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-026- ロズルート・ノーレ

ノーレ視点です。


 私は、金持ちの家に生まれ、不便のない、恵まれた生活を送ってきた。

 欲しいものがあれば買ってもらえたし、困ったことがあれば使用人さんがなんとかしてくれた。

 だけど、物や金に恵まれていただけで、才能には恵まれなかった。


 私の父、ロズルート・ノーベラは剣の才に恵まれ、それを存分に振るい、今の富を築くに至った。

 当然、生まれてきた私にも、剣を持たせた。

 父の期待に応えようと、毎日剣を振り、必死に鍛錬した。

 だけど、私には剣の才能がなかった。

 それをはっきりと自覚したのは、小学ニ年生の頃、シャルロット家のパーティーに行ったときだろう。

 私はそこで、同い年で同じ学校に通うシャルロット・ガレルが大人と剣を打ち合っているのをみた。

 圧倒された。

 大人の大振りを打ち返す力強さ。

 素早く切り込む瞬発力。

 凄まじい反応速度に、反射神経。


 これが、才能。

 これは、無理だ。


 私はたぶん、シャルロット・ガレルには一生敵わない。

 そう思ってしまって、私の心にひとつ、ひびが入った。


 ◆


 ミルフィユ学園初等部四年生になった。

 クラスはCクラスだった。

 こんなものかな、と、納得した。

 だって、私には剣の才能がないんだもの。

 Aクラスの化け物揃いの中に入って戦っていけるわけがない。

 そう、自分に言い聞かせた。


 ◆


 四年生になってすぐ、私を揺り動かした事件が起きた。

 ハトサブル・シフォンとシャルロット・ガレルの決闘だ。

 シフォンという生徒の名は知っていた。

 獅剣王タルトと特級魔術師ラフティーの娘。

 私はこの決闘に興味をもった。

 シフォンとガレル、どっちが勝つのだろうと。

 結果はシフォンの圧勝だった。

 私は、衝撃を受けた。

 あれほど敵わないと思っていたガレルに、あっさりと勝ってしまう同級生が存在することがショックだった。

 ガレルよりまだ上が存在するのか、と。

 それは、うんざりといった気持ちに近かったかもしれない。

 とにかく、上には上がいることを思い知り、私の心にはまたひびがひとつ入った。


 ◆


 四年生の冬。

 私は放課後、中庭で剣を振っていた。

 モンブライトには珍しく、多くの雪が積もっている。

 素振りを500回ほどやり、少し休憩していると、思いがけない人物がやってきた。

 ハトサブル・シフォンだ。

 心なしか、いらいらしているように見える。

 シフォンは私に気づかないまま中庭の茂みに行き、雪で何かを作りはじめた。

 作っているのが雪像だと気付くのにそう時間はかからなかった。

 そして、その雪像が魔物を模しているというのもすぐにわかった。

 シフォンは私に全く気づかず雪像つくりに熱中していた。

 覗き見をしているようで悪い、と思い身を引こうとした瞬間、


 バスン!


 シフォンは、魔物の雪像を切り壊した。


「……え?」


 思わず、声が漏れてしまった。

 私の声に反応し、シフォンが振り向いた。

 私を見つけると、顔を真っ赤にしたり真っ青にしたりした後、恐る恐る私に近づいてきた。


「あ、あの……このことはみんなに内緒でお願いします……」


 私の顔色を伺い、あわあわしているシフォンの姿はあの天才ガレルに勝った少女とは思えなかった。


「別に言いふらさないわよ。でも、なんであんな……」


「いや、あのね? 今日すごくイライラすることがあって、校舎の外に出たら珍しく雪が積もってて、そうだ雪像つくって壊してイライラを発散しようってなって……」


 シフォンはものすごい早口で弁明をはじめた。


「と、とにかく、私頭のおかしい子とかじゃないからね⁉︎」


 必死に弁明をしているシフォンの姿は少し面白かった。


 ◆


 一通り弁明し終えたシフォンは私の剣に目を向けた。


「あれ、もしかして剣術の練習の途中だった?」


「休憩中よ」


「ごめんなさい、邪魔しちゃったね」


「別にいいわよ」


 そういって、私は剣を持ち、素振りを再開した。

 だけど、シフォンがまじまじと見てくるからあまり集中できない。

 しばらく素振り続けていると、シフォンが話しかけてきた。


「あなたの素振り、すごいね……!」


「え?」


「なんていうか、剣が体の一部だと感じれるくらいよく手に馴染んでる。Aクラスにもここまで剣と一体化してる人は少ないよ」


「そう?」


「うん。長年、一日たりとも欠かさず剣を振るってきたんだなっていうのがひしひしと伝わってくる」


「……」


 天才というのは、素振りだけでそこまでわかるものなのか、と改めてすごさを実感した。

 私は人の素振りを見ても何も感じない。


「ね、私もここで素振りをやっていっていい?」


「……ええ」


 正直、シフォンがいるとやりずらいけど、追い出すのも忍びなかった。

 しばらく、シフォンの隣で素振りをやった。


 ◆


 一日のノルマである1000回に達したので、私は素振りをやめた。

 隣のシフォンはいまだに剣を振っている。

 しかし、こう見るとたしかに。

 シフォンの素振りはCクラスの人とは質が段違いだ。

 さっき言っていた、剣が体に馴染んでいるというのがよく理解できる。

 振りがはやく、空を切る音が鋭い。

 私は、しばらくシフォンの素振りを見続けることにした。


 ◆


 1時間経った。

 シフォンはまだ素振りを続けている。

 私は思わず声をかけた。


「あなた、いつまでやるつもり?」


「え? とりあえず、今日の分の素振りは終わらせたいかな」


「今日の分って?」


「5000回」


「ご、ごせん……」


 ともすると、この子は毎日その数をこなしているのだろうか。

 私の5倍だ。


「ほ、他に毎日続けてることってある?」


「毎日続けてること? うーん、体力づくりのランニングとか、魔術の練習とかかな」


 それから、シフォンが行なっている鍛錬や、他のAクラスの人、特にガレルがなにをやっているのかを聞いた。

 私はショックを受けた。

 私が努力だと思ってやってきたものは、この子にとってはなんの努力にもなっていなかったのだ。

 そして、シフォンやガレルの強さに納得した。

 彼らは、私よりも遥かに多くの研鑽を積んでいる。

 だから、私よりも強くて()()()()なんだ。

 そのとき、私は強くなる希望が見えた。

 それと同時に、私の心のひび割れが、消えた気がした。


 ◆


 私は、Aクラス入りを目指すことにした。

 それに伴い、毎日の鍛錬を見直した。

 いきなりは無理だろうから、少しずつ素振りの回数を増やした。

 そして、ランニング、筋トレなども取り入れた。

 父にお願いして稽古もつけてもらった。


 ◆


 初等部五年生になった。

 私は、Aクラスに入ることができた。

 嬉しかった。

 一年前、化け物の集まりだと思っていた集団に、私も入ることができたのだから。

 私に希望をくれたのはシフォンだ。

 狙ってやったわけじゃなくても、私はシフォンのお陰でAクラスに入れたのだ。

 そのことの、お礼をいいたかった。

 そして、友達になりたかった。

 でも、私は思った以上に不器用で、うまく話しかけることができなくて、攻撃的な態度をとってしまった。

 それでもシフォンは優しく接してくれたし、自分から話しかけてきてくれた。

 私はそのことが堪らなく嬉しかった。


 ◆


 自然教室で、シフォンは魔物が苦手なことを知った。

 私も低学年の頃、魔物が怖かった。

 でも、父に森に連れて行かれ、放置され、無理矢理魔物と戦わせられたことがあり、私はそのときに魔物を克服した。

 弱い魔物なら、幼い自分でも倒せたのだ。

 大抵の魔物は、自分が思っているよりも弱い。

 そのことが分かれば、魔物というのはそんなに怖くない。

 

 魔物に怯えているシフォンを、昔の自分と重ねた。

 シフォンには悪いけど、そのとき、少し嬉しい気持ちになった。

 遥か遠くの場所にいると思っていたシフォンがかつての自分と同じ境遇にいると知り、親近感がわいた。


 シフォンが魔術大会に出場することになり、そのトラウマが足を引っ張っているようなので、私はフィナにかつて父にやられたことを提案した。

 

「ふぅん。いいんじゃない?」


「でも……シフォンに嫌われない?」


「ノーレは意外と小心者だね」


「う、うるさいわね!」


 そんなこんなで実行に至り、シフォンのトラウマ克服に貢献することができた。

 事の後、シフォンにぎゅーとされたのが今年一番嬉しかったことだというのは内緒だ。


 ◆


 中等部では外部生が入ってきて、内部生と外部生の割合が7:3になるが、基本的に外部生の方が優秀なので、Aクラスは外部生の割合が高くなり、力のない内部生は下のクラスへ押し出されてしまう。

 中等部では剣術科と魔術科でコースが分かれるからシフォンやフィナとは一緒のクラスになれない。

 それでも、なんとかAクラスに残れますように。

 

 

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