76.起死回生の一手
咆哮するオークカイザー。その威圧に気圧されつつも、何とか襲い来るオークと戦う人々。
謁見の間はかなり広さはあるものの、完全に混戦状態になっていた。
『ブヒ、ブヒブヒーッ!!(翻訳:何だよ! 野郎ばっかじゃねーか、女はどこだ!!)』
という具合で叫んでいるのだが、それが分かるのは翻訳の指輪をつけている俺だけ。言っていることが分かればたいして怖くないのだが、他の人たちはオークカイザーが咆哮するたびに威圧されていると感じ恐怖心が膨らんでいるように見える。
このままではマズイ。
混戦になって連係プレイが取りにくくなっているうえ、無駄に吠えるオークカイザーの声のせいで、いつ戦線離脱者が出始めてもおかしくない。一旦崩れたら総崩れになりかねない。危険な状態だ。
「おぉぉーっ!!」
ヴィンセントが雄たけびを上げて、大きな盾を持ってオークカイザーとやりあっているのが見える。『大盾のヴィンセント』という二つ名の通り、防御に関しては非常に素晴らしいスキルがあるようだ。オークカイザーはデカい斧で攻撃を仕掛けてきているが、全て大盾で防いでいる。
だが防いでいるだけだ――攻撃出来ているわけではない。防御のヴィンセントと合わせて、オークカイザーを攻撃するアタッカーがいない。
「ヴィンセント殿は今は何とか防いでいるようだけれど、オークの数に圧されてこのままでは……」
ルーファスもこの危機的状況に打開策が見つからないようで、焦りを隠せない表情だ。
このまま謁見の間からオークが溢れたら、城下がオークに襲われてしまう。そこかしこでいやーんなR18展開が繰り広げられてしまうこと待ったなしだ。それだけは避けなければいけない。
オークカイザーはとにかく「女はどこだ―!」とか性的なNGワードばかり叫んでいる。よほど性欲が強い個体なのか、とんでもないドスケベ個体のようだ。……ともなればここは最早ここは俺がやるしかないのかもしれない。
「ルーファスさん、俺が行きます」
「何を言ってるんだ!? 君に戦う力はないだろう」
「いいえ、俺にはこのスキルがあります。幸いなことに、あのオークたちは、オークカイザーも含めて全部オス! いける、俺のスキルならっ!」
既に一度俺はオークの巣を全滅させている。
オークカイザーがオークキングのようにスキルにかかってくれるか、それは気がかりだ。しかし俺がスキルを使えば、こまごました普通のオークたちは同士討ちでもなんでもさせることが出来るだろう。少しは役に立つはずだ。
「大臣、威力は弱くていいので爆弾持ってますか?」
「えっ? コレのことかね」
大臣は例の爆弾を1つ取り出した。常備していてよかった。……いや、爆弾常備しているのは怖いんだけど。
「これいただきますね」
「いや、しかし、これはかなり殺傷能力が抑えられたものでオーク1体くらいは殺せるだろうが……もし殺傷能力が高いのがいいなら、かなり危険だがもう一つ違う爆弾を持っているが……」
そう言って大臣はヤバいほうを取り出そうとするが、俺は慌てて止める。そんなに強いものは必要ない。
「弱いほうで大丈夫です、目立てばいいんです!」
そう言って俺は大臣から弱いほうの爆弾を奪い取ると、戦闘の真っただ中へ走りだそうとした。しかし――。
「駄目だ、危険だっ」
ルーファスは俺の腕をがっちり掴んで、絶対に行かせないという意思を見せる。可愛いとか心配してくれて嬉しいとか、そう言う気持ちがわき上がる。……いいや、今はそう言うことを考えている場合ではない。
「ごめんなさいっ!」
「レイっ!!」
俺はルーファスの腕を振りほどくと、親衛隊さんたちの間をすり抜けてオークたちの方へ走った。
破壊された王座――あそこは他よりも2mほど高い位置にあるから、あそこからスキルを使えば謁見の間全体にスキルが届くだろう。そこまで行かなければ。
俺はがむしゃらに走った。戦う人たちやうじゃうじゃいるオークの手をすり抜けて。死ぬかと思った。
そして大臣から奪い取った爆弾を、自分から少し離れたところへぶん投げる。閃光と爆破、そして煙が立ち昇った。威力は低い、しかし注目を集めるには十分だった。
「オークの皆、もう戦うのは止めてっ!!」
爆弾を爆発させ思いっきりみんなの注目を集めたうえで、俺は羞恥心を殴り捨てて精一杯のセクシーポーズを決めて、オークたちにスキルを使用した。
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オークたち殺しそこないました。次回終わりにさせます。