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-024- 本戦


 魔術、剣術大会の本戦会場は、西部、東部、北部、中部で代わりばんこに選ばれる。

 今年の会場は北部だ。

 西部の中でも南の方に位置するモンブライトからは少し遠いので、移動に二泊する必要がある。

 私は移動中のおやつを買いに来ていた。


「いや〜すごいね、シフォンちゃん。魔術大会の本戦にでるなんて」


「えへへ、ありがと」


 おやつと言えば、ブレッドの店の菓子パンだ。

 ここのパンは世界一おいしい。


「今日は特別にいろいろサービスしてあげるよ」


「え、ほんと⁉︎」


「追加できるのは、僕が焼いたやつだけだけどね」


 ブレッドはただでパンを追加してくれた。

 うれしいねぇ。


「それじゃ、魔術大会がんばってね。いいところまで進んだら、お祝いにとびきり美味しいパンをお父さんに頼んでおくよ」


「うん、がんばるねっ!」


 私はたくさんのパンを抱えて店をでた。


 ◆


 移動中、とてつもなく暇だった。

 だけど、フィナがカードゲームを持ってきてくれて、その暇はいくらか紛らすことができた。


「このカードゲーム、フィナが考えたの?」


「違うよ。今モンブライトで流行ってるの、知らないの?」


「全く」


「ふぅん。あなた達みたいな位の高い家の子はこういうのに触れる機会がないのかもね」


 ガレルとガナッシュと他の出場者を巻き込んでカードゲームで遊んだ。

 うん、すごく楽しかった。


 ◆


 案の定、お昼時には小腹がすいた。

 私はブレッドのパンをたくさん持ってきていたけど、フィナはそういうのをあまり持ってきていなかった。

 ふふ、詰めが甘いね、フィナ。

 カードゲームのお返しにパンを分け与えてあげよう。


「あ、これこの前と同じ店?」


「この前? ああ、森に行った時の。そう、一緒だよ」


「ふぅん。ちゃんと紹介してね」


「わかってるよ」 


 フィナとノーレにブレッドのことを紹介するの、すっかり忘れてたなぁ。

 ふと、横から視線を感じた。

 目を向けると、私の抱えているパンを注視しているガレルがいた。

 嫌な予感……


「……なに?」


「それ、美味そうだな。一つくれ」


 はぁー言うと思った。


「なんだよ、その顔」


「いや別に」


 私はパンを半分の半分にちぎってガレルに渡した。


「おい、少ないぞ!」


 そんな偉そうな態度の人にまるまる一個なんてあげません。


「ガレル、少しくらい遠慮しなくちゃだめだよ」


 ガナッシュにピシャリと言われ、ガレル渋々パンを口に放り込んだ。


 ◆


 会場についた。

 さすが北部と言うべきか、夏なのに涼しく、過ごしやすい気候だった。

 人も多い。

 たぶん、このほとんどが観戦者だろう。

 この大会の規模の大きさが分かるな。


「はー、なんか緊張してきた」


 フィナがそんなことを言ってきた。


「フィナって緊張するんだ」


「は? 当たり前でしょ」


 は? って!

 怖いよ、フィナ。


「おい、見ろ」


 周りがざわめき始めた。


「カヌレ学園だ……」


 カヌレ学園。

 スイト王国最高峰の剣士育成機関。

 黒い制服を着た生徒がぞろぞろと歩いていく。

 かっこいいなぁ〜。


「おい、あっちはマロン学園だ!」


 次はスイト王国を代表する魔術学校。

 お淑やかに歩く生徒の中には、剣杖会で戦ったあの子もいた。

 

 両校とも、予選とは桁違いに強い気配を纏っている。

 これが、全国大会本戦にまで進んだ人たちか。

 そして、私がこれから戦い競う相手。

 私の緊張感が高まるのがわかった。


 ◆


 翌日、トーナメント表が発表された。

 ふむふむ……私とフィナは決勝までに当たるかもだけど、ガナッシュとは決勝までいかないと当たらない位置にあった。

 よかったぁ、ガナッシュと当たって早々にリタイアしたくないもんな。


「シフォンさんとは決勝まで当たらないのか、残念」


 ガナッシュがにやりとして言う。


「……どうせ、ガナッシュはお得意の雪魔術で決勝までちょちょいのちょいなんだろうね」


「シフォンさんは雪魔術をなんだと思っているの」


「え?」


「雪魔術は一対一の戦闘には使えないでしょ、普通に」


「……そうだね」


 まあ、雪魔術が無くたって、ガナッシュは決勝まで進むだろう。

 私もがんばろう。


 ◆


 一回戦目は、マロン学園の生徒で、油断のできない相手だったけど、魔力量と手数で押し切った。

 二回戦目はそんなに苦労しなかった。

 一回戦目に相性勝ちした子だったのだろう。

 三回戦目はかなりきつかった。

 魔術のバリエーションは無いけど、手数の多い相手で慣れるのに時間がかかった。

 そうして、私は4回戦目――準決勝に進んだ。


 ◆


「シフォン、がんばって」


 フィナが応援してくれる。

 フィナは二回戦目でマロン学園のクリオル・ロフラという生徒に負けた。

 白い髪、金色の目の生徒だった。

 そう、私が剣杖会で戦った女の子だ。

 そして、私はこれからその女の子と戦う。

 去年、私は負けた。

 だけど、私も今年上級魔術になった。

 よし、勝てるように、全力を尽くそう。


 ◆


 底高く青い空。

 広く轟く歓声。

 そんな中、私は一人の女の子と対峙していた。


「久しぶり」


「うん」


 女の子は綺麗な金色の瞳で私を見据えている。


「あなた、ハトサブル・シフォンって言うの」


「そうだよ。よろしく、クリオル・ロフラ」


 思えば互いに名前を呼び合うのは初めてだ。


「剣杖会のときのようにはいかないよ。私、もう自分のトラウマを克服したの」


「そう、よかった。これで、あなたと全力で戦える」


 女の子――ロフラは不敵に笑い杖を構えた。


 勝負開始の鐘が鳴ると同時に私たちは魔術を展開した。

 岩砲弾を発射したり、風魔術でその軌道をずらしたり、火魔術で火球を打ち出したり、水魔術でそれを消火したり。

 ……さすがだ。

 四属性を同時に展開している。

 しかも、それぞれの属性を複数の役割に分けて使っている。

 なんて器用なんだ。

 その出力と、処理能力には驚かされる。

 だけど、わたしだって……!

 私の魔術はロフラの魔術よりも無駄がない。

 無駄がないから発動がはやいし、威力も高い。

 毎日反復練習をした甲斐があったというものだ。

 この状態が続けば、私が押し勝てる。


 魔術の打ち合いが続き、じわじわと私が押してる中、私は気づいた。

 ロフラが守りの魔術を展開しながら、じっとこちらに杖を向け、魔力を練っている。

 これは、見たことがある。

 3回目だ。

 雷魔術。

 ロフラが持っている固有魔術だ。

 でも、ロフラは去年の剣杖会で言ったこと、忘れたのかな?


"でも、冷静に考えて対人戦で雷魔術なんて使うわけがない。死んじゃう"


 そう、雷魔術は殺傷能力が高すぎる故、ロフラは使わないといった。

 もうそのフェイントには引っかからないよ。

 私は風魔術をジェットのように使い、勢いよく飛び出した。


 その瞬間、ロフラは、笑った。


 バチバチバチ


 ロフラは雷を生み出した。

 そして、その雷は私を貫いた。

 でも、その雷は、この前のような威力はなくて。


「ど、うして……」


「ぎりぎり気絶するくらいの、威力の調節くらい、もうできる」


 だ、だまされた……


「私の、勝ち」


 ロフラはにぃと笑った。


 できるんだったら、いっといてよぉ……

 私はそんなことを思いながら膝から倒れ、気を失った。


 ◆


 起きたとき、私は大会用の医務室のベットで寝かされていた。

 どのくらい寝ていたんだろう。

 日は大分傾いている。

 おそらく大会はもう終わっているだろう。

 私はゆっくりと体をおこした。


「あれ、起きた?」


 ベッドの横にはフィナが座っていた。


「……フィナ」


「なに?」


「私、負けちゃったよ」


「そうだね」


「ロフラ、強かった」


「強かったね」


「あの強さなら、ロフラ、優勝したでしょ」


 少なくとも、私は2回負けている。

 あのロフラが負ける姿なんて、ちょっと想像しずらい。


「いや、負けたよ」


「え?」


「決勝戦、ガナッシュ君がロフラを負かして優勝した」


「ガナッシュが……ロフラを……」


 そう、なんだ。

 ガナッシュは、あのロフラを倒したのか。

 なんだろう、格上だと思っていたロフラが身近な存在に倒されたからか、少しショックだ。

 私とガナッシュって、そんなに差が開いてたんだな。


「フィナ」


「なに?」


「私たち、ガナッシュに置いて行かれないようにしよう」


「そうだね」


 フィナの声も震えていた。

 やっぱり、フィナも悔しいのだろう。


 ◆


 私が寝ている間に表彰式は終わっていた。

 ミルフィユ学園から入賞したのは、魔術で優勝ガナッシュ、第4位私と、剣術で準優勝ガレルだ。

 ガレルは決勝でライザック・ポロネというカヌレ学園の生徒と戦い、惜しくも敗れたらしい。

 馬車の帰り道でそれはもう悔しそうにしていた。

 ライザック・ポロネといえば、去年の剣杖会で私に話しかけてきた人だな。

 あの人、そんなに強かったのか。


 この大会で、私の強さは、ありふれた強さだと言うことを知った。

 ロフラみたいに固有魔術を持っているわけでもないし、ガナッシュみたいに魔術のセンスがあるわけでもない。

 "私だけの強さ"というのをつくる必要がある。

 今後は、そういうことも踏まえて鍛錬にはげもう。


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