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-015- レオレオン・フィナ


 私の名前はレオレオン・フィナ。

 今10歳で、この春ミルフィユ学園5年生になります。


 突然だけど、15年くらい前の話をしよう。

 私が生まれる5年くらい前、人と魔物の間で大きな戦いがあった。


 世界の西は人間が、東は魔物が支配している。

 その境には長く高い山脈が連なっており、普段は東の大陸から魔物がやってくることなんて滅多にないんだけど、その時は大量の魔物が山を超えて押し寄せてきたらしい。

 西の大陸最東端の国、つまり魔物の領土に一番近いバゼル王国は領土の半分を魔物に占領されるなどの甚大な被害を受け、周辺諸国へ助けを求めた。

 スイト王国はそれに応じ、バゼル王国へ約一万の兵を送った。

 そのときの隊長の名が、ハトサブル・タルト。

 【獅剣王】の二つ名を国からもらうほどタルトの剣は重く、強い。

 騎士タルトは的確な判断で被害を最小限に抑え、凄まじい戦闘力で大量の魔物から国民を守った。

 そして、騎士タルトを支えた人物こそアイスロッド・ラフティーだ。

 魔術師ラフティーは当時王城に仕えていた特級魔術師で、災害級魔術の使い手だ。

 彼女は広範囲魔術で一度に千もの魔物を葬り、領地奪還へ大きな貢献をした。

 この2人の活躍により、たった半年でバゼル王国の領土を奪還、侵略してきた魔物の殲滅を成した。

 このときの戦いは戦地を流れていた川名から、シラルスの人魔大戦と呼ばれるようになった。


 もともと騎士タルトと魔術師ラフティーは会うたびに歪み合う、犬猿の仲というべき関係だったらしいのだが、この戦いがきっかけかなんかとなったのか、2人は大戦後結婚し、田舎でのんびりと暮らしているらしい。


 で、だ。


 どうして急にこんな話を始めたのかと言うと、私の学校にその娘さんがいる。


 私が入学する前、ミルフィユ学園周辺では大物新入生が3人いると話題になっていた。


 現王国騎士団長シャルロット・バルトークの次男、シャルロット・ガレル。


 現在の魔術界に多大な影響を及ぼしているラズベリル家の長男、ラズベリル・ガナッシュ。


 そして、先の戦いで大きな活躍を収めた、ハトサブル・タルトとハトサブル・ラフティー(旧姓アイスロッド・ラフティー)の娘、ハトサブル・シフォン。


 小学校一年生のとき、私はシフォンがどこか遠くにいるような存在だと思っていた。

 たまたまシフォンが剣を振っているところを目撃したのだが、その姿はとても凛々しく、美しかった。

 なんのブレもなく振り下ろされる剣、少し汗を滲ませながらも真剣な横顔。

 かっこよかった。

 この頃からすでにシフォンは高嶺の花のような存在で、男子にとっても女子にとっても近寄り難い存在となっていた。

 それくらい、私も含めてみんな、シフォンを特別な存在だと認識していたのだ。


 私が初めてシフォンと喋ったのは小学四年生で同じクラスになったとき。

 この一年間で小学校低学年のころのシフォンのイメージがガラガラと音をたてて崩れていった。

 まず、シフォンは思っていたようなかっこいい少女ではなく、かわいらしい少女だった。

 毎日明るくて元気だし、困ってる人を気遣ってあげる優しさも持っており、からかったらぷりぷりとかわいく怒ってくる。

 一緒に過ごしていると、ほんとにあの2人の娘なのか分からなくなってきた。

 それでも、実力は確かだった。

 魔術は二属性において上級を取得しており、剣術も学年トップクラス。

 これだけ両立できているのは高等部を探してもそういないだろう。

 なによりすごいのがそれだけの才能と実力を持っておいて、謙虚に振る舞っているところだ。

 私がシフォンの立場だったらもっと調子に乗っていただろう。

 シフォンは、本当にすごい子だ。


 誰にでも優しく、刺々しさなんて微塵も感じさせないシフォンだが、この一年で一回だけ本気で怒ったことがある。

 四年生になってすぐの頃、ガレル君がシフォンへと剣術の勝負を挑んだ。

 この勝負はクラス内でも結構盛り上がっていた。

 騎士団長の息子と獅剣王の娘、勝つのはどっち? みたいな感じで。

 結果はシフォンの圧勝だった。

 そこで負けたことがきっかけで、ガレル君は毎日シフォンへ勝負を挑むようになった。

 でも、シフォンはこの勝負を随分と嫌がっていた。

 それでもガレル君はシフォンの気持ちなんて考えずに挑んでくるのだから、ある日、シフォンの怒りが爆発した。


「なんなのっ、あなた!」


 シフォンがそう叫んだ瞬間教室はしんと静まり返った。


「毎日バカの一つ覚えてみたいに勝負勝負って! 誰もがあなたみたいに勝負が好きだなんて思わないでよ!」


 泣きながら怒っていた。

 シフォンは言いたいことが言い終わると教室から走り去っていった。

 ガレル君は呆然としている。

 あーあ、やっちまったな、とでも言いたげな視線がガレル君に突き刺さり、居心地が悪そうだった。


「ガレル」


 透き通った声が教室内へ響いた。

 声の主はガナッシュ君だ。

 ガレル君はゆっくりガナッシュ君の方を向く。


「ガレルは、ちょっと強引だったね。もっと相手の気持ちを考えるべきだったよ」


「ガナッシュ……俺は、どうすればいい?」


「とりあえず、許してもらえるまで謝りなよ」


 ガナッシュ君にそう言われ、ガレル君は翌日からシフォンに話しかけにいき、謝ろうとなんども試みた。


 そんなとき、事件が起こった。


 ガレル君がシフォンに吹き飛ばされたのだ。

 軽症で済んだとはいえ、行使したのは上級魔術。

 退学になってしまうだろう、というのはAクラスのみんな容易に想像ついた。

 でも、今回全面的に悪いのはガレル君だ。

 と、Aクラスのみんなで意見が一致し、先生へシフォンの処分を軽くするようお願いしにいった。

 その結果、処分を謹慎に留めることには成功したが、新たな問題が発生した。


 シフォンが、不登校になった。


 考えられる原因は、やはりガレル君を吹き飛ばしてしまったことだろう。

 解決策として、ガレル君に土下座させにいこうか、という案もでたが、今ガレル君と会ったら逆効果だろうということで却下。

 しばらく話し合ってもいい案がでなかったので、私は一つの提案をした。


「手紙、っていうのはどう?」


「手紙?」


「うん。あの子、結構女の子っぽいこと好きじゃん? それに、まずは私たちが戻ってきて欲しいと思ってることを伝えなきゃ」


 そして、この案は実行され、シフォンは無事学校に戻ってきてくれた。

 みんなシフォンが戻ってきてくれてすごく喜んでた。

 当時は一緒のクラスになってまだ一ヶ月ほどしか経っていないのにシフォンはすでにたくさんのクラスメイトから好かれていた。

 シフォンには人に好かれる不思議な力があるのかもしれない。


 シフォンはすごい子だ。

 優しくて、強くて、かわいい。

 そんなシフォンとの学園生活、これからが楽しみです。


 ちなみに、Aクラスでのガレルの扱いはまあまあ雑です。

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