人?」


「そうだよ。君も知っている通り、個人差はあるものの、魔力量というのは基本的に鍛錬を積み重ねた量に比例して増えていく」


「うん」


「ちょっと言い訳っぽくなっちゃうんだけど、僕は人生の大半を研究に費やしてるからね。どうしても鍛錬の時間が少なくなり、他の皆と魔力量の面で劣ってしまうんだ」


「でも、それでも魔術Aクラスにいるんだから、フランはすごいよ」


「知識と工夫でなんとかカバーしてるだけだけどね」


 フランは自嘲気味に笑う。


「君も、僕の研究に付き合っているせいで鍛錬の時間が取れないのなら言えよ。君にとっては、僕の研究なんて二の次なんだから」


「大丈夫。私魔術や剣術の鍛錬は朝にやってるから」


「そう」


 それから、同じように私はフランの指示を受け、魔法陣に魔力を流した。


 ◆


 実験が終わった後フランから聞いたことだが、この実験は古代魔法陣の命令式の解読のためなんだとか。

 解読する命令式を選び、それを組み込んだ古代魔法陣を何千パターンも試し、その命令式の効果を調べるらしい。

 なんとも気が遠くなる作業だ。

 どの世界でも、研究者ってのは根気強いものだね。


現代の人々は仕組みは理解してないけど古代魔法陣を使って勇者召喚を行なっている、という感じです。

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