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-019- 敗北


 秋休み。

 私はベニエ村に帰ってきていた。


「お姉ちゃん、お稽古、やろ?」


 ロールは魔術よりも剣術が好きなようで、ずっと稽古をやりたがっている。

 かわいい。

 いつもは剣のお稽古なんて辛い時間だけど、こんなかわいい妹とできるのだから天国のような時間だ。

 対するオランは、去年からも才能の片鱗が垣間見えていたが、魔術を粛々と訓練している。

 かわいい。

 でも、オランはロールとちがって私とあまり練習をやりたがらないので、ちょっぴり残念。

 オランはすでに中級魔術を四属性全て習得しているようだ。

 すごいなぁ。


 ◆


「みんな、久しぶり!」


 バオバにレミリー、リンリン、コルク、カンタ。

 みんな元気そうだった。


「これ、なにしてるの?」


 5人は木でつくられた小さな車を囲んでいた。


「自動で動く車をつくりたいなって」


 カンタが答える。

 なるほど、自動車か。

 この世界には無いものだ。


「去年のロケットは?」


「あぁ、あの後、何回か試したんだけど、うまくいかなくてね。まずは地上の乗り物をつくろうって話になったんだ」


 コルクが苦笑しながらそう言った。


「これ、もしかして動くの?」


「動くよ」


「!」


 それは両手に乗るくらいの小さな車だった。

 どうやら魔力を流すだけで動くらしい。

 試してみると、滑らかとは言い難いが、確かに動いた。


「どうだ、すごいだろ!」


 ふんすと、バオバが胸を張る。


「うん、これどうやってるの?」


「車体に魔法陣を刻んでるんだ」


 なるほど、魔法陣か。

 魔法陣というのは学校で習った。

 魔術を行使する際、魔術の種類によって魔力の動きは若干異なる。

 魔法陣は、その魔力の動きを何かに刻み、魔力の通り道をつくることによって、魔力を流すだけでだれでも魔術が使えるようにするためのものだ。

 ただし、魔法陣で再現できるのは生成術のみで、物体操作術の魔法陣はない。


 魔法陣というのは、魔力を流せば誰でも魔術が使えるようになる優れものだが、戦闘面においてはあまり活用されない。

 その理由は二つあり、まず、魔法陣を刻むのには高い技術力がいるということ。

 魔法陣の精度が落ちれば、発生する魔術の精度も落ちる。

 魔法陣を刻むのには専用の職人がいて、正確な魔法陣を量産できないのだ。

 二つ目は、使える魔術が大したことないということ。

 魔力の流れを刻むわけだが、今現在初級魔術までしかそれができない。

 初級魔術は戦闘ではもっぱら使えない。

 だから、魔法陣はこうして魔道具に組み込まれ、活用されることが多い。


「これ、風魔術の魔法陣だね。風で動かしてたんだ」


 へぇおもしろい。

 どうりで、空気抵抗の受けやすい形になっていたのか。


「私とバオバが材料となる木をひろってきて、カンタとコルクが魔法陣を刻み、リンリンちゃんが魔力を流す、っていうトライアンドエラーでやってるんだよ!」


「楽しそうだねぇ」


「ここにいる間、シフォンちゃんも一緒にやろうよ!」


「うん、やりたい!」


 それから私は車の開発をみんなと一緒にやった。

 魔法陣か、なかなか面白かったな。

 中等部に上がったら真面目に勉強するのもありかなー。


 ◆


 そういえば去年、秋休み明けにガレルとガナッシュからお土産もらったよな。

 う〜ん、私も今年は用意しといた方がいいんだろうか。

 でも、ベニエ村のお土産……ってなに?


「村長さん村長さん」


「ん? なんだいシフォンお嬢ちゃん」


「ベニエ村に友達へのお土産になるようなものってありますか?」


「う〜ん、難しい質問だなぁ」


 村長ひんは少し唸ってから、


「あの丘の上に要石というものがあってな、それが天災から村を守ってくれるんだ。ベニエ村特有のものって言ったらその石だな」


「その石って持っていっていいんですか?」


 そういうと村長さんは笑って、


「はっはっは、べつに村娘がひとつやふたつもっていくくらい、構わないよ」


「ありがとうございます」


 ということで、石を少しばかり貰ってきた。

 ガレルにはお守りとしてこれをあげよう。

 他の人にはベニエ村から少し離れた、馬車を乗るために中継する少し大きな街で買っといた。


 ◆


 モンブライトへ戻り、秋休みが明け、新学期。

 私はお土産をみんなに配り、私もまたたくさんお土産を貰った。

 その中にはやっぱりガレルやガナッシュのもあり、二人からはスイト王国の北にある雪国、アイシスアイセのお土産で、ガレルからはアイスフルーツを、ガナッシュからは綺麗なボトルに入った雪解け水を貰った。

 相変わらずセンスのいいことで。


 お土産を配った日の放課後、ガナッシュに声をかけられた。


「シフォンさん、ガレルに何渡したの? なんかすごい凹んでたけど」


 やっぱ石はまずかったか。


 ◆


 秋も過ぎ、初等部5年生の時間も残り少なくなったころ、私にとって重大な出来事が起こっていた。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 息切れをし、膝をつく私。

 そして、それを見下ろすガレル。


 ガレルに……あのガレルに……剣術で負けてしまった!


 いやまあいつかは追い付かれると思ってたよ?

 私魔術が本職だし、ガレル才能あるし。


 ガレルは初勝利に随分とはしゃいでいる。

 憎たらしいやつだ。


「な、俺今日なんかすごい動けたんだけど、どう思う?」


「……はいはい、よく動けていたと思いますよ」


「なんだよ、適当な返事だな」


 お前と違って私は気分が沈んでいるのだ。

 私はガレルを置いてさっさと寮に帰った。


 ◆


 翌日の朝、私はいつも鍛錬を行なっている野原で剣を振っていた。

 ブン、ブンと空を切る音が野原に消えていく。

 朝の空気が少し肌寒い。

 私は少し、いや、かなり落ち込んでいた。


 聞けば、ガレルが剣を握ったのは初等部一年、つまり6歳の頃だという。

 私は3歳の頃だ。

 3年も長く私の方が剣を振ってるのに、もう追い付かれてしまった。


 7年間、私は剣術も魔術も鍛錬を欠かしたことはない。

 毎日剣も杖も両方振って、体も鍛えて、スタミナもつけて……

 強くなるために、生きるために、精一杯の努力をしてきたのに、才能というものは、その努力をぴょんと飛び越してしまったのだ。


「はぁ……」


 全く、嫌になる。

 ガレルのやつ、私の気も知らないで嬉しそうにしやがって。


 気づけば星は薄くなり、朝日が登り始めていた。


「がんばろう……」


 まだ、完全に抜かされたわけじゃないんだ。

 ガレルの成長スピードに、食らいついていこう。


 これは、ミルフィユ学園で私が初めて経験した敗北だった。


アイシスアイセはスイト王国の北にある国であると同時に、大陸最北の国でもあります。

シフォンたちが住むモンブライトはスイト王国でも南の方に位置するので、アイシスアイセとはかなり距離が離れてますね。

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