7.女としての身分証
元々俺は、ハンターギルドの受付嬢として働くつもりはなかった。
そりゃ、異世界転生としてはギルドに所属してハンターとして名を上げるというのが王道だろう。しかし俺はスキル的に戦うとか言うのは厳しいし、最初は身分証だけ発行してもらっておさらばするつもりだった。
しかしそれが何でこうなったかというと、アガサのハンターギルドに行った際にギルド長からスカウトされたからである。
俺は孤児院でお世話になっている身分で、来年独り立ちしなければいけない。
早めに身分証が欲しいなと思い、簡単に手に入る身分証は何だろうと考えた。
「普通の市民身分証じゃだめだな、あれだと戸籍に紐づいているから、俺が“男”だって記載されちまう」
俺は女装して女として生きていきたい。俺に必要なのは“女”の身分証だ。
「女の身分証を手に入れるには……やっぱりあれしかないな。ハンターギルドの身分証」
ギルドにハンター登録、それは戸籍と紐づいていない。あくまでも自己申告の内容で身分証が手に入ってしまう。
俺が女と言えば、女の身分証が出来上がるのだ。
一見ざるにも思えるが、一応これには仕方のない理由がある。
ハンターを志すものは、魔族に村を焼かれたとか魔族のせいで天涯孤独になったとかいうものが多い。孤児院に拾われる者もいるが、大半は各々何とか生きてきた者たち……つまり戸籍がないのである。日本のように戸籍制度がちゃんとあるわけではないのである。
だからギルドの身分証は自己申告制。確認されるとしたら、魔族ではなく人間なのかという点と、申告するスキルについてだけだ。性別はどうでもいい。
「まっ、ハンターとして活動するつもりは皆無だし。とにかくハンターの身分証だけ手に入ればよし、と」
そう言うわけで俺は、孤児院のあるハーベルの町から乗合馬車で二時間ほど行ったところにあるアガサという町のハンターギルドにお出かけしたのである。
もちろん女装して。
◆◇◆
ギルドで登録をしたいと申し出ると、申請書類を書くように案内された。
「んーなになに、名前、生年月日、年齢、性別、スキルか。それとハンター志望理由か……」
とりあえず俺は、事前に考えてきた設定を書いた。
名前:レイラ
生年月日:不明(多分6月くらい)
年齢:15歳
性別:女
スキル:『魅了・誘惑・男殺し』
志望理由:魔族に家族を殺され孤児院で生活している。来年独り立ちしなければならないため、ハンターを志望した。薬草採集やお手伝いなど簡単なお仕事があったら受けてみたい。
女としての名前はレイラにした。レイとレイラ、似たような名前の方がうっかり間違えても違和感がない。
元々俺が転生する前はレイイチという名前だった。レイという名前は、孤児になった時に自分でつけたものだ。やはり慣れ親しんだ名を完全に捨てようとは思えなかったのだ。
登録にはこれだけでいいのだから楽勝なものである。
実際に仕事を受けるかどうかは抜きにして、とりあえずポーズだけは書いておかないといけない。流石に身分証目的ですと書けば、却下されるだろう。
◆◇◆
俺が用紙をカウンターに持っていこうとした時、トラブルが起こった。
「おい! なんで依頼が未達成なんだよ!?」
「申し訳ございません! グレイブ様のお持ちになったホーンラビットは焼け焦げてしまっていて……。依頼人の方は毛皮が綺麗なものを求めていて――」
「十分綺麗だろうが!?」
というクレーマーハンターvsギルド受付のいざこざが発生したのである。
俺的には関わり合いになるのはイヤだとも思ったのだが、練習台にちょうどいいんじゃね? と思い、声をかけてみることにしたのだ。
結論から言えば、カウンターで騒いでいたグレイブという男は俺の微笑み1つで陥落した。
グレイブは俺に「うさぎさん、焦げちゃったんですね……今度は綺麗なうさぎさんが見たいです」と言われ、「任せろっ!」といってハントに向かった。
弱い、弱すぎるだろ。
いや、俺の女装テクニックとスキルが凄すぎるのか?
そんな時、騒ぎを聞きつけたギルド長が現れたのだ。
「君がグレイブさんを説得してくれたのかい?」
「説得というほどでは……」
「私は、アガサのハンターギルド長のヴィンセントという。ほう? 君は登録にきたんだね」
40代後半、いかにも猛者といった風体。筋肉ムキムキでそこかしこ傷だらけのスキンヘッド。かといっていかついわけではなく、人当たりのよさそうな人物に見えた。
ギルド長のヴィンセントさんは、俺が申請用紙を持っているのを見てそう言って、俺から用紙を受け取った。
「成程――素晴らしいスキルだ、君良かったらギルドの受付嬢をやってみないか?」
と言うわけで、勧誘されたのである。
スキルの上達にもつながるし、何より給料が良かった。とりあえず16歳になるまでの1年間の契約。
◆◇◆
こうして俺は、優良のバイト先と、女としての身分証をゲットしたのである。
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