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-029- 紹介


 中等部に進級してから、勉強が大変になった。

 初等部のころはよかった。

 覚えることが少ないし、前世で一通りやった算術がメインだったから。

 中等部では覚えることがどっと増えた。

 魔物や植物の名前、特性、用途……などなど。

 落ちこぼれないように頑張らないとなー。


 ◆


「お姉ちゃん!」


「ロール!」


 ロールが私に駆け寄り、抱きついてくる。

 かわいい、やわらかい、いい匂い。

 ほんとに天使だよ、ロールは。

 ロールは今ミルフィユ学園初等部一年に在籍していて、寮に住んでいる。

 会おうと思えば会えるのだが、初等部と中等部の寮は地味に距離があるので時間の都合でなかなか会えないのだ。

 今日はロールが中等部の寮へとやってきた。

 ふふふ、みんなに自慢しよ。

 この天使な妹を。


 ◆


「ロールちゃん、はじめまして」


 フィナがしゃがみロールと目線を合わせて挨拶をする。


「フィナさん、はじめまして!」


 ロールはにこりと笑い、挨拶を返す。


「フィナさんはとても博識な方なんですよね。お姉ちゃんからよく聞いています!」


「そうなんだ。別に博識ってわけじゃないけど、私は家の手伝いでよく写本をやるからね、嫌でも知識が身につくんだ」


「そうなんですか! 知識が豊富な人ってすごく憧れます!」


「そっか」


 フィナは立ち上がり、私に囁く。


「ねぇ、シフォンの妹さん、私にくれない?」


「はぁ⁉︎」


 何を言っているんだ!

 ロールは誰にもあげないぞ!


「あのかわいさは反則」


「ぶー、だめです。ロールは私の愛おしい妹ですから」


 フィナが冗談を言うなんて、珍しい。

 フィナの心を揺り動かすくらい、ロールが可愛かったのだ。

 ふっふっふ、流石のフィナでもロールの前ではデレデレを隠せないのだろう。


「ロール、こっちの子はノーレ」


 私はロールにノーレを紹介する。


「ノーレさん、はじめまして!」


「……はじめまして」


 笑顔で挨拶するロールとは対照的に、ノーレの表情は硬く、なんだか静かだ。

 そろそろノーレとの付き合いも二年になる。

 私は知ってるぞ、こういうときのノーレは緊張しているのだ。


「ロール、ごめんね? 今ノーレはちょっと緊張してるみたい」


「べ、別にしてないわよ! 勝手なこと言わないで!」


 ロールの前で緊張していると言われたことが恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にして反論してくる。


「ノーレさんのこともお姉ちゃんからよく聞いています。とっても大切な友だちだって」


「そ、そう」


 ノーレは緊張しつつも、ロールと目線を合わせ、躊躇いがちに言った。


「……その、あなたの頭、撫でてもいいかしら……?」


 ロールは少し驚いた後、ひまわりのような笑顔で頷いた。


「いいですよ〜」


 ロールが頭を差し出す。

 ノーレはゆっくりと手を伸ばし、優しく撫でた。


「――っ!」


 あっ、ノーレ撃沈。

 ロールほどになると、なでなでする側が卒倒しちゃうんだよね、かわいすぎて。

 さすがはロール、あっという間に二人の心を射抜いてしまった。


 ◆


 今日はみんなでブレッドのお店にいく。

 紹介するという約束をしていたからね。


「こんにちは〜」


 カランカランとドアをあけ中に入る。


「あらシフォンちゃん、いらっしゃい。今日はどのパンにする?」


 ブレッドのお母さんがお出迎え。


「あ、今日はもちろんパンも買いに来たんですけど、ブレッドに私の友だちを紹介したくて」


「ああそうなのね。ブレッドー!」


 ブレッドのお母さんが大声で呼ぶと、店の奥からトコトコと小走りする音が聞こえてきた。


「なにー、お母さん。あれ、シフォンちゃん……と、そちらは?」


「ブレッド、こちらは私のお友達のフィナとノーレ。そしてこの子は妹のロール」


「わぁ、友だちと来てくれたんだね」


 ブレッドのお母さんが立ち話もなんだから、と言って家の中へ入れてくれた。


「みんな、こちらはこのパン屋のせがれのブレッド」


「よろしく」


 ブレッドがにっこり挨拶をする。

 こう見ると、ブレッドってガナッシュと雰囲気がそこはかとなく似てる気がする。

 いやでも、ガナッシュは腹黒だけどブレッドは裏表がない。

 そういうところがなんだか安心できるんだよなぁ。


「ブレッド君。シフォンから君っち家のパンを分けてもらったことが何回かあってね、すごくおいしかったよ。よければ、おすすめを聞かしてもらっていい?」


 フィナが早速話しにいく。


「そうなんだ。そうだな〜フィナちゃんの口に合うかはわからないけど、このパンが個性的でおすすめだよ」


 ブレッドは次々とパンを紹介していく。

 一通りフィナと話し終えたら、ブレッドはノーレに話しかけた。


「ノーレちゃん……だったよね? すごく綺麗な髪色だね。こんなに鮮やかな紅色の髪、初めて見たよ」


「……そう」


 ノーレはブレッドに話しかけられ、不機嫌そうになった。

 え、なんでだろう。


「ノーレちゃんは好きなパンとかある?」


「……特にないわ」


 あっ、わかった。

 ブレッドがチャラそうな喋り方だから不快に感じているんだ。

 う〜ん、確かに初対面の女の子をちゃん付けはチャラいね。

 私は初等部一年のころからそうだったからあまり気にならなかったけど、私たちはもう中学生だもんね。


「ノーレ。ブレッドはチャラそうに見えるけどいい人だからだいじょーぶ! 私がガレルと喧嘩して不登校になって落ち込んでたときだって、ブレッドが慰めてくれたんだから! すごくいい人だよ!」


「…………へぇ、慰めて……そうなのね」


 えぇ⁉︎

 より一層不機嫌になった。

 なんで⁉︎


 ブレッドはノーレの不機嫌なんて気にせず今度はロールに話しかけにいく。


「シフォンちゃんの妹さんなんだよね。そっくりでびっくりしちゃった。ロールちゃんは好きなパンとかあるかな?」


「そうですね〜私は基本的にパンは大好きですが、特にフルーツが入っているパンが大好きですね!」


「そうなんだ。うちにもあるよ、フルーツパン。今日はロールちゃんのためにサービスしてあげるね」


「本当ですか⁉︎ ありがとうございます!」


 う〜ん、意識してみると、確かにブレッドはチャラい。

 しかも、人当たりのいい笑顔をもっていて対人スキルもある。

 ロールがたぶらかされないか心配だ。


 その後も、私たちはお互いの学校や生活についていろいろ話した。

 うん、すごく楽しい時間だった。


 ◆


 店をでたらすっかり夕方になっていた。

 私たちはブレッドのお店で買ったパンを籠に入れ、よいしょよいしょと運びながら帰る。

 

「すごいね、ブレッド君ちのパン屋さん。ほんとにおいしい」


「そうでしょう、そうでしょう」


 友だちを褒められるとつい自分まで嬉しくなっちゃうよね。

 しかし……


「……」


 ノーレがお店にいた時からなんだか不機嫌だ。

 どうしたのだろう。


「ノーレ、なんでそんなに機嫌が悪いの?」


「別に悪くないわよ」


 と、こんな具合でどうしてテンション低いのか教えてくれない。

 私が困っていると、フィナが言った。


「ノーレはね、シフォンがブレッド君と仲良さそうなのを見て、嫉妬してるんだよ。だから不機嫌なの。ノーレはシフォンが大好きだからね」


「し、嫉妬なんてしてないわよ!」


「いや、してるでしょ。もう長い付き合いなんだから、それくらいわかるよ」


「……」


 フィナの言葉にノーレはむくれる。

 つまり、ノーレは私がブレッドと昔から仲良かったのが羨ましかったってこと?

 えっ、なにそれかわいい!


「ノーレ、私もノーレのこと大好きだからね、大丈夫だよ」


「だーかーらー! 嫉妬なんてしてないから!」


「あはは、ノーレ顔真っ赤」


 楽しいなぁ。

 明日も学校が休みだし、今日はみんなでお泊まり会をやろうかな。


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