-016- 5年生
初等部5年生になった。
5年生になったからといって大きく変わることは特にない。
強いて言うなら、クラス替えによって数人の生徒が下のクラスに下がり、数人の生徒がAクラスへ上がってきたことかな。
ガレルとガナッシュはちゃんとAクラスに残っていた。
2人とも当然という顔をしている。
さすがだ。
さて、初等部5年生。
5年生では自然教室がある。
都会の喧騒から離れ、雄大な自然に囲まれながらみんなとキャンプして一緒に寝たり食べたり……
修学旅行が6年生の楽しみだとするならば、自然教室が5年生の楽しみだ。
想像するとうずうずしてきちゃった。
はやく行きたいなぁ。
来年にも修学旅行という学園生活で一番楽しいと言っても過言ではない行事がある。
これから私の学園生活はどんどん楽しくなっていくことでしょう!
◆
「今日から、中級の型に入ります。新しくAクラスへ上がってきた子はがんばってついてきてください」
剣術の授業。
授業では主に型を何度も練習し、模擬戦で使えるようにするというのを繰り返す。
と、いうのを私はやらない。
Aクラスでも飛び抜けて強いガレルや私のような生徒は別の内容を行う。
別の内容というのは、より実戦に近い模擬戦だ。
できる生徒には特に教えず、互いにに打ち合わせ、勝手に高め合っていかせるというのがこの学校の方針らしい。
まあ、私は型の練習なんて入学する前に何万回もやったからね!
ちなみに、私は授業の時間ガレルとは打ち合わない。
私としてはもう睨まれることもないから打ち合ってもいいのだが、ガレルが律儀に月一の約束を守っているのだ。
そのかわり、私とガレルはどちらか一方が戦っているのを客観的な視点から観察し、気づいたことを言いあうようになった。
ガレルは私よりも剣術の知識が深いのでそのアドバイスは助かる。
今日もいつもと同じように剣術の授業を終えた後、私は教室に戻ろうとした。
そしたら、目の前にひとりの女の子が立ち塞がった。
紅色の髪をたずさえたその女の子は仁王立ちで私を睨んでいた。
「……あなた、どうしてちゃんと授業を受けないのよ!」
……?
ん、どいうこと?
「端っこのほうで数人固まって、どうして型の練習じゃなく模擬戦をやっているのかって聞いてるのよ!」
あぁ、この子、下のクラスから上がってきた子だ。
私たちだけ授業の内容違うって知らないのか。
「えっとね、授業をちゃんと受けてないわけじゃなくて、先生から型の練習はいいから模擬戦をやるようにって言われてるの」
「……」
女の子はしばらく私を睨んだ後、周りの雰囲気から私が本当のことを言っていると察したのか、つんとした表情のままふんっ、と鼻をならして教室に戻っていった。
「……なにあの子」
「感じ悪いやつだな」
注目を集めすぎたのか、みんなのヘイトがあの子へと向いてしまった。
勘違いで教室に居づらい雰囲気になるのはかわいそうだ。
「まあまあみんな、勘違いは誰にでもあることだから」
とりあえず私はフォローを入れといた。
あの子が居づらい雰囲気になったらクラスメイトみんなが自分のことを嫌っているのではないかと疑心暗鬼になって不登校になってしまうかもしれない。
それはよくない。
……と、経験者は語る。
◆
さっきの女の子、名前はロズルート・ノーレというらしい。
最初は委員長気質の真面目な子なのかと思ってたけど、どうやらただ私のことが気に食わないだけみたいだ。
ことあるごとに私に突っかかってくるし、私のことをちらちらと見てて、目が合うとすぐに逸らすし。
ノーレとは、去年は違うクラスだったけど、うっすら話したことあるような気がする。
でも、記憶を探ってみても嫌われるようなことをした覚えはない。
うーん、なんでだろ。
「ねぇフィナ」
「ん、何?」
「ノーレと喋ったことある?」
「……なに、嫌われてること気にしてるの?」
「いや……まあ」
「ふぅん。そんな気にすることでもないと思うけどな」
「でも……」
「ていうか、私の目から見れば彼女、あなたを嫌っているというか……いや、なんでもない」
「え、なに、最後まで言ってよ」
「言わなーい」
「むぅ……」
フィナは、ときどき意地悪だ。
◆
これから一年間一緒に過ごすクラスメイトとあまり険悪な関係になりたくない。
ということで、私はノーレと仲良くなるために作戦をねって、とりあえず自分から積極的に話しかけにいくことにした。
「おはよー」
私は挨拶をしながら教室に入り、一番最初にノーレの元へと向かった。
「ノーレ、おはよっ」
「…………ええ、おはよう」
ノーレは少し間を開けた後、ちょっと低い声で挨拶を返した。
「今日の宿題やってきた? いや〜あれ難しかったよね」
「ふん、あれくらいなんともないわよ」
ノーレは相変わらずツンとした声で受け答えをしている。
……まあ、最初はこんなもんだろう。
しばらく会話を続けた後、私は自分の席へと戻っていった。
魔術の授業。
魔術の授業はクラスみんなばらばらになって魔術を練習する。
というのは、人によって練習したい魔術が違いすぎて全体で授業を進めることができないのだ。
私はノーレをちらりと盗み見る。
ノーレは水の低位魔術を練習していた。
私はノーレに近づく。
「ノーレ、肩の力を抜いて」
肩をぽんぽんと叩く。
「ゆっくりでいいから、生成術と物体操作術、同時に考えるんじゃなくてひとつずつ段階を踏んでやってみて」
ノーレは、授業中だからか、私のいう通りにやってくれた。
「そう、ゆっくり、ゆっくり……」
今ノーレが練習しているのは魔術のLv.3の動きを制御するやつだ。
「この作業、思っている以上に魔力を使うから危うくなったら躊躇わずに魔力を注いで」
これが難しい最たる要因は、生成術と物体操作術の両立にある。
同時に行うのももちろん難しいのだが、物体操作術の魔力を忘れてしまう人が意外と多い。
ノーレのはまさにそれだった。
ノーレは5分くらいかけて水球を発生させるも失敗し、また発生させるも失敗して、3回目のとき。
「……できたわ」
ノーレの水球はたしかに宙に浮いていた。
「おお! やったね、ノーレ!」
「ふん、あなたなんかいなくても、余裕だったわよ!」
口ではそんなこと言いながらも、ノーレの表情は嬉しそうだ。
うんうん、いい感じいい感じ。
この調子で、これから少しずす仲良くなっていこう。
Aクラスの剣術の授業で特別扱いをされているのは全部で5人です。