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-020- 剣杖会②


 今年も私の元に一通の手紙が届いた。

 そう、剣杖会の招待状だ。

 あーあ、また春休み帰省する時間がなくなっちゃった。

 悲しいなぁ。

 ちなみに、今年もうちの学年からはガレルとガナッシュと私の3人だった。

 今年度は剣でガレルに追いつかれたし、来年は私じゃなくて別の人に招待状が届くかもしれない。

 それはそれで悔しいので、がんばろう。


 ◆


 嘘かと思うような山道を馬車で超え、やっと着いた聖地アフォール。

 相変わらず石ばかりで殺風景な街だ。

 去年と同じように私たちがついたとたん他校の注目が集まった。

 その視線にひとつ下の四年生は萎縮していた。

 うん、わかるよその気持ち。

 でも、こういうのにびびってたら舐められるから胸を張った方がいいぞ。


 ◆


 1日目、立食パーティという形で交流会が始まった。

 ミルフィユ学園としては高等部の先輩方が挨拶にまわってくれている。

 私は隅でちまちま料理を食べているだけでいいから楽なものだ。

 賑やかだなぁと呑気なことを思いながら次々と料理を口に運んでいく。

 ふと、鮮やかな赤髪が目に入った。

 ガレルの兄、ルオさんだ。

 ルオさんは他校の人と楽しそうに会話している。

 ……やっぱりかっこいいなぁ。

 ルオさんは理想のお兄さん像に限りなく近い。

 うーん、私もああいうお兄さんが欲しかった。


「こんにちは、シフォンさん」


「え?」


 しまった、油断してた!

 いつのまにか他校の人が近づいてきていた。


「はじめまして、僕はカヌレ学園初等部5年、ライザック・ポロネと申します」


 そう言ってその男の子は丁寧にお辞儀をした。


「どうも……ハトサブル・シフォンと申します」


 うわ〜どうしよう。

 礼儀作法とかうろ覚えなんだよなぁ。


「シフォンさんの噂はうちの学校にも届いてるよ。剣術と魔術を高い水準で両立してるってね。すごいなぁ」


「まあ……頑張ってます」


「ははは、もっと誇らしくしてもいいんじゃない?」


「えと、ポロネ様は確か、断岩流中級剣士ですよね?」


「おお、僕のこと知ってるんだ、嬉しいなぁ」


「11歳にして中級剣士になる者というのはそう多くないので」


 私がポロネを知っていたことに気をよくしたのか、すごい勢いで話しかけてきた。

 普段は何をしているのか。

 学校ではどんな授業を受けているのか。

 どんな鍛錬をしているのか。

 好きなこと、好きなもの、好きな食べ物……

 なんかだんだんプライベートな質問になってきたな。


「ね、ところでさ、シフォンさん好きな人っていたりする?」


 急に距離感近くなったな。

 普通初対面の人に好きな人なんて聞くかないでしょ。


「いませんけど」


「……へぇ、そうなんだね」


 そう言ってポロネは意味深な表情を浮かべた。

 ……あれ、もしかしてポロネ、私に気があるの?

 え、え、ほんとに?

 どうしよ……このまま告白なんてされたら……

 ポロネはかなりイケメンだ。

 剣杖会に招待されるくらいだから剣の腕も申し分ない。

 それに、シャルロット家やラズベリル家ほどでは無いにしろライザック家もかなりの名家と聞く。

 ……ポロネ、かなりの優良物件では?

 どうしよ、どうしよ。


『付き合っちゃえ! こんな優良物件、この先一生捕まらないぞ!』


『待つんだ。まだ会ってから1時間も経ってない相手。ゆっくりとその人間性を見極めてからにするんだ』


『そんな悠長にしてたら誰かに取られちゃうよ!』


『早まって人生を台無しにするよりかはマシだろう』


『……でも、私は今まで一回も告白されたことがないんだよ? モテないんだよ?』


『そう……だな』


『一生独り身でいいの?』


『……よくない』


『でしょ?』


『ああ、そうだ、そうだな、告白を受けようじゃないか』


『うん!』


 私の中の天使と悪魔が和解した。

 ふっ、心の準備は十分にできた。

 さぁ、どんとこい!


「あの、さ」


 ポロネは頬をぽりぽりかきながら、躊躇いがちに口を開いた。


「話は変わるけどさ、よかったら……」


 来る……!


「これから、剣術の手合わせ願えない?」


 ……ああ、そうだった。

 そうだね。

 剣杖会(ココ)はそういう場所だった。

 何一人で盛り上がっていたんだ。

 超恥ずかしいじゃん、私。


「ダメ……かな?」


 心配そうな顔で見てくるポロネ。

 イケメンだからかしゅんとした雰囲気が様になっているのが恐ろしい。


「えっと……」


 ちょっと、他校の人とはまだ戦えないかなぁ。

 申し訳ないけど、と私が言おうとしたとき、


「ポロネ」


 硬い声が横からとんできた。


「あれ、ガレル。一年振りだね」


「あぁ」


 ……なんだろう、ガレルの表情がいつも以上に硬い。


「ポロネ、悪い。シフォンは訳あって他校の人間とは戦えないんだ」


 あぁ、なんだ、私を心配して来てくれたのか。

 いいとこあるじゃないか、ガレル。


「そっか、それは残念」


「ご、ごめんなさい」


「いやいいよ、無理言ってごめんね。それじゃ、僕そろそろ行くよ」


「あ、はい」


 ばいばい、とポロネは手を振って去っていった。

 会場の隅っこ、私とガレルだけが取り残された。


「えと、ありがとね、ガレル」


「別にいい」


 お礼くらい素直に受け取っていけばいいのに。


 その後、三人くらいから話しかけられたが、全員私と戦いたい人達だった。


 脳筋しかいないのか、剣杖会は!


 ◆


 二日目、私は去年と同じように交換会は欠席し、自分の魔術の練習をはじめる。

 今日は土魔術の練習だ。

 形作るときの精度を高めたい。


「相変わらず綺麗な魔術だね。魔力に一切のよどみがない」


 しばらくすると、透き通った耳触りのいい声が飛んできた。

 驚いて振り向くと、そこには一人の女の子が立っていた。

 白い髪、金色の眼。

 去年もここで会った女の子だ。


「久しぶりだね」


「うん、一年振り」


 なんとなく、今年も会える気がしていたのだ。


 ◆


「あなたは交換会に出なくていいの?」


 私は女の子に問いかける。


「うん」


「どうして?」


「大勢の人間がいるとこに行くのは苦手」


「ふぅん」


 私も苦手だなぁ。


「あなたも一緒でしょ?」


「私は、少し……違うかな」


「そうなの?」


「うん。交換会って実戦を交えて行われるでしょ? 私、よく知らない人と戦うのが怖いんだよね」


「……へぇ、珍しい」


 女の子は意外そうな顔をしていた。


「それ、治そうとは思わないの?」


「思ってるよ。すごい思ってる。けど……治す糸口が見つからなくて」


「来年の魔術大会も、出れない?」


「わならない……でも、やっぱり出れないと思う」


「……」


 女の子は無言で立ち上がり、こちらを見つめてきた。


「私と戦うのも怖い?」


「……正確には、私が怖いのは敵意や殺意だから、それが無ければ大丈夫……だと思う」


「じゃあ立って。私と戦って」


「え、あの、話聞いてた?」


「うん、敵意も殺気も出さないから。同級生にも敵意を抑えてもらって戦ってるんでしょ? ならできるよね」


 有無を言わせぬ口調。

 この子、思っている以上に厳しい子なのかもしれない。


「……わかった」


 私は渋々立ち上がる。


「全力でかかってきて。その腰に下げてる実剣も、使っていい」


「ほんとにいいの? 全力で?」


「いいって言ってる」


 へぇ、すごい自信だ。

 女の子は私と距離をとった。

 私は愛剣双葉を抜く。


「私の火魔術が打ち上がるのが開始の合図ね」


 女の子はそう言って天に手をかざした。


「それじゃ、いくよ」


 手のひらから大きな火球が打ち上がる。

 火球は10秒ほど真上に飛び、パチンと勢いよく弾けた。


 女の子は合図と同時に土魔術で岩弾丸を生成、打ち出す。

 対する私は、女の子に向かって勢いよく走り出した。

 岩弾丸は速いが脆い。

 剣で砕きながら私も魔術を展開する。

 正面に岩弾丸、真上に水球、背後に火球の三属性同時展開。

 この数を防ぐのには魔術だけでは心細いだろう。


「杖しか持ってないあなたに防げるかな?」


「当たり前」


 女の子は岩弾丸は土壁で防ぎ、水球は風で吹き飛ばし、火球は水で対処した。

 淡々と的確にレジストしていく。

 私と同じ三属性同時展開の魔術をつかって。


 ……驚いた。

 初見で複数属性の同時展開をまねられるとは。

 いや、この子ならもとからできていたのかもしれない。


 女の子は再び岩弾丸を打ち出してきた。

 ただ、今度の照準は体ではなく足に合わせられているようだ。

 

 ……なるほど、低く打ち出すことによって剣で砕かれるのを防いだのか。

 剣で魔術を防いでいた私にとって厳しい手だ。

 なら、空中に逃げちゃえっ。


 私は風魔術で飛んだ。

 その瞬間、私は自分のミスに気づく。

 私はおそらく、今の状態へとわざと誘導された。

 飛ぶということはその後に必ず着地する。

 着地というのはどうしても隙ができてしまう。

 そこを狙うつもりなんだ。


 ……なら、着地までに決着をつける!


 私は全力で魔術を展開した。

 火魔術であたり一帯を燃やし、土魔術で砂をつくりだし、風魔術で竜巻を起こす。

 そう、砂嵐だ。

 もう戦場は50℃を超える乾燥地帯だ。

 どう、耐えれる?


 私は女の子の方を見た。

 女の子は微動だにせず、じっと杖をこちらに向けていた。


 既視感。


 なんだろうこの感覚は。

 背筋がビリビリするような……

 この感覚を、私は体験したことがある……?


 ……あ


 雷魔術。

 あの子の、固有魔術だ。


 やばいっ!


 そう思い、後ろに飛びのこうとした瞬間、女の子の目が、ギラリと、殺意に光った。


 体が、固まった。


 やばい、動かないと。

 雷直撃で死んじゃう。

 動いて、動いてよ!

 私の体でしょ!


 女の子の杖に魔力が集まり、杖が光りはじめた。


 だめ、動かない。

 雷はやばい。

 どうしよう。

 どうにもできない。


 どうしようもなく、私は目をギュッと瞑った。


 ――5秒、10秒、15秒


 何も起こらない。

 どうしたんだろう。


 恐る恐る目を開けると、目の前に女の子が立っていた。


「なんちゃって」


 そう言って、女の子はかわいくベロをだした。


 ◆


「ぐす……ひどいよ……」


「ごめんごめん」


 戦闘の後始末をした後、私はちょっと不貞腐れていた。


「でも、冷静に考えて対人戦で雷魔術なんて使うわけがない。死んじゃう」


「……だけど、敵意は出さないって言ったのに最後めっちゃ殺意飛ばしてきた……嘘つき」


「それは本当にごめん」


 本当に申し訳なく思っているのだろうかこの子は。


「でも、うん、だいたいわかった。あなたの()()は、残念ながら私にはどうにもできないみたい」


「……もしかして私の()()を試すために殺意を飛ばしてきたの?」


「うん」


 そ、それならまあ許してあげよう。

 でも、怖かったなぁ。


「あなたのそれは過去のトラウマか何かによるものだと思う。そして、私はそのトラウマを払拭する方法を知らない」


「そっか」


「トラウマを克服したことのある人なら、治す方法を知ってるかも」


「わかった。色々聞いてみる」


「うん。……来年の魔術大会、私はあなたと戦いたい」


「……善処します」


 それから、私たちはしばらく話し込んでから別れた。


 ◆


 ……あっ、名前聞くの忘れてた。


ポロネがチャラく見えたかもしれませんが、彼の名誉のために言っておくと、色々質問していたのはカヌレ学園でミルフィユ学園のシフォンやガレル、ガナッシュのことを知りたいけど剣杖会に来れない子たちにお願いされていたからであって、彼がチャラいというわけではありません。

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