62.君の彼氏、彼氏いるよ
女の子の声がした。幻聴じゃない。
「いますっ、隣の牢に」
俺は慌てて答えた。
すると女の子は嬉しそうな声を上げた。
「よっ良かったー、ずっと私1人だったから心細かったんです!」
こんな状況で誰かがいるというのは心強いけれど、牢屋に入れられているということは、この女の子何かやらかしたんだろうか?
「あの、差し支えなければでいいんですけど、貴女はなんで牢屋に? あっ、ちなみに俺は冤罪です。気絶させられて、気が付いたら牢屋にぶち込まれていました」
「冤罪なんて可哀想っ! 私も何でこうなっているのか良くわからないんです。……あの、信じてもらえるか分からないんですけど、私別の世界から来たんです。事故に遭ったと思ったらこの世界に召喚されてて、あっ、彼氏と一緒でした」
ん? 何かどっかで聞いたことがあるような話だ。
事故に遭って、彼氏と一緒に異世界に召喚されたの?
あれ、でもあの事故に遭ったカップルはタケルとアヤカのクソップルじゃなかったっけ? 事故違いとかそんなことある?
「彼氏は一緒に召喚された男の人に連れていかれちゃって、それから会っていません。私は半年くらいお城の部屋に軟禁されていたんですが、今朝この牢屋に入れられちゃって……。うぅ……アヤトに会いたいっ!」
「そっそれは大変なことになっちゃってるんですねっ」
俺は取りあえずそう返しつつ、結構混乱していた。
えっ? アヤトって誰? アヤカじゃなくてアヤト? アヤカは女だし、んん?
「あの、多分俺も貴女と同じ事故に遭ってこの世界に飛ばされた者です。レイイチって名前です」
俺は久しく名乗っていなかった前世の名を出した。元々今生のレイという名前も、レイイチから取って自分で名付けたものだ。
「えっ!? 本当ですか! 良かった! あっ、私はユカって言います」
「えっと、もしかしたら違う事故かもしれないので一応貴女が遭った事故について教えてもらえませんか?」
「ちょっと記憶があやふやなんですが、確か〇月〇日××交差点付近の歩道で、暴走車に撥ねられました。多分ワザと突っ込んできた車で、最初に高校生の男の子を撥ねて、それから仮装みたいなオカマと……私と同じくらいの年齢に見えたから18歳くらいのヤンキーを撥ねたんです。それから私とアヤトに突っ込んで来て……」
同じだ。その事故で間違いない。
最後に撥ねられた歩道を歩いていた2人――このユカって子とアヤトというカップルだ。
だとしたらおかしい。
タケルとアヤカは何者なんだ? マリーゴールドの証言と合わせて考えても、タケルとアヤカも召喚された人物だと考えて間違いないが。
考えられることは――。
「多分同じ事故ですよ、俺もその事故でこの世界に来たんです」
「そうなんですね! よかった、同じ境遇の人がいて。あの、アヤトを見ませんでしたか?」
「アヤトって人は知らないんだけど、アヤトって24歳くらいの好青年風の優男?」
考えられる可能性としては、何らかの理由でアヤトはタケルという偽名を使っていること。ただその場合、タケルの彼女のアヤカって誰やねんって話になるが……。
しかしユカの答えは俺のアヤト=タケル説を否定するものだった。
「いいえ? アヤトは私と同じ18歳です。凄く華奢で女の子みたいって言われるくらいなので、その24歳くらいの優男には見られる感じじゃないと思います」
「えっ……ごめん、じゃあ人違いかも?」
ますます疑問は深まるばかりだが、アヤトの容貌を聞いた俺に別の可能性が浮かんできた。
凄く華奢で女の子みたい……だと?
「ごめん、変なこと聞くけど、アヤトって何かバカっぽそうな、間延びしたような口調じゃない?」
「そっそうです! 何かギャル的な口調です!“ですー”とか“よろしくぅ”とかそんな感じです!」
「……多分俺、アヤトのこと知ってるわ」
「本当ですか!? アヤト生きてますか!?」
「うん、生きてるし、元気にしてると思う」
俺は言えなかった。君の彼氏、彼氏いるよなんて。
多分アヤトは女装してアヤカと名乗っていることを。そしてタケルという男の恋人とラブラブであることを――。
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