79.あの頃の俺へ
超高性能小型爆弾EXなる爆発物をぶん投げただけ――たったそれだけのことで、大臣は今や英雄だ。
そのゴブリン的な見た目から国民からの支持が底辺を彷徨っていた大臣だが、今回の功績が国中に広まり今では英雄扱い。そんな人物に罰を与えるなど、外聞が悪すぎる。許す以外に選択肢はなかった。
「結局、大臣が投げた爆弾のおかげでオークカイザーを倒せたんですから、これは素晴らしい功績ですよ。なので許します、私もこうして生きていることですし」
「ほっ、本当ですか!? 貴女は本当に女神のようなお方だ!」
大臣は本当に悪気はなかった。向かってくるオークカイザーの足止めになればと、超高性能小型爆弾EXをぶん投げただけ。あれほどの威力があるなんて、彼は本当に知らなかったのだ。
エカテリーナといい、この国の爆発物所持者はもっとちゃんと自分が持っている武器の威力を知っておくべきだと思う。一応爆発物には安全装置があって、落としたくらいじゃ爆発しない仕組みになっているのはいいと思うけど……。
「ギブリン大臣、今回はどうにか私のレイが無事に回復できたからよかったものの、私の“妻”に何かあったら本当に戦争待ったなしでしたよ。その点、お忘れなきよう」
「ははーっ!」
俺が目覚めた時には、既に俺とルーファスは夫婦ということになっていた。やることが速すぎる。まぁ断るつもりもなかったので、文句はないけれど。
ルーファスは自国でも男として認識されてしまっているらしく“夫”、俺は未だにレイラという女性だと思われているから“妻”である。
「ところで、妻の出国手続きはどうなりましたか?」
「そちらも滞りなく進んでおります。レイラ様は我が国の新国王ヴィンセント様の養女として、エンシスハイムに嫁ぐということになります。いやーめでたい、これで長きにわたって続いてきた人と魔族の戦いが終息すると思うと、本当に感動いたします」
そう言って大臣は汚い涙を浮かべた。……いい人なんだろうけれど、完全に見た目で損している人だなと思う。
そうそう、どういうわけか俺はいつの間にかヴィンセントの養女になっていた。それも俺が目を覚ました時には手続き完了済み。本人の承諾なしに養子縁組が成立するって、国家権力って怖いよね。
元々あの人はレイラを「俺の娘のようなもの」と言っていたから、本気で娘にしたかったんだなと思う。
そう言うわけで、孤児院育ちのレイは、この度新国王になったヴィンセント王の養女になって魔族の国エンシスハイムに行くことになりました!
なんか自分で言っておいて、俺は凄い強運の持ち主だと思う。一応養女とはいえ王女様よ? ヤバくない? 元はただの戦災孤児よ。
それにルーファスとの結婚の件も、凄い逆玉の輿に乗ったと思う。ルーファスの家柄とか家族とかまだよく聞いてないけれど、ファームの社長は貴族か何かとか言っていたからお金持ちであることは間違いない。ワイバーンだって大量に買いあさっていたし。
男にしか効かないこのスキルを与えられたとき、俺はこのスキルでスケベ親父を恋奴隷にして貢がせて贅沢使用とか、そんなことを考えていた。
しかし俺はちゃんと愛する人を見つけることができて、真っ当な幸福を掴むことができた。
「レイ、リンゴが剥けたよ。ウサギさんにしてみたんだがどうかな? はい、あーん」
「んっ、凄く美味しいです」
「良かったっ!」
ルーファスは嬉しそうに笑った。いやー本当に幸せだ。
俺はシャリシャリで甘くてジューシーなリンゴを食べながら、本当にルーファスに出会えてよかったと幸せをかみしめた。
◆◇◆
今俺はエンシスハイムにいる。
さて、浮かれに浮かれていた頃の俺に伝えたい。悲報だ——この国での生活は俺にとっては地獄かもしれない。
現場からは以上だ。
ブックマークや評価、本当に励みになります! レビューもとても欲しいので、よろしくお願いします!
下部に[ツギクル]と[小説家になろう 勝手にランキング]のバナーがありますので、一日1クリックしていただけると泣いて喜びます!
そう簡単にはいかないのが人生ってもんです。エンシスハイムでレイを待ち受けていたのは……。
イブがルシファーに唆されて食べた知恵の実はリンゴだったという話があります。
多分レイ君にとって楽園=ギベオン王国だったと思いますよw
一応次回で第一部完結にするつもりです。
完結にはしますが、来週末辺りから番外編を書く予定です。番外編の詳細については次回の後書きに記載したいと思います。