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-001- ハトサブル家


 うららかな日が窓から入りこみ、ぴよぴよという小鳥のさえずりで目をさます。


「ん〜」


 伸びをしてベッドから降り、ドタドタと階段を下っていく。


「お母さん、お父さん、おはよう!」


 食卓にはお父さんがいて、台所でお母さんが料理している。


「あらおはよう、シフォン。今日も外いくの? 朝ごはんもうすぐだからすぐ帰ってきてね」


「うん!」


 私は元気に返事をして家を飛び出す。どうやらハトサブル家は結構な金持ちみたいで家に大きな庭をもっている。毎朝そこに向かい水やりをするのが日課だ。でも、前世の水やりとは一味ちがうぞ?


「ふぅ〜〜」


 私は目を閉じて集中し、魔力を練る。すると、庭の真上に水が現れる。


「やっ!」


 バシャン、と、庭全体に水がかかり水やり終了。そう、この世界で水やりはなんと魔術でできるのだ!


「う〜ん、やっぱりシャワーみたいな優しい水やりを再現するの、難しいなぁ〜」


 次は馬の世話。ハトサブル家はミントという馬を一匹飼っている。


「ほら、ミント。今日の朝ごはんだよ〜」


 私がそう言って餌をやると、ブルルーと喜びながら食べた。


「ミント、ちょっとお外で待っててね」


 そう言ってミントを外に出し、馬小屋に魔術で水をまき、ブラシでゴシゴシ擦る。魔術で床を乾燥させればお掃除は完了だ。


「ほら、ミント。綺麗になったよ〜」


 ミントは綺麗になった馬小屋を見て嬉しそうに尻尾を振り回した。よかったよかった。


 ぶらぶらと庭を散歩してると、チゴの実が赤く熟しているのを見つけた。ぷちりとちぎり、ひとつ口に放り込む。


「ん〜あまずっぱい! おいしい!」


 私は駆け足で家にもどり、お母さんに報告する。


「お母さん、チゴの実がたくさんなってた! ジャムつくろうよ!」


「あら本当? それじゃあ今日お父さんが魔物退治から帰って来たときのためにたくさん作ってあげよっか?」


「え……今日お父さん戦いにいくの……?」


「ああ、そうだよ。昼過ぎには帰ってくるからいい子で待ってるんだよ〜?」


「お父さん……気をつけてね、怪我しちゃだめだよ……?」


 すると、お父さんは嬉しそうな顔をして、


「なんだ、心配してくれるのか? シフォンは優しい子だなぁ〜」


 お父さんは小さい私を抱き上げてくれる。


「でも大丈夫。俺強いから」


 そう言ってニカっと笑った。


「そうよ、シフォン。お父さんは村一番の剣士なんだから」


 お母さんもそう言う。


「村一番? お父さんすごい!」


「ははは、そうだろう」


「さ、朝ごはんできたから座って」


 お母さんはそう言って料理を食卓に並べ、座った。


「それじゃあ、いただきます」


「「いただきます」」


 そうして家族仲良く朝ごはんを食べるのだ。


 ◆


「お父さんいってらっしゃい!」


 お父さんを見送ったらお母さんによる魔術の授業がある。強くなる決意をした私はお母さんに魔術を教えてほしいとお願いしたのだ。


「それじゃあ、今日は土魔術でお人形さんをつくってみようか」


「ねえお母さん」


「なあに? シフォン」


「庭に水をやるときにね、私ビシャンってやり方しかできないの。もっとこう、優しい雨のような水やりをしたいんだけど、どうすればいいの?」


「それはね、水を物体操作術で持ち上げているからできないの」


「どういうこと?」


「見てて」


 お母さんは杖を取りだし、空中に水を発生させる。ちなみに、杖がなくても魔術は使えるがあったほうが魔力の通りがよくなる。


「この水を、下から上への風魔術で支えてあげるの」


 びゅうと風が発生し、空中の水を持ち上げる。


「このときに水にかかってる物体操作術を解除。安定してきたら水魔術で水の量を増やしてあげる。すると……」


 ぱらぱらと、雨のように水が降り出した。


「すごい! お母さん!」


「風で支えきれなくなったら少しずつ水は下に落ちて、量が減った分、また風で支えれるようになるの。少し難しいけど、わかったかな〜?」


「うん、やってみる!」


 私はまず、魔力を練って水を出現させる。そして、風魔術を起こす。


「わっ!」


 風魔術が強すぎて、水が散らばってしまった。


「この技術は力加減が難しいから、たくさん練習しようね〜」


 む〜。近いうちに絶対成功させてやる!


 それから、いつもと同じようにお母さんの授業が行われた。


 ◆


「お〜豊作豊作」


 お母さんはそう言って山のようにつまれたチゴの実を見る。


「これだけあればたくさんジャムつくれるわね」


「ほんとっ⁉︎」


「シフォンが毎日水やりしてくれるからよ、ありがとう」


「えへへ」


 お母さんは大きな鍋をもってきて、魔術で火をつけてチゴの実を砂糖といっしょに煮た。しばらく煮ているといい匂いが部屋中に充満する。鍋の中身を指にとってぺろっと舐めてみるととても甘く、いいジャムが出来上がってた。


「ただいま〜。お、すごくいい匂い」


 ちょうどお父さんも帰ってきた。


「お父さん、見て! 家のチゴの実でつくったジャム!」


「お〜すごいなぁ。シフォンがつくったのか?」


「うん、お母さんと!」


「すごいじゃないか!」


 お父さんはわしわしと頭をなでてくれた。


「それじゃあお昼にしましょうか」


 ハトサブル家の昼は毎日にぎやかだ。


 ◆


「お父さん」


「ん? なんだシフォン」


「稽古をお願いします」


「ああ、いいよ。外で少し待っててくれ」


 強くなることを決意した私は剣士であるお父さんに剣も習うことにした。初めてお願いしたときはかなり渋い顔をされたが、私が教えを乞い続けたらオッケーしてくれた。


 2年くらい魔術と剣を訓練しているが、どうやら私は魔術の方が得意のようだ。女だからか、剣はどうしても成長が遅い。


 お父さんがくるまでの間、私は素振りをする。お父さんが言うには、素振りは100万回やってやっと基礎ができたと言えるらしい。そんなお父さんはほんとに100万回やったのかな。


「シフォン、剣先がずれている。もっと集中しろ」


「はい!」


 いつのまにかやってきたお父さんにいきなりダメ出しをくらう。お父さんは稽古になると厳しくなる。メリハリがしっかりしているのはとてもありがたい。さ、集中集中!


 ◆


「シフォン、そこまで!」


「……はい」


 千回ほど素振りをした後、お父さんが終了の合図を出した。私はバタンと力なく仰向けに倒れる。空が青い。鳥が気持ちよさそうに飛んでいるのが見える。さあっと涼しい風が頬を撫でる。私はこんなに疲れてるのに、ゆうゆうと浮かんでいる雲が羨ましい。


「それじゃあ、型の練習に入る」


「はい!」


 10分ほど休憩し、稽古に入った。素振りが終わってからやるのは型の練習。構えや、剣の流れを教わる。そして、めちゃめちゃゆっくりな模擬戦でそれを実戦する。


「シフォン、集中」


「はい……!」


 私は思考が散漫になってしまうことが多い。お父さんは私は頭がよく回るから仕方ないところもあると言ってくれるが、私はもともと集中を欠きやすい人間だったのだ。さ、集中!


 そした最後は普通の模擬戦。と言っても、私がただ攻め、父さんはそれを捌くだけ。父さんが攻撃してきたら勝負は一瞬でついてしまう。ちなみに、今までニ年間ただの一本もとれたことがない。


「それじゃあ、今日は終わり!」


「ありがとうございました!」


 稽古が終わると、いつもの優しいお父さんに戻る。


「……シフォン、また走りにいくのか?」


「うん」


「気をつけて、無理はするなよ」


「うん!」


 稽古が終われば、私は走り込みを行う。私は女だから、男から自分を守るためには男よりも努力しなきゃいけない。木刀を担ぎながら家の周りを5周する。だいたい一周1kmだから5kmくらいだ。ほんとはもっと遠くに行きたいのだけれどまだ小さいからってお母さんが許してくれない。終わる頃には空は赤く染まり、一番星が輝き初める。


「ただいま……」 


 クタクタになって家にはいると、香ばしい香りが鼻腔を刺激する。


「おいしそう!」


 食卓にはおいしそうな晩御飯がずらりと並んでいる。


「ね、はやく食べよ!」


「はいはい。それじゃあ、いただきます」


「「いただきます!」」


 訓練の後のご飯は最高に美味しい。ごちそうさまでした!


 そして、食べ終わったら三人で少しお話しした後、すぐに床に入る。二人でしたいこともあるだろうから、お邪魔虫にはなりたくないのです!


 寝床からは星空が見える。日本と違い、ここには電気がない。そのため、夜は星が綺麗だ。ぎんぎらぎんの星と月に照らされながら、いい夢が見られますようにとほんの少し祈りながら眠りに入る。


 これが私の、毎日だ。


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