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-002- ベニエ村


「お母さん、お父さん、私村に行きたい!」


「ふむ、村か」


「そろそろいいかもしれないわね」


 私たちが住んでいる家は、村から少し離れたところにあり、私は村に足を踏み入れたことがない。たまに大人のお客さんは見たことあるが、同年代の子供は見たことがないから会ってみたいのだ。


「それじゃあ、明日、一緒に行こっか」


「やった!」


 村かぁ。どんな感じなんだろう。お友達になれそうな子いるかな? 楽しみ!


 ◆


 そして、翌日。


「シフォンー? 準備できたー?」


「うん!」 


 いつもより少しお洒落な服を着たお母さんは、私の手を握る。


「お父さんっ、はやくはやくっ!」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 私が急かすとお父さんはドタドタと急いで階段を降りてきた。お父さんはいつもと変わらない素朴な格好。それでもカッコいいと感じるのは顔がいいからだろう。


「じゃあ、行こうか」


「うんっ」


 親子三人、私たちは手を繋いで村へと向かった。ちなみにお父さんだけのときはミントに乗っていく。でも今日は三人だからミントはお留守番だ。


 二十分ほど歩くと、大きな畑と小さな家々が見えてきた。


「お母さん!」


「ええそうよ。あれが、ベニエ村よ」


 透き通った水が流れる綺麗な川。ゆっくりと回る水車。自然豊かで、のどかな村だ。


「あれ、タルトさんじゃないですか!」


 畑仕事をしていた青年がこちらに気づき声をかけてきた。


「おはようございます。今日は一家でピクニックですか?」


「ははは、そんなところだ」


「それじゃあ、そちらがシフォンちゃんですね」


 青年は私をまじまじ見つめる。私は視線が少し怖くてお母さんの後ろに隠れた。


「あぁ、そうだよ。ごめんな、シフォンは今日村に来るのが初めてで少し怖いみたいだ」


「そうなんですか! それじゃあ、ピクニック楽しんで!」


「ああ、ありがとう」


 そう言って青年は畑仕事に戻っていった。


 ◆


 村に来てまず私たちは村長さんの家に来ていた。


「これはこれは、初めまして、シフォンお嬢ちゃん」


 村長さんは意外と若く、お父さんより少し年上くらいだ。


「……は、はじめまして」


 やっとの思いで挨拶をする。数年間親以外と触れ合っていなかったからか、コミュニケーションをとるのにすごく緊張してしまう。


「シフォン、お父さんは少し村長さんと話しているからお母さんと村を回っててくれ」


 お父さんがそう言うので、私とお母さんは家を出て村を見て回る。


「あら、ラフティーさんじゃない!」


「おはようございます、カナリアさん」


 今度はお母さんが女の人と話し始めてしまった。見てまわりたいのがたくさんあるのに、話終わるのを待ってるだけなんて退屈だ。


「ねぇお母さん、私村歩いてきていい?」


「いいけど、村の外にはでちゃだめよ」


「はーい」


 許可が出たので私はまずあの高い一本杉を目指すことにした。あれに登れば、村が一望できるだろう。


「よっ、よっ、よっと」


 風魔術を使い軽々と登っていく。


「うわ〜!」


 てっぺんからは村よりずっと向こうの地平線まで見えた。


「ん?」


 村の端っこの草原で何人かの私と同じくらいの子供が楽しそうに遊んでる。決めた、次はあそこに行こう。私はぴょんっと飛び降り、風魔術で一瞬体を浮かしてから着地した。


 ◆


「きゃはは」


「あはは」


 幼い子供の笑い声が聞こえてくる。私は陰から様子を伺った。


「じゃあ次は俺とカンタだな」


「ええ〜! バオバに勝てるわけないよ〜」


 どうやら押し相撲のようなものをやってるらしい。……いや押し相撲て。懐かしすぎでしょ。


「あっ、誰かいるよ!」


「誰だ?」


 やばっ、気づかれた。私は仕方なく陰から姿を現す。


「村にこんな子いたっけ?」


「お人形さんみたいにかわいいねぇ」


 この草原にいた五人の子供は私をまじまじと見つめる。


「は、初めまして、シフォンです」


 そう私が挨拶すると、五人の中の女の子が笑って、


「シフォンちゃんね! よろしく、私レミリーっていうの!」


「よ、よろしく」


「シフォンちゃんは、引っ越してきたの?」


「いや、私この村から少し離れたところに住んでて……」


「そうなんだ!」


 ここまで言うと、一番体の大きい男の子が近づいてきた。


「お前、この村に住んでないのか」


「う、うん」


「じゃあお前、よそものだな!」


「へ?」


「よそものは出てけ!」


「ちょっとバオバ!」


 でっかい男の子――バオバ君?――をレミリーちゃんが止める。


「俺はよそものを認めない!」


 カッチーン


 よそものよそもの言われているうちに私はだんだんむかついてきた。


「よそものじゃないよ! たしかに私、ここから少し離れたところに住んでるけど、生まれたのも育ったのもここの土地だよ!」


「うるさい! よそものの話なんか信じるか!」


 はあぁ?


「バオバ!」


 レミリーちゃんがバオバをパシンと叩くがバオバは悪びれた様子もない。


「ごめんねシフォンちゃん。あっちで遊ぼっか」


「う、うん」


「待て! 逃げるな!」


 バオバはそう喚く。出て行けなのか逃げるななのかどっちなんだよ。


「そうだな、俺に『押し倒し』で勝ったら仲間にいれてやろう」


「ちょっとバオバ、シフォンちゃんは女の子なんだよ⁉︎ あんたに勝てるわけないでしょ!」


「ふんっ、じゃあ仲間にいれてやらない」


 押し倒し……おそらく押し相撲のことだろう。その時私はピコーンと閃いた。ふっふっふ、バオバに一泡吹かせてやろう。


「レミリー、大丈夫。ねぇ、『押し倒し』で勝ったら仲間に入れてくれるんだよね?」


 そう言うと、バオバは不敵に笑った。


 ◆


「いいか、勝負が始まってから動いた方が負けだ。相手の体に触っても負けだからな」


「うん」


「じゃあ、よーい……はじめ!」


 トンッと、私は軽くバオバを押した。


 ズドン


 バオバは吹っ飛び、尻餅をついた。


「はい、私の勝ち」


 私はニヤリと笑う。


「も、もう一回だ! 油断してたからだ!」


「いいよ〜」


 そしてもう一回、私はバオバは吹っ飛ばした。


「……シフォンちゃん、すごい力持ちなんだね……!」


 レミリーちゃんは私の力に感心してる。でもね、これは腕力じゃなくて……


「実は、魔術を使っちゃいました⭐︎」


 ヒュウーと、風を起こして見せる。すると、


「ええ〜すごい! シフォンちゃん魔術使えるの?」


「もう一回、もう一回やって!」


「バオバを吹き飛ばすなんてすごい!」


 レミリーちゃんだけでなく、他の子達も話しかけてくれた。バオバを見ると、悔しそうに顔を歪ませていた。


「ねぇ」


 私はバオバに話しかける。


「なんだよ」


「約束だよ、私を仲間に入れて?」


「……ああ」


 やった! と、喜んでいると、


「そのかわり、条件がある」


「へ、条件?」


 今さっき、押し相撲に勝つという条件を満たしたばかりではないか。さてはバカだな、こいつ。


「ま、魔術を俺たちに教えてくれ!」


 え、えぇ〜……。



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