-025- 卒業
秋休み、ベニエ村に帰ってきた。
「お姉ちゃんっ!」
家につくとロールが勢いよく抱きついてきた。
うん、かわいい。
「ね、ね、一緒に剣のお稽古しよ?」
「うん、いいよ〜」
お姉ちゃんがいくらでも相手をしてあげよう。
「シフォン姉」
「ん?」
見ると、オランがちょいちょいと私の袖を引っ張っていた。
「ロール姉の次、僕に魔術教えて」
えっっ!
オランが魔術の練習に誘ってくれた!
嬉しい!
「もちろんいいよ〜」
あぁ、かわいいがたくさん。
癒される〜。
やっぱり実家は天国だ。
◆
「すごい、なにこれ」
レミリーたちに会うと、去年見た車が進化してた。
「動力の部分を魔法陣を駆使して作り上げたんだ」
コルクが誇らしげに説明する。
説明を聞くに、火魔術と水魔術の魔法陣を使い、簡易的な蒸気機関のようなものを作ったのだそうだ。
ただ、それをどうやって回転の運動へ持っていくか、いい案が思い浮かばないらしい。
「ねえ、リンリン」
「どうしたの?」
「コルクとカンタ、随分と難しい説明をしていたけど、他のみんなは仕組みを理解してるの?」
「あー……」
リンリンは目を泳がせた。
「実を言うと、あの二人以外よく分かってないんだよね」
「そうなんだ」
「でも、みんなすごく楽しそうだし、私は満足かな」
「そうだね」
バオバとか、魔術や魔法陣についての知識が少なそうなのに、車に目を輝かせていた。
やっぱり男の子はメカメカしいものが好きなのかな。
◆
「ねえシフォン」
呼び声に振り向くと、お父さんとお母さんがちょっと真剣な顔をしていた。
「どうしたの?」
「話があるのだけど」
「うん」
「来年から、ロールをミルフィユ学園に通わせようと思うの」
「!!」
それはつまり、毎日のようにロールと触れ合えるってこと⁉︎
「すごくいいと思う!」
「そうでしょう?」
「その次の年、オランも通わせるの?」
「そのつもりよ」
え、でもそうしたら……
「お母さんたちは二人だけベニエ村に残ることになっちゃうの?」
すると、二人は困ったように顔を見合わせた。
「実は、お母さんたち、もしかしたら近々王城に戻らないといけないかもしれないの」
「えっ! そしたらモンブライトで一緒に暮らせるね!」
「ううん、シフォン」
お母さんは残念そうに首を横にふった。
「私たちが王城で働いている間、シフォンたちとあまり会えないと思う」
「え、どうして……」
「家族団欒よりも、大事な仕事だからよ」
「……」
それは……寂しいな……。
しんみりとした雰囲気の中、お父さんがふっと笑い私の頭を撫でた。
「まあ、可能性の話だ。まだ確定したわけじゃない。けど……」
お父さんはしゃがみ、私の目を見て、
「シフォンはお姉ちゃんだ。俺たちから離れた後のあの子たちをよろしく頼む」
「うん」
お母さんとお父さんはなにやら重要な仕事に就いているらしいし、もしそういう事態になったら私がロールとオランを守ろう。
◆
冬が到来し、しかしそれもまた巡り、春になった。
今年の春は少し特別だ。
なんたって、ミルフィユ学園初等部を卒業するのだから。
今日は卒業式。
今、卒業生代表であるガレルが反省やら抱負やらを壇上で述べている。
周りを見ると、泣いている子も少々。
私も少ししんみりとした気分になるけど、校舎が変わるだけでメンバーは変わらない。
あ、でも来年からは外部生が入ってくるのか。
ミルフィユ学園は中等部に進学するタイミングで新たに選抜試験を行って優秀な生徒を獲得している。
中等部では、初等部から上がってきた内部生と試験に受かった外部生との割合が7:3くらいになる。
基本的に厳しい選抜試験を勝ち抜いた外部生の方が内部生より優秀だから、Aクラスに関しては入れ替わりが激しいだろう。
新しくいいお友達ができるといいな。
卒業式が終わった後は、皆んなとの思い出つくりタイムだ。
紙を持ち合って、メッセージを書きあっている。
どこの世界にもこの文化はあるんだな。
と、そんなことを思っているとなんだか少し離れたところで人だかりができているのを見つけた。
なんだろう、と思って人だかりの中心を見てみると、ガナッシュがいた。
ああ、そういうことか。
ガナッシュのメッセージが欲しい女子生徒が殺到してるんだな。
モテそうな顔してるもんな、あいつ。
と、ガナッシュの隣にまたひとつ人だかりがあるのに気づく。
その中心はなんとガレルだった。
え? ガナッシュはまだわかるけど、ガレルがなんであんなに女子に囲まれてるの?
「フィナ、フィナ。あれ……」
「ん? あぁ、あの二人、ほんと人気だよね」
「いやそうじゃなくて! ガレルってあんなに人気だったの⁉︎」
「あー……たしかに、Aクラスでの扱いはアレだけど、普段あまり関わりのない人からみたら家柄がよくて顔もよくて剣も強い男子生徒だからね、人気くらいでるよ」
「ふぅん……」
別にいいけどさ。
なんていうか、敗北感がすごい……
◆
私の初等部最後の行事は剣杖会だ。
剣杖会が終われば、本当に初等部卒業となる。
いつものように長い山道を馬車で行き、いつものように静かに過ごした。
あ、でも、今年は初めて交換会に出た。
そのときに、他校の人とも手合わせをお願いされ、戦った。
学ぶことが多くて、非常に有意義だった。
◆
そうして、春休みが終わり、私はミルフィユ学園中等部に入学した。




