67.6人目の正体
爆発だったのか? 正直言ってよく分からない。
一瞬で統べてが黒い光に包まれたかと思ったら、気が付いたら俺は地面に倒れて気絶していた。凄い風が吹いた気がする。
「なんかブラックホールみたいな感じだったような。怖すぎるだろ、スキル“自爆”。スルバってなんか、某天空の城の滅びの呪文を逆さにしただけじゃ……」
謁見の間は嵐でも吹き荒れたかのようにボロボロになっていた。
「毎度毎度、爆発に遭ってんのによく俺は助かってるな。今回もヤバかったけど、俺を取り囲んでいたゾンビたちが盾になって守ってくれていたようなもんだし」
安定の勇者爆発。
ソウタ達の時は大岩の陰に隠れていたおかげで助かったし、マリーゴールドの時は吹き飛ばされ地面に叩きつけられたものの爆発の威力が弱めだったから助かった。そして今回も、俺を逃がすまいとガードしていたゾンビたちが盾となり助かった。
特にスティーブ……。こいつは俺を完全にガードするように、俺を抱きしめたまま動かなくなっていた。
最期までレイラに執着していたのだろうか。結果的に俺は無傷で済んだのだから、感謝はしよう。……色々複雑な思いだけれど。
「あの2人は無事に元の世界に帰れたのかな」
2人がいた玉座付近は綺麗にえぐり取られたかのように円形の穴が出来ていた。綺麗さっぱり消え去ってしまっていた。
アヤトのネクロマンサースキルで操られていたゾンビたちは、全て死体に戻っているようだった。術者が死んでスキルの効力が亡くなったのだろう。動くものはない。
しかし視界の端で一瞬何かが動いた気がした。
「え? くっ!!」
俺は何かが激突してきて、倒れ込んだ。
ぶつかって来たのはマリアンヌのゾンビだった。少し離れたところに血だらけのタケルが立っている。タケルが俺に向かって、ズタズタボロ雑巾のマリアンヌゾンビを投げつけてきやがったのだ。汚いっ!
「お前っ、まだ生きてたのかよ!?」
どうもタケルも俺同様にゾンビを盾にして自爆の衝撃を乗り切ったらしい。もっとも俺のように数十体のゾンビガードがあったわけではないようで、かなりのダメージを負っているように見えた。
「くそ、くそ、くそっ、どいつもこいつもふざけた真似をっ! こうなったら誰でもいい、とりあえず洗脳して俺の手ごまにしなければっ」
そう言って奴は俺の方に近づいてくる。
ヤバイ、このままでは俺も洗脳されてしまう。
しかしタケルは俺を見て驚愕の声を上げた。
「なっお前っ!? ついてるのか!?」
マリアンヌゾンビが激突して倒れた際に、俺がドレスのように体に巻き付けていたサテンの大布がはだけてしまっていた。
裸体フルオープン状態。真っ平な胸と、ブリーフ。女にはあるはずのないモッコリ感が丸見え状態になっていた!
タケルはそれを見て、狂気じみた笑い声をあげた。
「はっハハハハハ! そうか、君は男の娘だったんだねっ!? アヤカ以上の美しさだ! 洗脳して俺のものにしてやる! 俺はついてるぞっ! 元の世界では俺の性癖が職場でバレてクビにされて、自暴自棄になって車で沢山人を撥ねて殺したがっ!! 車が爆発炎上して焼け死ぬかと思ったら、異世界に召喚された!! やっぱり俺はついてるっ!!」
「なんだって!? そうだテメーその顔っ思い出したぞ、どっかで見たことがあると思ってたんだ!!」
狂気じみた顔で独白するタケルを見て、ようやく俺は思い出した。
そうだ、この顔、この狂気じみた表情! 俺が初めてこいつを見た時に感じた既視感っ、俺が車に轢き殺される直前に見た運転手の野郎だっ!!
あの事故で即死した俺、多分意識不明の重体になって勇者としてこの世界に召喚された勇者たち。
事故の被害者は俺、マリーゴールド親子、ユカ&アヤトのカップルの5人。そしてこの6人目のタケルという男は、事故の被害者ではなく“加害者”の方だ!
マリーゴールドは言っていた。『暴走車はブロック塀に激突して爆発炎上した』と。
間違いないっ! タケルは俺を轢き殺した犯人だ!!
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多分次あたりに、どうでも良い感じでタケルは爆破されます。