-022- 克服
――第65回全国小学生剣術大会出場者
シャルロット・ガレル
カルロマ・クリック
ゲンズ・マルタ
第65回全国小学生魔術大会出場者
ラズベリル・ガナッシュ
ハトサブル・シフォン
レオレオン・フィナ
以上の生徒は放課後職員室へ申し込み用紙を取りに来るように。――
「無理です」
学年掲示板を見た私は速攻で職員室に向かい、先生へとそう言い放った。
先生はまたか、と呆れた顔をしている。
「お前な――」
「無理です」
一分の隙も見せずにピシャリと言う。
無理なもんは無理だ。
私だってなんとかしたいけど、どうしようもないんだから。
「はぁ……」
先生は頭を押さえながら横の方を指さした。
指された先を見てみると学園長室とあった。
なるほど学園長に言えと。
いいだろう。
「失礼します」
学園長室に入ると、学園長が優雅に茶を飲んでいた。
「学園長――」
「ダメ」
即答かよ。
まだ発言すらしてないんだけど。
「これ」
そう言って学園長が差し出してきたのは一枚の紙。
それには大会がうんぬんかんぬんというのの下に、ハトサブル・ラフティーというサインがあった。
「手紙で、親には了承をもらったから」
お母さんー!
なーにやってるんだよー!
「お、親がいくら認めたからって、私は嫌です」
「残念、キミに関してはもう親の了承の下申込書おくってるから、出場しないとキャンセル料払わせられるよ」
こいつほんとに教師かよ。
やってることが詐欺師なんだよな。
学園長はその胡散臭い髭をなでながら言った。
「というわけなので、大会までにちゃんと戦えるようにしてきて」
「はい……」
いつかこいつの悪事を暴いて世間にちくってやる。
◆
「はぁ……」
どうしよ。
剣杖会で会ったあの女の子はトラウマを克服したことある人に話を聞いてみればいいなんて言ってるけど、そんな人私のまわりにいるのかなぁ。
「シフォン」
机に突っ伏してため息をついていると、フィナとノーレがやってきた。
「今度の休みの日、空いてる?」
「空いてるけど」
「そう。じゃ、ちょっと遠くまで遊びにいかない?」
「遠くまでって?」
「ジェラドの大森林あたり」
「遠すぎない?」
「ノーレの家が送ってくれるって」
フィナがそう言うのでノーレの方を見てみると黙って頷いた。
なんか今日ノーレ静かだね。
うん、ジェラドの大森林か。
自然が綺麗でピクニックには最適と聞く。
でもさ……
「あの森魔物でるよね。最近活性化してるんじゃなかったっけ?」
「つい先日雇われた冒険者が住み着いてる魔物を一掃くれたから今一番安全なはずだよ」
「へぇ」
そうなのか。
それならいいかもしれないな。
「わかった、行くよ」
「そう。よかった」
それだけ言ってフィナとノーレは帰っていった。
みんなでピクニックか。
いいね、楽しみになってきた。
ブレッドにお弁当用のサンドイッチお願いしよう。
◆
「今日はよろしくお願いします」
私とフィナはノーレの家の馬車の運転手に挨拶をする。
「はい、承ります。旦那様からもノーレお嬢様のご友人は丁重に扱えと申しつかっておりますので、気に触ることがあれば遠慮なくおっしゃってください」
運転手さんは丁寧に頭を下げた。
お、おぉ……
ノーレってお嬢様だったんだ。
馬車で揺られること二十分。
馬車は森に入り、木陰の中をゆく。
森のあちらこちらで花が咲いていて、シカやリスなどの動物も多くいた。
ふむ、これがジェラドの大森林か。
もうすぐ夏だというのにかなり涼しい。
緑の天井が太陽の光を遮り、森の中は昼だというのに少し暗い。
その中で天井をくぐり抜けた光が照らす一輪の花がやたらと綺麗に見えて眩しい。
森を横切る川を渡れば、目的地に着く。
ピクニック用に整備された公園だ。
整備されているといってもあまり多くの人がくる場所ではないから荒れているところも少々。
でもその荒れ具合が人工物と自然の一体化を成していてまたよき。
「つきました」
「ええ、ありがとうターナ」
ノーレがそう言って降りる。
運転手さんはターナさんというのか。
私とフィナもノーレに続いて降りた。
「おぉ……」
思わず感嘆のため息が漏れる。
あれだ、ジ○リみたいだ。
生命を感じる万緑に、その中を振ってくる光の柱。
チロチロと流れる川の音、そこらじゅうに咲き乱れる花の甘い香り。
肺いっぱいに空気を吸えば、森の空気の美味しさを実感できる。
森の中のひとつひとつが私の五感を刺激する。
あー、心が浄化されていくー。
「ね、まずお弁当食べない?」
私がそう提案すると、みんなも賛成してくれた。
◆
「シフォンのそれ、すごく美味しそう」
フィナが私の弁当箱を覗いて言う。
「ふっふっふ、街一番と評判のパン屋さんにサンドイッチをつくってもらったんだ」
「へぇ。今度紹介してよ」
「うん、いいよー」
そういえば、ブレッドにはミルフィユ学園の友達紹介したことなかったな。
今度フィナとノーレにブレッドのことも紹介しよう。
ちなみに、ブレッドのお店のサンドイッチはめちゃめちゃ美味しかった。
◆
「ね、ねぇ、ちょっと森の奥へ探検に行かない?」
お昼を食べ終わった後、ノーレがそう言い始めた。
「探検? なにか探すの?」
「ま、いいじゃんシフォン。付き合ってあげようよ」
「しょうがないなぁ」
「ちょ、なんで私が聞き分けのない子供みたいになってるのよ!」
ノーレがいると賑やかでいいねぇ。
◆
森の奥に入れば入るほど緑は濃くなっていき、暗くなっていく。
肌寒いのもあって、なんだか少し怖くなってきた。
「シフォン、私たちの前を歩いて魔術であたりを照らしてよ」
「なんで私」
「シフォンが一番魔力量多いじゃん」
はぁ、しょうがないな。
私は火魔術で灯りをだした。
◆
五分ほど歩くと、もう太陽の光はほとんど届かず、私が照らしているところ以外真っ暗だった。
「ねえ、もうそろそろ戻ったほうが――」
私がそう提案しようと振り返ると、二人はいなかった。
振り向いた先にあったのは、緑に覆われた深い闇。
今さっき歩いてきたはずなのに、その闇が得体の知れないものに感じた。
「み、みんなどこ〜?」
心細くなって声を出してみるが、反応がない。
ただ木々がうようよと怪しくざわめくだけ。
やばい、怖い。
「ヴァルゥゥゥ!」
奥の方で何かの叫び声が聞こえてきた。
獣の類だ。
しばらくするとドシドシと重苦しい足音が聞こえてきた。
その足音は次第に大きくなっていく。
逃げよう。
そう思った瞬間、闇の中からそれがヌッと現れた。
「っ!」
赤い目。
黒い邪悪なオーラ。
溢れ出る殺気。
そう――
――魔物だ。
◆
やばいやばいやばいやばいっ!
逃げなきゃ、とにかく逃げなきゃ!
公園へ戻ったらターナさんがいるはず。
運が良かったら途中でみんなとも合流できるかも知れない。
私は魔物に背を向けてとにかく走った。
ああ足が震える。
動いてっ、私の足!
もっとはやく!
「ヴァァァ!」
魔物の叫び声が遠ざからない。
私を追っているようだ。
いやだ、死にたくない。
私はがむしゃらに森を駆けた。
◆
「うそ……」
誰も居なかった。
公園には、あったはずの馬車すら無くなり、人の気配が全く無かった。
ダン、と私の後ろで大きな足音がした。
魔物に、追いつかれたようだ。
いやだ、死にたくない。
生きていたい。
もっと、もっと。
「ヴゥア!」
魔物が尖った爪を振り下ろす。
当たったら死んでしまう。
ああ、いやだ、いやだいやだいやだいやだ――
「いやだっ!」
次の瞬間、魔物は弾け飛んだ。
「……え?」
状況を確認する。
魔物は、ばらばらになって転がっている。
誰がこれを……?
「一発で木っ端微塵か。やっぱすごいね」
そう言って影から姿を表したのはフィナ。続いてノーレも出てくる。
「み、んな……た、助けてくれたの?」
「違うよ、それはシフォンがやったんだ」
「私が?」
「うん」
うーんと? 状況が読み込めない。
「一から説明しようか。まず、このピクニックにシフォンを誘ったのは、あなたの魔物への恐怖を無くすため。森の奥へ行こうとシフォンを誘い、途中でこっそり姿を消し、魔物を放ち、シフォンを襲わせるっていうのが私たちの作戦」
「……えっ、あの魔物フィナたちが放ったの⁉︎」
「正確には、ノーレの家の使用人がね。今回の作戦ノーレの家がかなり協力してくれたんだ」
「えっと……どうしてそんなことを?」
「シフォン、大会のことで悩んでたんでしょ? 自分は敵意を向けらていると戦えないーって」
「そうだけど……」
「殺気剥き出しの魔物を倒した気持ちはどう?」
「……」
「シフォンの中で何がトラウマになっているのかは知らないけど、その記憶とこの魔物、どっちが怖い?」
私は前世の最期、私を追っていた男を思い浮かべる。
「シフォンはこの魔物を容易くふっとばした。シフォンは強いよ。すごく、とっても。それでも、その記憶の相手には敵わない?」
……いや、今は私の方が強いな。
あんなチンピラ、風魔術で簡単にふっとばせる。
……あれ、そう考えると、前世最期の記憶、なんだかちっぽけに感じてきた。
「ね? シフォンの方が強いでしょ?」
ああ、なんであんな男を怖がっていたのだろう。
そうだ、私はもう強いのだ。
「ありがとうフィナ」
「お礼ならノーレに言って。今回の件提案したのノーレだから」
私はノーレの方をみる。
「そうなの? ノーレ」
「た、たまたまよ! たまたま私が昔同じようなことを経験してたから手助けしてあげただけよ! 勘違いしないでよね!」
ノーレはそう言ってそっぽを向いてしまった。
「ノーレ……ありがとうっ!」
私は思わずノーレに抱きついてしまった。
「ちょ、は、放しなさいよ!」
「えへへ、やだー」
ありがとうノーレ。
私はしばらくノーレをぎゅーっとした。
◆
「ねぇフィナ、私がもし反撃できないでいたらどうするつもりだったの?」
「そのときは死んじゃってもしょうがないかなと……」
「えぇ!」
「冗談。ノーレの家の腕の立つ使用人に安全を確保してもらってたよ」
「そうなんだ。抜かりないね」
「もっとも、私はシフォンは土壇場になると咄嗟に魔術を使うって思ってたけどね」
「どうして?」
「……ニ年前、クラスメイトの男の子が病院送りにされたからだよ」
「……ああ」
つまるところ、私は感情が昂ると魔力をコントロールできないというわけだ。
そう考えると私って結構危険だよね。
第二の被害者を出さないように気をつけなくちゃ。
◆
と、いうわけで。
私は大会で問題なく戦えるようになったのだった。
1月27日まで更新止まります。




