69.急転
ついさっき、唇を捧げてまで勧誘成功した即戦力社員が即離職してしまった。俺がブラックな使い方をしようとしていたのは否定しないが、まさかものの数分で活躍一つせずに殉職するとは思わなかった。
「くそっ、いくら何でも早すぎる! そんなにすぐに退場する奴があるか!?」
城からの脱出、その頼みの綱だったタケル。
しかし奴は、恋奴隷にしてから僅か数分で弓矢でハリセンボンからの発破で殺害されてしまった。爆破で千切れ飛んだ遺体は、光の粒子になって消えた。
俺はその様子を曲がり角の陰に隠れて見ていた。
俺は思った。
多分車に轢かれて重傷とかになっていたであろう他の勇者たち4人と違って、タケルが乗っていた車は塀にぶつかり爆発炎上している。アイツは元の世界に帰っても、肉体は大やけどで死んだほうがましな有様なのではないか? と。
「自業自得だ! 身勝手な理由で俺を轢き殺しやがって、死んだほうがましの状態のまま苦しんで生きろってんだ」
他の勇者たちが無事に快復することを祈りながら、俺はタケルだけは永遠に苦しめばいいと小さく悪態をついた。
タケルが消滅したことを確認した王は、高笑いした。
「全く、勇者はどれもこれも使えぬ。王家伝承のスキルだから少しはましな者を呼び出せると思ったのに。呼び出せたのは性癖ネジくれマンとメス堕ちネクロマンサー、色物オカマ、筋肉ダルマ女。これでようやく全員処分できた、ハハハハハッ!」
「誠にこの度は大変なことに……」
王の横でへこへこしているのは、ちびはげデブの大臣だ。
「酷い目にあった。初めの勇者を生贄にしてより強力な勇者を召喚して、魔族との戦争に投入するつもりが――あのタケルめが、“洗脳”などという危険極まりないスキルを持っていたのが誤算だった」
「誠に、誠に陛下のおっしゃる通りでございます! 我らは洗脳されまいと、奴の機嫌をとって言うなりになるしかなく……。殺してしまおうにも、四六時中メス堕ちネクロマンサーがゾンビたちでガードしていて手が出せず。ようやく処分できましたな! しかし勇者を全て失ってしまったのは、痛手でございました」
どうやら国側はタケルのスキルを警戒して、排除のチャンスを狙っていたようだ。
しかしタケルにはメス堕ちさせたアヤトというネクロマンサーがいる。操るゾンビの中には、元勇者パーティーのスティーブやエカテリーナ、マリアンヌがいたため、ガードが固く殺害できずにいたのか。
そんな折り、俺がタケルを恋奴隷にして一人でのこのこと歩かせていたもんだから、即殺害されたわけか。くそっ!
「まぁよい、勇者は全て失ってしまったが、また召喚すればいい。ひとまずはレイラという小娘を何としても捕らえよ! まだ城の中にいるはず。生死は問わぬ。何としても捕まえて、その死体を城門に吊るしてくれるわ! 勇者殺しの魔族として、開戦の狼煙としてくれようぞ!」
「ははーっ!」
やっべ! 早く逃げなきゃ!!
◆◇◆
俺は逃げていた。城の兵士たちが追ってくる。
あっさり発見されてしまった俺は、とにかく逃げなければと迷路のような城の中を必死に走り回っていた。
何も考えずに逃げ回っていたのが悪かった。
俺は無意識に上へ上へと逃げてしまっていたようで、気が付くと城の屋上部分に辿り着いていた。
「しまった! もう逃げ場がないっ」
迫る兵士たちから少しでも逃れようと、塔のように突き出た部分によじ登る。……そんなことをしても、焼け石に水なのだが。
「いたぞっ!」
「総員整列、矢を構えろっ」
「この魔族めっ!」
矢を持った兵たち20人ほどが整列し、矢を構え発射体勢を取ろうとする。
「くそっ! 俺の異世界ライフはここまでか!」
ハリセンボンになることを覚悟した時だった。ドーンッと城全体を揺るがすような大きな爆破音がした。続いて煙や火の手が上がる。
え? なに?
兵士たちも突然の事態に慌てふためく。
「なっなんだ、何が起きた! 爆発か!?」
「城門の方だ!」
「何があった!?」
その時1人の兵士が屋上に駆け上がってきて、こう叫んだ。
「総員、城門前へ援軍へ向かえっ! クーデターだ!!」
えっ、唐突になに!?
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唐突にクーデターです。クーデターを起こしたのは……。
レイの知らないところで、色々人間関係というものがあるのです